【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

文字の大きさ
70 / 81
第12章

しおりを挟む


イヴァンのおかげでレティネ教会はほとんど再建した。

そしてこの国のオメガ保護法も変わったのだ。

まずロードメリア出身のオメガには出生時にオメガ出生書の届出が義務化された。

そして発情期が来た期間から番が見つかるまでの間、抑制剤を無償で提供することになった。ただこれはオメガだけではなく、アルファへの抑制剤も同様に平民以下の家庭で生まれたアルファには無償提供が義務付けられることとなった。こちらももちろん、医師の診断書が必要だ。

もちろんそれは出生届だけではなく、きちんとした医師の診断も必要になる。役人だけではなく医師も各所に配置するようにして、虚偽の報告ができないように対策をした。

オメガは生まれた瞬間から見た目で分かるけれど、偽装しようと思えばできる。

なので診断をする医師には最初に暗示魔法を解除する魔法をかけてもらい、オメガの見分けをしてもらうようにしているのだ。

金銭的に困っているオメガの家庭には一定期間の補助金を出すことにすると、わざとオメガを他国に奴隷として売る貧困層の家庭も少なくなったという。

オメガ売買に関してはジルベールが担当してくれて、徹底的に密輸の取り締まりを行った。

そして抑制剤の無料化や補助金についての財源は、レイシスやアルバートが奔走してくれて実現したのだ。

街の各所に役人を配置して出生書を提出できるようになっており、王宮としてもオメガの数を把握できるようになった。

そして前よりも不明のオメガが少なくなったのは、他にも体制が整ったからである。

レティネ教会に簡易的な学校を設置して、オメガの将来の就職先支援などにも力を入れるようになったからだ。

イヴァンに仕えるノエルのように貴族のオメガの侍従になったり、レティネ教会の聖職者や教職者、保護した子供を育てる養育者になったりとさまざまである。

今のところはイヴァンやノエルのように成人したオメガが多くないので聖職者や教職者は王宮から派遣した人間でまかなっているが、もうすぐ成人を迎える子もいてその後は教会に残って働きたいと言ってくれているのだ。

そして、赤ん坊だったイオリアも順調に育っており、ファントムにさらわれる影はない。

あと5、6年ほどするとウィンターが言っていた『運命の番』とイオリアが出会うので、注意深く見守っていかないといけないのだ。

もしかしたらウィンターがもしまだ潜んでいるかもしれない『ファントム』の教団員に、イオリアが運命の番と出会う話をしているかもしれない。

だから出会う前にあの子がさらわれる危険性もある。

そうならないように、ノエルはイヴァンだけではなくイオリアの見守りもしているのだ。

「おはようございます、イヴァン殿下。朝食をお持ちしました」
「ああ、おはようノエル。さっきエイルが挨拶に来てくれたよ。あの子は私より早起きだな」
「それはすみません……!レイシス様の仕事を見に行きたいんだと言っていて、俺は薬師のところへ寄ってきたので入れ違いでしたね」
「ノエルに似て愛嬌があって可愛らしいな、エイルは。しっかりしたところはレイ似だから将来は二人でノエルを過保護に守るだろうな」
「本当にそうなったら恥ずかしいです……」
「ふふ、いいじゃないか。私もそんなふうに優しい子がほしいよ」

ノエルが持ってきた朝食を食べながら小さく笑うイヴァンの姿に胸がぎゅっと締め付けられた。

別にイヴァンとジルベールは不仲ではないしどちらかといえばラブラブだけれど、お互いに日々忙しいからか子供を作るタイミングを計っているのだろう。

「ノエルに頼みがあるんだ」
「頼みですか?」
「ノエルは私の先輩になるから、色々と聞きたくて」
「先輩って……1歳しか変わりませんよ」
「年齢もだけど、人生の先輩として」
「え?」

何か悩んでることがあるのかと思って俯いたイヴァンを見たけれど、よく見たら彼は柔らかく微笑んでいた。

「………多分、妊娠、したんだ」
「……っ!」
「まだジルには言ってない。なんとなく、そう感じるだけで気のせいかもしれないけど……秘密裏に医者を呼んでくれないか?」
「わ、分かりました」
「ふふ、ノエル……まだ確定じゃないんだから、泣かないで」
「ふ、う……すみませ…っ。でも、う、嬉しくて……!」

この時代に戻ってきたとき、もちろん今度は自分が死なないように頑張ろうと思ったけれど、この国の希望であるイヴァンが幸せに生きてほしかった。

結婚や子供が全てではないけれど、大好きな人と結婚をしたイヴァンには可愛い宝物が増えてほしかったのだ。

だから『もしかしたら』かもしれないけれど、その可能性だけでも嬉しかった。

「ノエルは本当に優しいな。心を許せる兄弟がいるようで嬉しいよ、いつも」

泣いているノエルを引き寄せ、笑いながらイヴァンは頭を優しく撫でてくれた。

その後、誰にも見つからないようにイヴァンの部屋に医師を呼び、妊娠しているかどうか診断してもらった。

「おめでとうございます、殿下。ご懐妊です」

医師の言葉をノエルとイヴァンで5回ほど聞きなおした。

あまりにも信じられなくて、嬉しくて。

でも5回とも医師は「ご懐妊ですよ」と嬉しそうに言ってくれたのだ。

「殿下……」
「の、のえる……」
「お、お、おめでとうございます……っ!」
「ああ……っ、ありがとう」

今度は正真正銘、二人で大泣きしながら抱き合った。

幸せの形は子供だけじゃないけれど、新しい命は確実に宝なのである。

それがオメガでもそうじゃなくても自分の体の中に宿った命は尊くて、これからの未来を担う大切な宝物なのだ。

「これからは偏食せずに、赤ちゃんのためにちゃんと食べてくださいね、殿下……!」
「……あはっ!もう、ノエル!ふふ、でも、君の言う通りきちんと食べるようにするよ」

自分の妊娠が分かったときも嬉しかったけれど、イヴァンの報告も今までの人生で感じたことがないほど、とても嬉しかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...