【本編完結】死んだあとに運命だと言われても、

社菘

文字の大きさ
71 / 81
第12章

しおりを挟む


その日の夜、イヴァンが懐妊したことをレイシスに伝えると彼は嬉しそうに笑い、ノエルを後ろからぎゅっと抱きしめて話を聞いていた。

「……って、もう!俺の話聞いてますか?レイシス様」
「聞いてますよ。でも、あまりにも嬉しそうに話すノエルが可愛くて、見惚れてました」
「またそんなこと言って」

レイシスは真面目で冷静なのは変わらないけれど、感情表現が前より更に豊かになったと感じる。

ノエルに対しての愛情表現も惜しみなくしてくれるようになり、ノエルのほうが恥ずかしくなってしまうことも最近は多い。

「ジルベール騎士団長は呆然としながら、退勤前の僕のところに来ましたよ」
「え、どうして?」
「"人生の先輩として聞きたいことがある"って。何事かと思いましたよ、本当に。そのせいで帰ってくるのがいつもより遅くなりました」
「あははっ!俺もイヴァン殿下から同じこと言われましたよ」
「似たもの夫夫ですね、あの二人は」

ジルベールがレイシスの元を訪れていたなんて。

きっと伴侶として、父親として何ができるのか聞いておきたかったのだろう。

ジルベールはノエルたちより年上だしいつもしっかりしているので何でも知っているかと思ったけれど、父親になるのは初めての経験なのでジルベールも不安なのかもしれない。

そりゃそうだ、普段あまり取り乱さないレイシスでさえ、新米父親のときはすごかったのだから。

「エイルが生まれた時のことを思い出しました」
「……もうやめてください。今はそんなことないですから」
「ふふふっ。小さくてふにゃふにゃのエイルに戸惑って…本当に可愛かったです、あの時」
「僕は可愛くないです」
「可愛いときもあるんです、俺にとっては」

斜め上を向いてちゅっとレイシスの唇を奪うと、嬉しそうに笑った彼からぎゅっと抱き込まれて唇を奪われた。

レイシスの腕に抱かれながらふわふわのベッドに身を沈められ、何度も何度もキスをされると色んな瞬間の中で彼とキスをしている時間が一番幸せだ。

「……あのね、レイ」
「うん?」

二人きりのときはレイシスを敬称ではなく、愛称で呼ぶようになった。

レイシスはなかなかノエルに対して敬語を使う癖が抜けないようだけれど、それはそれで彼らしい。

ノエルがレイシスを愛称で呼ぶと彼は『この世で一番幸せな男です』というような、本当に嬉しそうな顔をするのだ。

「俺たちも……二人目、どうでしょうか?」
「え……」
「エイルも安産だったし、二人目は無理ですとも言われてないから……そろそろどうかなって、思ったんですけど」

ノエルを押し倒しているレイシスの頬に触れてそう言うと、シルバーの瞳が月明かりのせいではなく涙で煌めいた。

レイシスの頬に当てているノエルの手が彼の涙で濡れて、拭っても拭っても溢れてくる。

この涙の意味がどういうことなのか分からなくて焦っているノエルの手にレイシスの手がそっと重なった。

「すみません、困らせるつもりじゃなかったんです!」
「ち、違います、すみません……!困ってるわけじゃなくて、嬉しくて……」
「ほんと?嬉しいですか?」
「当たり前じゃないですか!ノエルからもう一人ほしいと言われるなんて、夢みたいです……」

もう一人ほしいというわがままが困っているわけではなく、嬉しくて泣いているというレイシス。

一人目を出産するときもレイシスはノエルの身を案じていたし、二人目がほしいと言ったら困らせるだけかと思っていた。

でも今日のイヴァンの嬉しい報告を目の当たりにして、やはりもう一人ほしくなったのだ。

「子供の命が宿るのはあなたの体なので、僕からもう一人ほしいとは言えなかったんです。エイルだけでも生まれてくれたのが奇跡なので……だから、ノエルからそう言ってくれて嬉しいです」
「そんなこと考えてくれてたんですね。俺は、またエイルのように新しい命をお腹に宿したい。レイと俺の子供がもう一人ほしい、です」

ノエルを押し倒していたレイシスがぎゅっとを抱きしめて寝転がり、鼻先同士でキスをした。

レイシスの涙の跡が残る頬を撫でると彼はノエルの指に擦り寄って甘えてくるのでくすくす笑っていると、再び甘く唇を奪われた。

「……エイルは完全に僕似なので、あなたに似た子がほしいです」
「つまり、オメガですか?」
「いえ、そういうわけではありません。オメガやアルファというのは二の次で、ノエルとの子供だからあなたに似た子もほしいんです」

そんなことを言われたら、きゅんとする。

切実そうな顔をしてレイシスが訴えるものだから『じゃあ俺に似た子供を産んでみせます!』なんて、できもしないことを言いそうになった。

性別も容姿も選べないのだから、自分に似た子供を産むなんて無理にもほどがあるのだけれど。

「じゃあ、さっそく今から……」
「ちょ、ちょっと待ってください!今から!?」
「え?だって、そういう雰囲気でしたよね」
「そうでしたけど!でも待ってください。ヒートの時期のほうが妊娠しやすいって知ってますよね?」
「知ってます。でも確実じゃないですよね?ならやっぱり、ヒート期間以外もしてみないと」
「そんなの、したいための言い訳じゃないですか!」
「………だから?」
「っ!」

ギラリ、シルバーの瞳が強く光る。

ラット中でもないのにベッドの中で見せる『アルファの顔』にノエルはずっと弱い。

いまここでノエルがヒート期間にしようと何回言ったとしても、彼の気持ちは変わらないだろう。

スイッチが入ってしまったレイシスを止める術は何年経っても分からないままで、ノエルはいつも負けてしまうのだ。

――まぁ、ヒート期間以外に求められるのは、嫌なわけではないけれど。

「あなたとしたいから誘ってるんです、ノエル」
「……もう、レイシス様はいつもずるい」
「そんな僕も好きでしょう?」
「………レイシス様のばか!」
「ふふ、可愛い」

その夜は結局、眠りについたのが何時だったのか全く覚えていない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...