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4.冬
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しおりを挟むクリスマスの翌日、リビングで寝ていた僕たちは志鶴先輩の「朝ですよ、お二人さーーーん!」という大きな声で目が覚めた。
「うわぁっ!? おおおおはようございます、志鶴先輩!」
「はよ。会って早々お泊まりとか随分積極的だな宇佐美ぃ?」
「いえ、あの、そういうんじゃなくて!」
「“そういうんじゃなくて”? てめぇ、高1のくせにあわよくばとか考えてたんじゃねーだろうな?」
「違います違います、本当に何もしてませんからッ!」
目を開けると般若のような顔をした志鶴先輩が僕を覗き込んでいて、朝からゾッとした。寒気を感じて体が震えたのか悪寒だと思ったけれど、寒いのも納得したのは外が一面銀世界だったからだ。
「自分の家で兄が男と寝てる生々しい現場、見るの嫌だったんだけど……」
「千冬さん! 昨日会えなかったので言えてなかったですが、カフェで待てと言ってくれてありがとうございました」
「しかも礼儀正しいし……は~、憎めないじゃん」
げんなりした顔をしている千冬さんに頭を下げると、なぜか更にげんなりされた。なぜそんな顔をされるのか分からなくてキョトンとしていると、志鶴先輩から「総じてお前が悪い」と言われながらデコピンをされて完全に目が覚めた。
「い……ッ!」
「んん……ちょっと、しづる……いじめないで……」
「ったく、無防備なんだよお前も。なんかされたらどーすんだよ。男は全員狼なんだぞ」
「じゃあ俺も狼だから、宇佐美くんに手出したかもね……」
「……春陽のそういう話、まじで聞きたくない」
耳を塞いでいる千冬さんにくすくす笑いながら、春陽先輩は眠そうにあくびをして起き上がる。とろんとしている目を擦った先輩は僕の顔を覗き込んで「おはよお、うさみくん」と、舌足らずな声で呟いた。
寝起きの春陽先輩は夏休み中も見たけれど、一日経って世界が一変してから見ると破壊力が違う。夏休み中よりも攻撃力が上がって、僕の心臓はぎゅっと締め付けられたまま壊れてしまうかと思ったくらいだ。
「二人とも、昨日はありがとね」
「……とりあえず、解決したってことでいいの?」
「そうなる、かな」
「お騒がせしてすみませんでした」
寒いからと春陽先輩がホットミルクを作ってくれた。それをリビングで飲みながら、志鶴先輩と千冬さんから謎の事情聴取が始まった。
「宇佐美先輩と会った時から薄々気づいてたけど、君……恵くんと春陽は恋人同士ってこと?」
「友達以上恋人未満的な感じ?」
「えっ、友達以上恋人未満なんですか!?」
「……お前ら一体、一晩なにしてたわけ?」
志鶴先輩が呆れたように溜め息をつく。ただ、先輩の言うことはもっともだ。
昨夜のことをよく思い出してみると、僕は告白しようとしたのだけれどそれを春陽先輩に止められた。僕たちの関係は『恋人のフリ』から始まったので、お互いのことをもう少し知ってからでも『告白』は遅くないと言われたのだ。
そこまで思い出して納得する。確かに今の関係は春陽先輩の言うように『友達以上恋人未満』というものかもしれない。
「もしかしたら卒業する頃に宇佐美くんから振られるかもしれないし」
「はぁ? もし本当に春陽のこと振るつもりならぶっ飛ばす」
「そんなことしませんよッ!」
「俺が泣かないように、上手に振る方法考えておいてね?」
「だから、そんなことしませんってば!」
春陽先輩を上手に振る方法、なんて絶対に、1ミリも考えたくない。そんなことを考える暇があったら先輩とのデートのプランを考えるか、先輩が卒業した後の関係の続け方を考えたい。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、春陽先輩はおかしそうに笑いながら「ごめんね」と言うので、僕は結局振り回される。惚れたほうが負け、とはよく言ったものである。
「まぁ、お前たち二人が納得してるなら俺は何も言わないよ。でも、文化祭の時みたいなことがまたあって春陽を泣かせるようならぶっ飛ばす」
「もう、志鶴は暴力で解決しようとしないでよ。あの時は仕方ないって……俺もどうしたらいいのか分からなくて焦っちゃったのも悪かった」
「文化祭って、恵くんのストーカーが春陽との写真をばら撒いたってやつ?」
「ストーカーというか……ただ熱心な子だったというか」
「同じでしょ。僕ならそいつをぶん殴る」
「千冬は志鶴の背中見て育っちゃったなぁ」
あちゃ~と言いながら春陽先輩は肩をすくめているけれど、大して気にしていなさそうだった。文化祭の後はきちんとお断りをしたから、ちゃんと分かってくれたのだと思う。これでまだ付き纏われていたのなら、千冬さんの言うように拳で解決していたかもしれないけれど。
「とりあえず……後悔しないようにしなよ、二人とも。お互いの気持ち分かってんのに、変にすれ違うのやめな」
「ん……ありがとう、志鶴」
「千冬さんも、本当にありがとうございました」
「別に……春陽の相手は大変だと思うけど、頑張れば」
僕の気持ちはいつ日の目を見るだろうか。
ただきっと、いつかは報われるだろうと変な自信がある。
たった二文字の言葉を春陽先輩に言える日が、今から待ち遠しかった。
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