【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

文字の大きさ
63 / 81
第11章

しおりを挟む


「さーて、ノエル様!頭の先から爪先まで、かんっぺきに磨きましょうね♪」
「わたくし共がそれはもう素敵なお召し物を用意していますので、お肌も髪の毛もつやっつやにいたしましょう!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って二人とも!!」

レティネ教会で挙式をしたあと、ブラウン家の大広間で参列客とパーティーを開いたのだ。。

そして最後の一人まで見送りが終わりどっと疲れているところにルナとセシリアが現れて、浴室へ連行された。

ノエルが今度から使用する、ブラウン家の『夫夫』の寝室と浴室。

ただ、疲れているノエルはそんなことを考える余裕もなく、彼女たちに全てを任せていたら二人がひどく張り切り出したので慌てたのだ。

「磨くってなに?俺、疲れてるんだけど……」
「ノエル様、そんなことでは困ります!」
「ええ?」
「今夜からしばらくは大事なお時間なんですから!」
「今夜からしばらく……?」

そういえば、イヴァンも『ノエルはしばらく仕事は休みだ』と言っていたし、レイシスもそれに合わせて休みなのだと言っていた。

もこもこの泡で全身を洗われながらその意味をぼんやり考えて、ノエルは『まさか……!』とハッと我に返った。

「こ、こんやって、その、そういうこと!?」

『今夜』のためになぜ二人が張り切っているのかが分かり、ノエルは今更ながら顔も体も一瞬で赤くした。湯船に浸かっているせいでのぼせたのか、くらりと眩暈がする。

そんなノエルの反応にルナとセシリアはにんまりと微笑み「ノエル様も自覚されたことですし、わたくし共にお任せくださいね♪」と、本当に頭の上から爪先までピカピカに磨かれた。

「レイシス様とお揃いの香水を振りかけましょうね」

以前はルナが調合してくれていた香水を使っていたが、レイシスと初めて同じ香水を購入したあの日から、二人とも同じ香りをいつも身に纏っていた。

香水の中身がなくなる頃にはレイシスが新しい香水を贈ってくれて「僕と同じ匂いを絶やさないようにしてください」なんて言われたものだ。

前の人生ではオメガのフェロモンも厄介なのに香水なんてもってのほかだと言っていた人が、今では自分と同じ匂いをつけていてほしいなんて、随分変わったなと思う。

――いや、変わったというか、本来の彼に戻ったというか。

レイシスは本当に、この2年で感情表現が豊かになった。

前までは無表情で冷たい雰囲気を纏っていた彼が、今ではふわりと柔らかく微笑む素敵な紳士ともっぱらの噂だ。

周りからチヤホヤされているのは気に食わないけれど、どんなに綺麗な人が話しかけても彼は聞く耳持たず「みなさんもご存知の通り、心に決めた方がいるので」と丁寧に断っているらしい。

本当に彼は昔からノエルのことしか眼中にないと、この2年で言葉でも態度でも示されてきた。

戻ってきてからより戻る前のほうが生きた時間は長かったし、怖くて冷たいレイシスを見てきた期間のほうがまだまだ長い。

ただそれでも、たったの2年だけれど、レイシスがもうあの頃のような態度に戻ることはないだろうと確信にも似た自信がノエルにはある。

なんせ彼は、ノエルのことを本当に愛しているのを分かっているから。

「る、ルナとセシリアめ~~~…っ!」

前の人生ではノエルが嫁いでもヴァレンタイン家の侍女として置いてきたルナは、ノエルたっての希望でブラウン家に連れてくることを許可された。

元々ノエルを慕ってくれていたブラウン家の侍女・セシリアとの相性もよく、二人は姉妹みたいに仲がいい。

やはり絶対的な味方が一人でもいると違うものだなと、ノエルは密かに安心したものだ。

信頼しているそんな二人から全身を磨き上げられ、極め付けにシルクのナイトガウンだけを着せられて寝室に閉じ込められた。

夫夫のために置かれた、ただただ大きいだけのベッド。

ベッドサイドのテーブルには香水の店で見たような綺麗な瓶が置かれていて、とろっとした液体が入っていた。この状況をさっきまで理解していなかったノエルにも、それが潤滑剤だと分かる。

今から、レイシスに抱かれるのだ。

結婚する前、片手(いや、両手かもしれない)で数える程度だがレイシスとは何度かそういう雰囲気になったことがある。

そのときはお互いの性器を擦るだけだったり、ノエルの中に指を入れて前戯だけをするなど、挿入以外のことは大体してしまったように思う。

「あとは、うなじを……」

きっと今日、うなじを噛まれる。

そうすると、ノエルは身も心も、正真正銘レイシスの『オメガ』になるのだ。

彼の番になり、彼だけのオメガになると考えると体が熱くなる。まだ触れられてもいないのに想像しただけでノエルの腹の奥がきゅんっとして、シーツの冷たさと対照的な自分の体を抱きしめた。

「………ノエル?」
「っ!」

寝室のドアが開く。

ドアに背を向けているノエルの背中にレイシスが話しかけ、ベッドに近づいてくるのが分かってドキドキと心臓が脈打った。

「ノエル、どうしてこんなにフェロモンが……ヒートがきましたか?」
「へ……?」
「体が熱い。息も乱れて、涙目で……濃いフェロモンがアルファを誘ってるの、分かっていますか?」
「ひぁ、れ、れいしすさま……!」

レイシスに言われて初めて気がついたが、ノエルは確かに発情していた。

ヒート周期はまだ先だったのに、突然襲われた熱と欲にノエルは頭の中がぐちゃぐちゃで、レイシスの顔を見上げて思わず涙が零れ落ちる。

レイシスはそんなノエルを抱きしめ、頬を伝う涙を唇で掬った。

「今からされることを想像して、僕を誘ってくれたんですか?」
「そ、そんな……!」
「"今夜"、何をされるか分かっていなかったのに、ようやく理解して恥ずかしくなりました?」
「やぁ、レイシス様……っ」
「逃げないで、ノエル。今日はどんなにあなたが拒んでも、僕は離しません」

何年、我慢してきたと思っているんですか?

そう言いながらノエルを押し倒したレイシスの銀色の瞳が、妖しく光った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...