【完結】君を上手に振る方法

社菘

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4.冬

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「……行動が遅かったのは、本当にすみません。春陽先輩の受験の邪魔になりそうだなと思って、何も行動できませんでした」
「なるほどね。まぁ、その点は評価してやってもいいけど……それにしたって、タイミングが最悪。遅いと言う他ない」
「そ、そんなにですか!?」

 志鶴先輩からの容赦ない説教に愕然とする。タイミングが最悪とか遅いと言われるということは、きっと春陽先輩の気持ちはすでに離れているのだろう。

 または、ちゃんと好きな人ができたり、付き合っている人ができたとか。もしそうなのであれば、春陽先輩の幸せを応援したい気持ちはある。ただ、それを笑って祝福できるかは話が別だ。

「……春陽、もういないよ」
「いない?」
「終業式迎える前に、もう学校こなくなった」
「え……え? どういうことですか?」
「そのまんまの意味だよ。春陽、もう学校に来ないって」
「な、な、なんで!? 何でですか!?」
「な? だからタイミング最悪で遅いって言ったじゃん」

 志鶴先輩の言っている意味が分からない。もう学校に来ないってどういうことだ?受験が終わったから一足先に自由登校になったとか?いやいや、そんなわけないだろ。

 僕が理由を聞いても志鶴先輩はふんっと鼻を鳴らし「お前には教えてやんない」と顔を背けた。多分、これが漫画なら僕の頭の上には『ガーン』という文字が出ていることだろう。

「学校に来ないって、もう春陽先輩と会えないってことですか……?」
「さぁな。でもお前にとっては都合いいんじゃない?」
「なんで、僕にとって都合がいいんですか」
「だって、春陽との噂のせいで被害受けてんじゃないの」
「被害……?」
「告白。されなくなったんだろ? 入学当初からおモテになってたのに、残念だな。春陽みたいに告白皆勤賞とか目指してたんじゃない? 営業妨害されて可哀想なこった」

 多分悪気はないのだろうけれど、あはは、と笑う志鶴先輩の言葉にブチッと血管が切れる音がした。そして思わず腕が伸びて、ドンっと激しい音を鳴らして壁に手をついて志鶴先輩を見下ろした。

「――僕が本当にそう思っていると、志鶴先輩には見えますか」

 自分でも驚くほど、冷たい声が出た。

 顔から表情がなくなるのも分かるし、声だけではなく冷たい目をしている自覚もある。滅多に怒ることはないけど、それは年上とか親に対してだけだ。怒りを感じたら僕だって普通にイライラするし、年上にだって怒りを向けることだってある。

「確かに僕が春陽先輩の“恋人”だったのは、フリでした。毎日告白されるのが面倒で、断る理由として恋人がいるって言ったら告白も落ち着くんじゃないかって。でもボロが出ないようにしたいから恋人らしいことをしようって、春陽先輩と毎日会うようになってから……本当に好きになってました。春陽先輩は違ったかもしれないけど、僕は……」

 春陽先輩の、本当の恋人になりたかった。

 消え入りそうな言葉が志鶴先輩に聞こえたかどうか分からないけれど、ため息をついたあと僕の頭をわしゃわしゃと犬のように撫で回した。

「それがお前の本気なんだな? 宇佐美恵」
「へ?」
「本気で春陽のこと、好きなんだな?」

 離れていても、先輩の体温を思い出す。

 細い指から伝わる甘い熱や、抱きしめた時の柔らかい体。長いまつ毛に縁取られた大きな目は僕を見る時には優しい色を浮かべて、赤い唇が僕の名前を呼ぶために開く。

 風にもモテるのかいつも髪の毛をふわりとなびかせて、春は桜の花びらを纏っていて天使か妖精だと思ったほど。

「宇佐美くん」

 春陽先輩からそう呼んでもらえることがこんなにも大切で愛おしいことだったのだなと、離れてから気づくには遅すぎた。

「……好きです。春陽先輩のことが、本気で好きです」

 こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ。

 何かに心を奪われる、という経験はゲームでしたことがある。世の中にはこんなに楽しいことがあるのかと、幼い僕はそれはそれは夢中になった。

 ゲームがあれば友達も恋人もいらないとおもっていたけれど、そんなことはなかった。

 春陽先輩が僕の人生をまるっと変えてしまったのだ。あの人がいないと僕はもう、生きていけないのではと思うくらいに。

「……まぁ、お前が春陽のことを好きでも嫌いでも、あいつには会えないけどな」
「だ、だから何でですか!?」
「いないんだよ!」
「いないって……行方不明ってこと!?」
「違う! 日本にいないって言ってんの!」
「はぁ……!?」

 どうしよう、本当に言ってる意味が分からない。

 僕があまりにも怪訝な顔をしていたからか、志鶴先輩からデコピンをお見舞いされた。

「いッ」
「あいつ、野暮用でフランスに行ってる。家族で」
「ふ、ふらんす!? いや待ってください、まじで理解が追いつかないんですけど……!」
「春陽ってクウォーターなんだよね。母方のおじいちゃんがフランス人だったかな」
「ええ!? 初耳なんですが!?」
「……あのさぁ、お前らって恋人“ごっこ”してただけ? まじで自分達のこと何も話してないじゃん」
「すみません……」
「まぁ、とにかく。いつ帰ってくるのか知らないけど、しばらくは会えないってこと。分かった?」
「分からないですけど、分かりました……」
「……このことお前に言うなって言われてるから、口滑らすなよ?」
「えっ! じゃあ連絡したらダメってことですか!?」
「そうなるな。帰ってくるまで我慢しろ」

 連絡する口実ができたと思っていたのだけれど、文字通り僕は天国から地獄に落とされた気分になった。


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