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5.春
エピローグ
しおりを挟む僕の好きな人は、嘘みたいに天使な人だ。
◆◆◆
一年前の入学式とは違い、咲き始めたばかりの桜で辺りが色づいている3月。
今日、春陽先輩たち3年生は卒業式を迎えた。
「……クラス会とか出なくてよかったんですか?」
「んー、志鶴とか怜士たちとは別で会う予定があるから、そっち優先でいいかなと思って」
「なるほど。でも、他の人たちは先輩のこと探してそう」
「最後に告白いいですかーって?」
「です。なので、しばらく隠れてください」
卒業式を終えた後、春陽先輩は下校せずに僕と屋上の塔屋に登って話をしていた。最初に先輩と出会ったのは僕が道を間違えて辿り着いた裏門で、その次に会ったのは体育館裏、そしてそのまた次に会ったのがこの屋上の塔屋だったのを思い出す。
僕がゲームをしている後ろから画面を覗き込んでいる人に気がついた時は、心臓が飛び出そうなほど驚いた。そんな出会いから仲良くなり、変な恋人同士の関係が始まったのである。
紆余曲折を経て去年のクリスマス、春陽先輩の誕生日の時に僕たちは仲直りをして、先輩が卒業するまでに二人で過ごす時間を作ってきた。
年始には一緒に初詣に行ったり、バレンタインにはお互いにチョコを贈り合ったり。春陽先輩がバイトしているカフェにも二人で言って、店長さんに挨拶をしたこともあった。
お互いに忙しいのもあって何度もデートをしている暇はなかったけれど、これからの長い人生の中でやりたいことをゆっくりやっていけたらいいか、なんて思っている。
――振られなければ、の話だけれど。
「いま思い返せば、僕たちの関係ってめちゃくちゃでしたね」
「確かに。でも、あの時はそういう言い訳しか出てこなかったんだよ」
「え? 言い訳?」
「うん。宇佐美くんとそういう関係になるための言い訳」
「……僕、そんな話聞いてないんですけど!?」
「そりゃ、言ってないからねぇ」
一体どういうことだ?先輩が何を言い訳にしていたのか、どういう意図があったのか全く分からない。
もう先輩は卒業してしまうから今までのように毎日会えることもなくなるのに、最後の最後に大きな爆弾を落とされた。これはちゃんと話を聞かないとスッキリしないパターンのやつだ。
「裏門であわあわしてる宇佐美くんと出会った時から、多分好きだった」
「へ……」
「体育館裏で告白されてるのを見た時は、俺も女の子だったらよかったのになと思ってた」
「は、春陽先輩?」
「ねぇ……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
その瞬間、ぶわりと強い風が吹く。校庭や校門付近では花びらが舞い散り、桜のカーテンができているように見えた。
「俺、宇佐美くんのことが好き。だいすき」
サラサラと風になびく髪の毛のせいで先輩の表情がちゃんと見えない。僕がそっと髪の毛をかき分けると、大きくて綺麗な瞳と目が合った。
先輩の、まっすぐに僕を見つめてくれる優しい目が好きだ。
透き通っているように見えて、まるでラムネに入っているビー玉のようにキラキラと光っている瞳に僕のことを映してくれているのがあまりにも愛おしい。
これから先も、春陽先輩の瞳に映る『特別な人』は僕だけがいいのだ。
「――好きです」
つい、言葉が出てきた。
というか、この言葉しか出てこなかった。
他に何を言ったらいいのか分からずにいると、風に攫われる髪の毛をかき分ける僕の手にすり寄る春陽先輩は目を細めて微笑んでいる。
告白を上手に断る方法を考えなくちゃと、前に春陽先輩からアドバイスされたことを思い出す。いまだにその答えは見つからないし、これからも見つかる気がしない。
勇気を出して告白してくれた誰かの気持ちを断るのは、これから先もずっと慣れないことだろう。だから僕はきっとこれからも不器用なままで、上手く断れなくて誰かを傷つけるかもしれない。
でもそれは、今日じゃない。
これから先も春陽先輩からの告白だけは、僕が断るなんてあり得ないと確証がある。
だって本当に、先輩のことを心から好きだから。
「――いや、あれ? 振ったほうがよかったんですか? いやいや、それは僕の気持ちじゃないし……!」
なんて慌てていると「ぶはっ」と大笑いした春陽先輩がぎゅっと僕に抱きついてきた。
「俺の告白は受けてくれるの?」
「……先輩からの告白しか受けないし、僕は先輩にしか告白しません」
「ふふ、そっかぁ。じゃあ俺たち、このままずっと恋人同士だね」
告白を断る理由が面倒だから、お互い付き合ってることにしよう。なんて、意味の分からない理由で始まった僕と春陽先輩の関係。
恋人らしいデートなんて一度もしたことなかったのに、キスだけがお互いに上手くなってしまった不思議な習慣。
迷ったこともあれば苦しんだこともあった一年だったけど、僕たちはこれからもこの一年間を忘れることはないだろう。
「春陽先輩」
「ん?」
「最後にここで、キスしてもいいですか?」
「……うん。俺以外の人とこれからもキス、しないでね」
始まりの場所で、あなたとの新しい未来を一歩をまた踏み出した。
おわり
最後まで読んでいただきありがとうございました!
恵と春陽のこれからに幸多からんことを。
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