【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第9章

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レイシスの今までの態度は『呪い』だけのせいじゃなかったとしたら?なんて言われて、もちろんそのことが過らなかったと言ったら嘘になる。

ただのレイシスの性格かもしれないけれど、じゃあ今のレイシスはどうなのだろうか。

悪夢を見ていると話してくれたときに彼が言っていたのは『自分の気持ちとは反対にノエルに冷たい態度を取っていた』ということだった。

『悪夢』の中で見たレイシスだって本物なのは間違いない。空っぽの棺の前で泣いていた彼も、ノエルの後を追って亡くなった彼も、冷たい態度だった彼も、確かにレイシスだ。

死んだあとにノエルを運命だと言うような、最低な人だけれど。

でもこの世界に生きている『17歳のレイシス・ブラウン』は、自分が側にいることでノエルが死んでしまうかもと思い、それでも離れられないと葛藤して変わろうと努力してくれた。

今の彼は呪いに打ち勝ち、まっすぐにノエルのことを『愛してる』と言ってくれる。

ノエルはそんなレイシスのことを疑うのではなく、信じたいという気持ちに変わったのだ。

「……レイシス様も俺たちと同じように戻ってきてるわけじゃないよね?」
「そんなことするわけない。戻ってきてるのは俺とノエルだけで、レイシスには呪いの代わりに悪夢を見せてる。ノエルが繰り返し死ぬ悪夢」
「そう……」
「前はレイシスに呪いをかけたのに失敗したから、今度はノエルに呪いをかけようと思ったけど……戻ってきた翌日、レイシスとイヴァンの小説を書くのだと言うから驚いたよ。これなら婚約も解消されるかと思って期待したのに……なぁ、ノエル。いつからあいつに情が湧いたんだ?」
「……」
「わざわざステラに魅了魔法をかけてもらって本を出したのに、なにやってるんだよ。世論も変わってきてたのに……そうだ、いっそのことイヴァンとレイシスに魅了魔法をかけてもらったらどうかな?」

妖精にしか使えない『魅了魔法』は、惚れ薬のようなものだ。

物だけではなく、もちろん人に対しても使えるらしい。ただ、妖精が使う魔法は強力なので使い方を誤ると、取り返しがつかないことになり大変なことになってしまう。

たかが原稿に微力な魅了魔法をかけただけで世論がうごきそうだったのだから、魔法をかける対象を人間にしたら――

二人はお互いに好きになって、結婚するだろう。

目覚めた当初はノエルもイヴァンとレイシスにそうなってほしいと思っていたが、今は状況が変わってしまった。

レイシスはノエルの『アルファ』で、彼と歩んでいくのは自分だと今なら思える。

それにイヴァンの本当の好きな人が分かったから、イヴァンとジルベールのことも応援したいのだ。

ノエルはイヴァンとレイシスの幸せを願っていた。そして、ウィンターのことも。

でもウィンターがその気なら、彼の思い通りになんてさせてやるものか。

「人がせっかく、ノエルやイヴァンに強制的にヒートを起こさせたのに。あいつは襲うどころか守りやがった。イヴァンも、ノエルが邪魔をしなければイヴァンはレイシスに襲われてただろうに……惜しかった。本当にチャンスを無駄にしたよ」
「あれも、やっぱりウィンターが……!」
「ああ。俺のフェロモンを使った香水を作った。なかなかの効き目だっただろ?いい夢見られたかな、ノエルは」

甘い香りの正体はやはりアルファのフェロモンで、香水として調合したらしい。自分がその場でフェロモンを出さなくても香水でいつでもオメガのヒートを誘発することができるのだから、ある意味、純粋なフェロモンよりも厄介な代物だ。

そしてウィンターが言う『いい夢』に覚えがあった。ノエルは突然のヒートで倒れたとき、自分の体を触られる夢を見ていたのだ。その相手はてっきりレイシスだと思っていたのだが、ウィンターの口ぶりからして夢の中の相手は彼だったのだろう。

そう思うと吐き気がしてきて、ノエルは思わず俯いた。

「ああ、夢の中での行為だから"婚前交渉"には入らないさ。それよりよっぽど、ノエルとレイシスがやってることのほうが婚前交渉だろうけどね」
「え……」
「知らないと思った?まさか二人があんなことする仲になってるとはな……ノエル、婚前交渉っていうのは挿入だけじゃないんだよ。たとえ前戯だけでも、立派な性行為だ。しかも王宮の中であんな淫らな行為……俺が陛下に言ったら、二人はどうなるかな?」

やはりあの夜、ノエルとレイシスの行動はウィンターに疑われていたのだ。

ウィンターはノエルには監視魔法を使えないと言っていたけれど、この王宮全体の防護魔法をホワイト家が担っているのなら、あの時の部屋の様子を覗くのも容易かっただろう。

ノエルは取り乱さず極力冷静でいることに努めたが、それとは裏腹にウィンターはくすくす笑っているので、今更取り繕っても意味がないのが分かる。

ウィンターの瞳に全てを見透かされているようで、ノエルは内心とても居心地が悪かった。

「ノエルが教会送りになったら、この前言ったように俺が拾ってあげるよ。そしてノエルの意志を継いで俺がイヴァンとレイシスを結婚させてあげる。そしたらノエルは俺のオメガだ。まだ、あいつからうなじを噛まれる前だから」

ウィンターの話を聞いていると、彼の要求は至ってシンプルだ。

彼と『ファントム』はイヴァンとノエルを『神様の元へ返したい』けれど、ウィンターはノエルを自分の番にしたい。

そのために邪魔なレイシスを排除したいし、ノエルとレイシスの婚約を解消させたい。

ただウィンターの要求を飲んだとして、ノエルをはじめレイシスたちのその後はどうなるのだろうか。

「もし俺がレイシス様と婚約を解消してウィンターの番になるって言ったら、どうなるの?」
「そしたら卒業後はすぐ郊外に引っ越そう。ホワイト公爵家が所有してる地域があるから、その屋敷で一緒に暮らしたらいい。イヴァンの侍従なんて面倒な仕事はさせられないし、ノエルは何も考えずに、ただ俺と一緒にいてくれたらいいよ」
「……レイシス様やイヴァン殿下には手出ししないって約束してくれる?」
「ノエルが嫌だって言うなら、そうしてあげる」

――あ、嘘だ。

今まで見てきたウィンターが『本物』であれば、彼の目が笑っていないことくらいすぐに分かった。

彼はノエルを郊外の屋敷に閉じ込めて、そのあとにイヴァンを神様に返し、レイシスまで殺すつもりだろう。

ノエルを手に入れたらあとはどうでもいいというような雰囲気を感じ取り、ノエルはぞわっと背筋が粟立つ。

今はまだまともに会話をしてくれているけれど、今の状態でウィンターを怒らせたらどうなるか。

「とりあえず、ノエル。発情してもらおうかな」
「え?」
「ヒートの最中にうなじを噛むほうが痛みより快感に変わるからいいらしいよ。ノエルに痛い思いはさせたくないし、香水があるからすぐ発情できると思う」
「ちょ、っとまって、ウィンター!」
「……何を待てばいい?俺は十分、待ったと思うけど」

香水の瓶をチラつかせて怪しく笑うウィンターの顔を、ノエルは鋭く睨みつけた。


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