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第12章
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しおりを挟むその日の夜、イヴァンが懐妊したことをレイシスに伝えると彼は嬉しそうに笑い、ノエルを後ろからぎゅっと抱きしめて話を聞いていた。
「……って、もう!俺の話聞いてますか?レイシス様」
「聞いてますよ。でも、あまりにも嬉しそうに話すノエルが可愛くて、見惚れてました」
「またそんなこと言って」
レイシスは真面目で冷静なのは変わらないけれど、感情表現が前より更に豊かになったと感じる。
ノエルに対しての愛情表現も惜しみなくしてくれるようになり、ノエルのほうが恥ずかしくなってしまうことも最近は多い。
「ジルベール騎士団長は呆然としながら、退勤前の僕のところに来ましたよ」
「え、どうして?」
「"人生の先輩として聞きたいことがある"って。何事かと思いましたよ、本当に。そのせいで帰ってくるのがいつもより遅くなりました」
「あははっ!俺もイヴァン殿下から同じこと言われましたよ」
「似たもの夫夫ですね、あの二人は」
ジルベールがレイシスの元を訪れていたなんて。
きっと伴侶として、父親として何ができるのか聞いておきたかったのだろう。
ジルベールはノエルたちより年上だしいつもしっかりしているので何でも知っているかと思ったけれど、父親になるのは初めての経験なのでジルベールも不安なのかもしれない。
そりゃそうだ、普段あまり取り乱さないレイシスでさえ、新米父親のときはすごかったのだから。
「エイルが生まれた時のことを思い出しました」
「……もうやめてください。今はそんなことないですから」
「ふふふっ。小さくてふにゃふにゃのエイルに戸惑って…本当に可愛かったです、あの時」
「僕は可愛くないです」
「可愛いときもあるんです、俺にとっては」
斜め上を向いてちゅっとレイシスの唇を奪うと、嬉しそうに笑った彼からぎゅっと抱き込まれて唇を奪われた。
レイシスの腕に抱かれながらふわふわのベッドに身を沈められ、何度も何度もキスをされると色んな瞬間の中で彼とキスをしている時間が一番幸せだ。
「……あのね、レイ」
「うん?」
二人きりのときはレイシスを敬称ではなく、愛称で呼ぶようになった。
レイシスはなかなかノエルに対して敬語を使う癖が抜けないようだけれど、それはそれで彼らしい。
ノエルがレイシスを愛称で呼ぶと彼は『この世で一番幸せな男です』というような、本当に嬉しそうな顔をするのだ。
「俺たちも……二人目、どうでしょうか?」
「え……」
「エイルも安産だったし、二人目は無理ですとも言われてないから……そろそろどうかなって、思ったんですけど」
ノエルを押し倒しているレイシスの頬に触れてそう言うと、シルバーの瞳が月明かりのせいではなく涙で煌めいた。
レイシスの頬に当てているノエルの手が彼の涙で濡れて、拭っても拭っても溢れてくる。
この涙の意味がどういうことなのか分からなくて焦っているノエルの手にレイシスの手がそっと重なった。
「すみません、困らせるつもりじゃなかったんです!」
「ち、違います、すみません……!困ってるわけじゃなくて、嬉しくて……」
「ほんと?嬉しいですか?」
「当たり前じゃないですか!ノエルからもう一人ほしいと言われるなんて、夢みたいです……」
もう一人ほしいというわがままが困っているわけではなく、嬉しくて泣いているというレイシス。
一人目を出産するときもレイシスはノエルの身を案じていたし、二人目がほしいと言ったら困らせるだけかと思っていた。
でも今日のイヴァンの嬉しい報告を目の当たりにして、やはりもう一人ほしくなったのだ。
「子供の命が宿るのはあなたの体なので、僕からもう一人ほしいとは言えなかったんです。エイルだけでも生まれてくれたのが奇跡なので……だから、ノエルからそう言ってくれて嬉しいです」
「そんなこと考えてくれてたんですね。俺は、またエイルのように新しい命をお腹に宿したい。レイと俺の子供がもう一人ほしい、です」
ノエルを押し倒していたレイシスがぎゅっとを抱きしめて寝転がり、鼻先同士でキスをした。
レイシスの涙の跡が残る頬を撫でると彼はノエルの指に擦り寄って甘えてくるのでくすくす笑っていると、再び甘く唇を奪われた。
「……エイルは完全に僕似なので、あなたに似た子がほしいです」
「つまり、オメガですか?」
「いえ、そういうわけではありません。オメガやアルファというのは二の次で、ノエルとの子供だからあなたに似た子もほしいんです」
そんなことを言われたら、きゅんとする。
切実そうな顔をしてレイシスが訴えるものだから『じゃあ俺に似た子供を産んでみせます!』なんて、できもしないことを言いそうになった。
性別も容姿も選べないのだから、自分に似た子供を産むなんて無理にもほどがあるのだけれど。
「じゃあ、さっそく今から……」
「ちょ、ちょっと待ってください!今から!?」
「え?だって、そういう雰囲気でしたよね」
「そうでしたけど!でも待ってください。ヒートの時期のほうが妊娠しやすいって知ってますよね?」
「知ってます。でも確実じゃないですよね?ならやっぱり、ヒート期間以外もしてみないと」
「そんなの、したいための言い訳じゃないですか!」
「………だから?」
「っ!」
ギラリ、シルバーの瞳が強く光る。
ラット中でもないのにベッドの中で見せる『アルファの顔』にノエルはずっと弱い。
いまここでノエルがヒート期間にしようと何回言ったとしても、彼の気持ちは変わらないだろう。
スイッチが入ってしまったレイシスを止める術は何年経っても分からないままで、ノエルはいつも負けてしまうのだ。
――まぁ、ヒート期間以外に求められるのは、嫌なわけではないけれど。
「あなたとしたいから誘ってるんです、ノエル」
「……もう、レイシス様はいつもずるい」
「そんな僕も好きでしょう?」
「………レイシス様のばか!」
「ふふ、可愛い」
その夜は結局、眠りについたのが何時だったのか全く覚えていない。
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