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4.冬
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しおりを挟む結局、春陽先輩の家にお邪魔することになった。
玄関には『志鶴くんの家に虎徹くんと泊まる。せいぜい感謝するように』という千冬さんの置き手紙があったので、こうなることを読まれていたらしい。春陽先輩はくしゃりと手紙を丸めて「千冬のやつ……」とぶつぶつ呟きながらも、どこか嬉しそうにしていた。
「先輩、もしかして帰ってきたばかりなんですか?」
「ん?」
「スーツケース、置きっぱなしだから」
「そう、帰国したばっかりなんだよね。……って、俺がどこか行ってたの、誰から聞いたの」
「え! ええと……」
「どうせ志鶴か千冬なんでしょ? ったく、いつの間に千冬と知り合いになったのさ……」
「実は、うちの兄の後輩だったみたいです。無気力系男子でクウォーターだって聞いて、何となく春陽先輩の弟さんかもって」
「ふはっ! 千冬、学校の先輩から無気力系男子だと思われてんだ」
誰もいない家の中は真っ暗で静まり返っていて、夏休みにこの家を訪れた時とは大分印象が違う気がした。
「家の中も寒くてごめんね。今あったかい飲み物淹れるから座ってて」
「僕がやりますから先輩は座っててください」
「お湯沸かすだけだから大丈夫。ずっと待っててくれたんだろうし、これくらいさせてよ」
そう言って春陽先輩はキッチンへと姿を消した。ぽつんと一人取り残されたリビングを見回して、何ヶ月も前にこの場所で過ごしたことを思い出して懐かしくなる。
夏休みはこのリビングで大半の時間を過ごした。大きなテレビで協力ゲームをやっては喜んだり口喧嘩したり、志鶴先輩にもバレてヒヤヒヤしたっけ……。
色んな思い出が蘇ってきて、季節を超えてまたこの家で春陽先輩と一緒にいられることが夢のように嬉しかった。
「はい、どうぞ」
先輩が温かい紅茶を淹れてくれて、ごく自然と俺の隣に腰を下ろす。腕と腕がくっつくほどの距離に座った先輩は「へへ」と笑いながら俺を見上げて、ぎゅっと胸を締め付けられた。
「本当はちゃんと話をしなくちゃと思ってたんだけど、怖くて逃げてた。ごめんね」
「僕のほうこそ、臆病になってました。辛い思いをさせてごめんなさい」
「ううん。これはきっと誰が悪いとか、そういう話じゃないと思う。あの子はただ純粋に、宇佐美くんのことが好きだっただけだろうから……そりゃ、男の俺とキスなんてしてるの見たら怒りたくもなるわな」
「……だからといって、やり方は間違ってたと思います」
「それはそうだね、うん……」
実はあの時、僕と先輩のポスターを校内に貼っていたその子から、もう一度告白された。あんなことをしておいてどういう神経をしてるんだと驚いたけど、僕は怒るでもなんでもなく、ただきっぱり断った。
ただ断るだけじゃなくて、人が傷つくようなやり方をする人とは分かり合えないと理由をはっきり言ったら、彼女は泣きながら謝罪した。その謝罪を受け入れたわけではないけれど、あれ以来彼女からの告白はぱったりと止んだ。
僕だけではなくて先輩にも謝って欲しかったけど、それ言うのは酷だと思ってやめた。ただ、好きという気持ちに一生懸命だった彼女の気持ちも少なからず理解できる。
だから、いつかちゃんと彼女だけを見てくれる素敵な人が現れてくれるのを願っている。幸せにならないでくれ、なんて言わない。
誰かに辛い目に遭わされた僕が、誰かに対して同じことをするような人にはなりたくないと思ったから。
「元を辿れば僕のせいなので……迷惑をかけてすみませんでした」
「いや、俺があんな変な提案をしなければよかった話だし……俺のほうこそごめんね」
「……堂々巡りになりそうなんですが」
「ふふ、うん。ここら辺でやめておこうか」
そう言うと、先輩はこてんっと僕の肩に頭を預ける。右肩に感じる体温が懐かしいと思えて、今日一日あの場所で待っていてよかったなと噛み締めた。
千冬さんは春陽先輩が帰ってくることを知ってたから僕にカフェで待つように言ったんだろう。でも、僕があの場所で待っていると言ったら先輩は絶対に来てくれなかった。千冬さんが先輩に何を言ってくれたのか分からないけれど、土下座して感謝を述べたい気分だ。
「……そう言えば、なんでカフェに来てくれたんですか?」
「ああ、千冬と志鶴に“プレゼントがあるから”って言われて」
「“プレゼントは私”ってやつ……?」
「よく漫画とかで彼女とか女の子がするやつね」
「恥ずかしいですけど、僕でもいいなら」
「……うさみくんしかいらない」
「!」
肩に頭を預けている春陽先輩の細い手が僕の手をぎゅっと握りしめる。呟かれた言葉はきっと聞き間違いではないだろう。
意を決して顔を近づけてみると、それに気づいた先輩がゆっくりと目を閉じた。そして僕は吸い寄せられるように赤い唇に触れたあと、確かめるように顔中に唇で触れた。
「ん、ふふ、くすぐったい」
「今まで離れていた分、補充しないとなんで……」
「俺の誕生日だから特別なのかと思った」
その発言に、僕はハッと我に返った。
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