【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

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第12章

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 ◆6年後


「ははうえ、きょうはちちうえのおしごとをみにいきたいです。ルナといっしょにいってもいいですか?」

ちょこちょこっと側にやってきて、くいっとノエルの服を引っ張りながら見上げる、焼きたてのケーキのように可愛らしい男の子。

くりくりの大きなシルバーの瞳につやつやの真っ黒な髪の毛がさらりと揺れ、ふくふくな頬は熟れたりんごのように真っ赤に染めている。

あまりにもレイシスにそっくりだけれど、彼のようにきつい顔ではなく、どちらかと言えばノエルに似ている5歳の男の子は、朝食を共にした父親が着ていたものと同じデザインで仕立てた服をビシッと着ておずおずとノエルにお伺いを立てていた。

「エイル、父上にはお話しましたか?」
「はい!いつでもおいでとおっしゃってました!」
「そうですか。それじゃあ、ルナと行っておいで。母上はイヴァン殿下のお側にいますから、何かあればルナに連れてきてもらうんですよ」
「お任せください、ノエル様。このルナが責任を持ってエイル様のお世話をいたします」
「うん、よろしくね、ルナ」

ノエルとレイシスが結婚してから6年が経った。

今ノエルは26歳、レイシスは25歳。そして二人の間に生まれた可愛らしい息子は5歳になり、前の人生からは想像もつかないほど順風満帆な生活を送っている。

ちなみにイヴァンとジルベールも3年前に結婚したが、二人の間にはまだ子供は生まれていない。

婚約したはいいけれど二人とも多忙で、このままでは結婚もしないのかと周りのほうが焦っていたほどだ。

でも二人の長い長い恋はようやく実を結び、今では毎日幸せそうに暮らしている。

ただ、二人とも仕事人間なのが玉に瑕なのだ。

「イヴァン殿下のところに行く前に薬師のところに寄らないといけないから、エイルを頼むね」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
「ははうえ、いってらっしゃいませ!」

ルナをはじめとする使用人やエイルに見送られながら、ノエルはブラウン家の屋敷を出た。

実はノエルはこの年を迎えるのを密かに恐れていた。

それは、前の人生でイヴァンが死んでしまった年齢だからだ。

イヴァンが死んだ日が間近に迫っていて、毎日毎日不安が渦巻いて眠れない。

ノエルは卒業してからというものの、王宮医師や薬師に弟子入りをして医療の知識をつけていた。

それが功を奏して、手始めにレイシスの父親であるアルバート・ブラウンは亡くなる原因である病が発現することなく、今も元気に生きている。

レイシスにはまだまだ正式な宰相の席を譲らないと、笑いながらからかっているくらいだ。

だからきっとイヴァンの死も回避できるはず――

そう思いながら医療にも通じているノエルは、レイシスが前の人生で進めていたレガルドとの貿易を強く提案した。

なぜかと言うとレガルドは紅茶が美味しいだけではなく、万物の病に効くという薬草を育てている国だったからだ。

でもロードメリアのように高度な温室技術がないレガルドで薬草も育ちにくく、万物の病を治せる薬草というのもほとんど栽培できないのだそう。

稀に採れたものは王宮へ送られ、市場には出回らないのだという話だった。

なのでロードメリアの技術を輸出する代わりに、安定した茶葉の輸入(これは、レイシスが喜ぶだけだけれど)と薬草を育てる技術を教えてもらうという交換条件だ。

なんせレガルドでは一時期大変な流行病で国民が多く亡くなり、薬草の安定的な供給が課題だったから。

ロードメリアの温室技術と妖精の栽培維持方法を掛け合わせて、妖精がいない国でも安定した栽培ができるような技術を開発した。

レガルドとの交渉はレイシスが担ってくれて、彼の交渉術で2年前からレガルドとの貿易が開始されたのだ。

ちなみにだが、お互いの国の歴史書や書物の翻訳版も多く輸出入された。

つまり、ノエルが書いて完成させた『運命の真実』やレイシスが描いた『エーデ』は、国を渡ってしまったのだ。あちらでも人気なのだそう。

ノエルはさすがにイヴァンとレイシスの物語を紡ぐことはできなくて、途中からジルベールに似た騎士を出すことで『騎士×王子もいい……!』と再び世論を動かしたものだ。

エーデに関しては完結したものの、彼は今でも過激な絵を描いては本として密かに出版していて、運命の番をテーマにしか描かない謎の作家だと界隈では有名らしい。

「フェリクス先生、こんにちは。薬草をもらっていってもいいですか?」
「こんにちは、ノエル様。取りにいらっしゃるかと思って煎じておきました」
「わぁ、ありがとうございます!」

薬師のフェリクスとはすっかり顔見知りになり、今ではレイシスとは別に阿吽の呼吸が使える仲だといっても過言ではない。

「ノエル様とレガルドの薬師が共同開発した、万物の病を治す薬草と解毒薬は相性がいいようです。数種類の毒で試してみましたが、どれも完璧に回復しました。投与後一週間経ちますが、後遺症もなく大丈夫そうです」
「そう、よかった。観察ありがとう、フェリクス先生」

レガルドから輸入した万物の病を治す薬草だが『病』は治せても、毒にはあまり効かないものだった。

だから試しにノエルと妖精たちが協力して開発した質がいい解毒薬と合わせて新種の薬を作ってみたのだが、どんな毒にも効く解毒薬が完成したのだ。

これがあればきっと、イヴァンは死なない。

そのためにノエルは長い期間、薬の開発に時間をかけてきたのである。

「ノエル様は医療や薬に詳しくなかったのに、一体なんのために始めたんですか?」
「あー…ただ、守りたいものがあるんです。そのために必要な知識で」
「その大切なものは守れそうですか?」
「………必ず守ります、未来のために」

この国の希望であるイヴァンを、もう一度は死なせない。

これはノエルが死んで戻ってきてから揺るがない一つの信念なのだ。



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