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第11章
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しおりを挟む「――ノエル・ヴァレンタイン、レイシス・ブラウン。ロードメリアの神の名のもとに、二人をいま夫夫と認めます。それでは、誓いの口付けを」
周りの音が何も聞こえない。
ものすごく大勢の人がこちらを注目しているのに人の視線も気にならないし、ノエルの視界には優しく微笑んでいるレイシスしか映っていない。
二人とも白いタキシードを着て、ノエルの手をぎゅっと握っているレイシスの体温だけを感じる。
今だけは正真正銘、この世界にはノエルとレイシスだけしかいないような気がした。
「ノエル」
「レイシス様……」
「愛してます、ノエル。これまでも、これからも」
そう呟いたレイシスの顔が近づいてきて、ノエルはゆっくり目を瞑る。
ふにっと柔らかい唇が重なった後、わぁっという歓声と共にけたたましい拍手がレティネ教会に鳴り響いた。
ノエルとイヴァンにしか見えていないけれど、ステラとオーロラをはじめとする妖精たちの魔法で頭上からキラキラとした粉が降ってくる。
その粉はどうやらレイシスたちにも見えているようで、宙を見て嬉しそうな顔をしていた。
全ての人から祝福されていると感じているとノエルの頭にレイシスが口付けて、涙で煌めいている瞳でノエルを見つめた。
「今日という日を僕と迎えてくださって、ありがとうございます」
あの事件からあっという間に年数が経ち、ノエルは20歳、レイシスは19歳を迎えた。
ノエルは卒業後、予定通りイヴァンの侍従として王宮に勤め始め、今のところは順調に仕事をしている。
レイシスも学園を卒業後は宰相である父の元で仕事をしていて、次期宰相として期待されている若手だ。
『例の事件』に関しては取り調べ中に教団員の大多数が自害し、ホワイト公爵家夫妻も自ら命を落とした。
レティネ教会の元大司教であるヴェンデリン・ボーデンも不審死を遂げ、王宮の牢屋に拘束されているのはウィンター・ホワイトただ一人になった。
不審死や自害についての理由や教団についての詳細は解明されないまま2年が経ち、ウィンターはどんな取り調べにも頑なに口を割らないという。
この2年の間に王宮はオメガ売買の制圧やファントムの残党を取り締まり、オメガ売買についてはほとんどと言っていいほど抑圧したらしい。
ジルベール率いる第一騎士団が国の警備を強化してくれて、ロードメリアの治安はよりよくなっている。
ノエルに関してはイヴァンの侍従としての仕事だけではなく、もしかしたら彼が25歳になった時に訪れるかもしれない悲劇を回避するべく、王宮医師や薬師に弟子入りして毒の解毒法や解毒剤に使われる薬草の栽培や研究なども行っている。
そしてイヴァンと一緒にレティネ教会の運営もしており、たった2年の間にレティネ教会は昔と同じようにたくさんのオメガの子供を保護する教会になった。
オメガ売買やファントムの存在がなくなったことで、あまり生まれないから『希少』だと言われていたオメガの数がきちんと把握できるようになったのだ。
王族や貴族以外のオメガはノエルが思っていたよりも多く生まれていて、自分たちじゃ育てられないと生まれてすぐに相談してくれる人も増え、そんな子供たちを教会で保護している。
いまの所レティネ教会の運営自体はイヴァンが変わらずに担っていて、聖職者に関しては王族が昔から通っている教会でベータの神父やシスターをスカウトしてきて、どうにか体制が整った。
ノエルの周りの環境は前とはほとんど全てが変わってしまったけれど、レイシスとの結婚は前と同じく20歳で迎えられた。
「ノエル、レイシス、結婚おめでとう。二人の晴れ姿を見られてすごく嬉しいよ」
「殿下、ありがとうございます。ちょっと早かったかなという気もしますが……殿下より先に俺たちが結婚することになるなんて」
「な!ぼ、僕がいつからこの日を待っていたと思ってるんですか……!」
「ふふっ。冗談です、冗談」
「はは、二人はやっぱり仲がいいな。羨ましい」
実はイヴァンとジルベールは、イヴァンの卒業後に正式に婚約をした。
だが、イヴァンはオメガ保護法の改変やレティネ教会のこと、ジルベールはオメガ売買やファントムの制圧に忙しかったので、結婚の話はもう少し先らしい。
だからノエルは前の人生のときと同じ20歳で結婚したが、ノエルたちより前に結婚をしたイヴァンはそうはならなかった。
やはり、着実にこれからの出来事は変わってきているのだろう。
「オーロラにも素敵な演出を手伝ってもらって、ありがとうございました」
「私たち以外に妖精の姿が見えないのは残念だけど、いい演出だったな」
「とても美しかったです。ステラやオーロラには直接顔を見てお礼が言えたらいいんですけど……」
『ちゃんと伝わってるわよ、レイ!』
『そうよ。安心しなさいな、レイシス』
二人の顔が見たいと言いながらしょんぼりしているレイシスの頭上でステラとオーロラがくるくる回りながら慰めている。
そんな二人の様子を見てノエルはイヴァンと顔を見合わせて微笑んだ。
「私もいつか結婚するときはレティネ教会でするよ。光の差し込み方がすごく綺麗だった」
「ステンドグラスも綺麗ですもんね。殿下のご結婚のときはお手伝い頑張ります!」
「ふふ。経験者がいてくれると心強いね」
前の人生でレイシスにとって最悪な場所の一つでありノエルが死んだ場所でもあるレティネ教会で結婚式を挙げるのは正直迷ったけれど、教会もノエルたちも生まれ変わったところを見せたくて、レティネ教会を選んだのだ。
結果、レティネ教会で結婚式を挙げてよかったと思う。
『オメガのための教会』で色んな人から、神様から、ノエルとレイシスの結婚を祝福された気がした。
「そうだ、ノエル。今日からしばらくは休みになってるから、ゆっくりしなさい」
「え?」
「ありがとうございます、殿下。僕のほうもノエルに合わせて休みを取るつもりなのでありがたいです」
「え、え?なんで休み……」
「あははっ!これはまた……骨が折れるな?レイ」
「本当ですよ……でもまあ、頑張ります」
「なんで笑うんですか?どういうこと?」
今日からしばらく休み?どうして?と困惑しているノエルが『事実』に気づくのは、ルナとセシリアから入念に体を清められてからだった。
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