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4.冬
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しおりを挟むカフェで本を読んだりゲームをしたりして長い時間を過ごした。
ふと窓の外を見るといつの間にか日は暮れていて、はらはらと雪が降っている。ホワイトクリスマスになったと楽しそうに笑っているカップルを眺めながら、もう少ししたら帰らないといけない時間になっていることに気がついた。
「長居してしまってすみません。ご馳走様でした」
「そんな、全然……。春陽くん、きっと何か都合が悪くなっただけだと思うから、気に病まないようにね」
「ありがとうございます。新学期になったら学校で話しかけてみます」
新学期になっても会えるかどうか、話せるかどうかは分からない。先輩が嫌だと言えば素直に従うしかないのだろうけど、それでまた先輩が一人で泣くことがあれば僕は同じ後悔をするだろう。
どうにかこうにか、春陽先輩の卒業までにはこの気持ちにケリをつけないと。
「………宇佐美くん?」
カフェから出てすぐ、雪が降る空を見上げているとふと名前を呼ばれた。ゆっくりと声のしたほうを見ると鼻の頭を赤く染めた春陽先輩が立っていて、僕と目が合った瞬間に大きな瞳がきらりと揺らめいた。
「ちょ、もしかして志鶴と千冬……あいつら嘘ついて……っ」
「春陽先輩!」
僕がいると思わなかったのかもしれない。春陽先輩はカフェに背を向けて急いで去ろうとしていたけれど、逃すまいと細い腕を咄嗟に掴んだ。
「は、離して、宇佐美くん!」
「嫌です、離しません」
「こんなところ誰かに見られたら、また……!」
「僕は平気です。誰になんて言われても、春陽先輩のことが大切なんです!」
あまりにも自分勝手な言い分だとは思う。でもハッキリと言葉にするために、春陽先輩に会いたかったのだ。
先輩が逃げても、今度は僕がずっと追いかける。嫌だと言われても、ちゃんと話を聞いてもらうまで説得する。きっとそうやって、人との関係というのは成長していくのだろうから。
「ば、ばかじゃないの……宇佐美くんとの関係なんてただのお遊びだよ。卒業までの遊びで、純粋そうな1年生をたぶらかして楽しんでただけ! あんな噂広まっていい迷惑だし、俺たちの“恋人のフリ”はもう終わったじゃん。なに、もしかして本気になったの? それは残念! 俺、年下になんて興味ないから」
僕と顔を合わせないように逸らしたまま、春陽先輩は早口で捲し上げる。多分少し前の僕ならこの言葉を真に受けて落ち込んだだろう。ただ、春陽先輩がそんなことを言うはずがないと知っている。
僕が知っている春陽先輩はすごく優しくて明るくて、天然なところが可愛くて、少しずるい小悪魔の天使。今まで見てきた先輩なんて、志鶴先輩から言わせればほんの一瞬の出来事に過ぎないけれど『恋人』として一番近くで先輩を見てきたのは僕だ。
春陽先輩の言葉が本心ではないことくらい、僕には分かった。
「僕もあんな噂が広まって、いい迷惑でした」
「え……」
「先輩の受験に響いたらどうしようって、僕のせいで先輩のこれからの人生がめちゃくちゃになってしまったらどうしようって、すごく不安でした」
「……」
「僕はどうでもいいけど春陽先輩のことだけが気がかりで、会えない間ずっと心配してました」
引っ張っていた春陽先輩の腕の力が抜けて、背けていた顔を上げる。大きな瞳いっぱいに涙を溜めて唇をぎゅっと噛んでいる先輩の顔を見ると、思わず抱きしめていた。
後頭部を引き寄せると春陽先輩は僕の肩口に顔を埋め、ぐすっと鼻を啜る音が聞こえた。さっきの言葉が本気だったらどうしようかと思っていたけど、大人しく僕に抱きしめられている先輩を見るとやっぱり本心ではなかったようだ。
「宇佐美くん、ほんとーにバカ……」
「えっ」
「俺のことなんか嫌いになればいいのに、宇佐美くんは大馬鹿者だよ……」
「……僕、一度好きになったものって、そう簡単に嫌いにならないんです」
こつんっと額を合わせると、雪が降っているのに熱い体温が伝わってくる。春陽先輩は僕の言葉にきょとんとしていたけど、すぐに理解したのかぶわりと顔を真っ赤に染め上げた。
……こういうところがギャップがあって可愛いんだ、この人は!
「先輩……二人きりになれるところ、行きたいです」
「ちょ、ちょっと待って、宇佐美くんって時々めちゃくちゃ積極的になるよね!?」
「僕だって男です。気になってる人と二人きりになりたい欲求くらいあります」
「……っ」
久しぶりの春陽先輩はふわふわきらきらしていて、これはきっとクリスマスマジックなんかじゃないだろう。
お願いしますと耳元で囁くと、春陽先輩は顔も耳も額も真っ赤にさせてこくりと頷いた。
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