【完結】君を上手に振る方法

社菘

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4.冬

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 彼が隣にいないと、冬がこんなに寒いとは思ってもいなかった。


 ◆◆◆


 文化祭の日から、春陽先輩とは文字通り距離を置いていた。学校中にばら撒かれた僕と先輩のポスターはその日のうちに先輩達や大我、先生達にも協力をしてもらって剥がすことができた。

 春陽先輩が咄嗟に『この写真はAI加工された偽物』だと言ったのが功を奏したが、一部の生徒からはまだヒソヒソと噂話をされている。

 それは文化祭が過ぎた10月も、11月も、噂が絶えることはなかった。

「……お前も春陽先輩も、とんと告白されなくなったなぁ」
「……ま、それでよかったんだと思うよ。毎日呼び出されるの、面倒だったし」
「あのなぁ、悪質な噂で告白が止まるのって良いか悪いかで言えば悪いだろ」
「いいんだってば。中学の時の僕に戻っただけだって」
「そう言ってもさぁ……」

 大我は苦いを顔をしているが、ようやく春陽先輩と付き合った『メリット』が発揮されたのだから喜ぶべきなのだ。入学当初から告白ラッシュに悩んでいた僕は休み時間や放課後を見知らぬ女の子たちのために割かなくてよくなったし、春陽先輩もそうだろう。

 これでよかったんだ。僕たち二人とも、こうなることを望んでいたんだから。

「本当にいいの? お前」
「何が?」
「春陽先輩とこのまま距離置いたままで……卒業しちまうぞ」
「そう言われても……先輩の受験の邪魔はしたくないから」
「春陽先輩って確か推薦だったろ? もう終わってるって聞いたけど」

 確か夏休みに先輩の家に泊まっていた時、突然やって来た志鶴先輩が推薦とかなんとか話していた気がする。

 なんとなく進路の話を聞くと春陽先輩との距離ができそうで、本当に離れ離れになってしまうと思いたくなかったから避けていた話題だった。

 だから春陽先輩がどの大学を受験するとか、将来は何になりたいのかとか、全く知らない。だから、受験が終わっていることすら知らなかった。なんせあれ以来連絡も取っていないから。

 つくづく、僕たちはただキスだけが上手くなった名ばかりの恋人同士だったんだなと実感する。所詮、先輩が卒業すると同時に終わるであろう関係だったから、それが早まっただけだ。

 (仮)の恋人だったのに、本気になってしまった僕が悪い。春陽先輩の本当の恋人になりたいなんて烏滸がましいことを考えた、僕が全部悪い。

 ――好きになってしまった、僕が悪い。

「……もう冬休みじゃん?」
「だな……」
「休みに入る前に、一回先輩と話してみたら?」
「いや、それは……」
「あのなぁ。諦められない、好きだって顔にデカデカと書いといてよく言うよ! 男ならうじうじ考え込んでんじゃねぇ! 本気ならちゃんと向き合ってから後悔しろ、ドアホ!」

 ゴンっと鈍い音を鳴らして、僕の頭には鉄拳が落ちた。久しぶりに大我から怒鳴られて驚いたけど、確かに正論ではある。

 逃げていても何も解決しないし、逃げるだけじゃ前に進めない。

 それは僕も頭では理解しているんだけど――

「……いや、やっぱ、1年が3年のクラスに行くのはちょっと、緊張するな……」

 メッセージを送ったら最悪無視されそうだから、直接会いに来たのだけれど。

 よくよく考えてみれば、直接会いに来るとまた噂が酷くなるだけかもしれないと今更怖気付いた。いや、あのポスターの写真は加工されたもので付き合っているという噂は虚偽だと言っているから、普通に会いに来たほうが違和感はないのかもしれない。

 なんて3年生のクラスに続く階段の踊り場まで来て唸っていると、後ろからポンっと肩を叩かれた。

「うぎゃっ!?」
「うぎゃってどんな悲鳴だよ、ったく……」
「し、志鶴先輩!」
「こんなところで何してんの、お前」

 踊り場で唸っていた僕の後ろに立っていたのは、気怠げな顔をした志鶴先輩だった。春陽先輩に会いに来たと言いたかったが、迂闊に名前を出したらまた迷惑になるかもしれない。そんな僕の思考を読み取ったのか「……空き教室行くぞ」と、志鶴先輩から連れ込まれた。

「で、春陽に会いに来たんだろ?」
「そうです、ね……」
「てか、お前らってどうなってんの?」
「え? どう、とは?」
「あの日以来会ってないんだろ? 春陽とお前の関係がどうなったのかって聞いてんの」
「……分かりません。先輩からは距離を置こうって言われたので、もう別れたんだと思います」
「だけど、未練たらたらで会いに来たってわけか」
「うっ、そうです……」

 志鶴先輩はわざとらしいため息をつきながら頭をガシガシ掻き回す。志鶴先輩から見れば、今の僕は春陽先輩のストーカーのようだろう。「春陽をつけ回すな!」と言って説教をされる雰囲気を感じ取った。

「別れようって春陽が言ったの?」
「え? いや、別れようとは言われてないですけど……でも、距離を置くってそれと同じことかなって」
「遅い」
「遅い?」
「行動が遅い、お前は。夏にこの俺に向かって、本気だって言った宇佐美恵は俺の見間違いだったってわけ?」
「ええと……」

 背は僕のほうが若干高いのに、志鶴先輩から見下ろされて説教されているように感じる。行動が遅い、と怒られている僕自身もその自覚はあるのでガクッと肩を落とした。


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