【完結】君を上手に振る方法

社菘

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1.春

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 嘘みたいに、天使のような人に恋をした。


  ◆◆◆


「くっそ、大我たいがの奴、先に行きやがって……!」

 今日から晴れて高校生になるというのに、盛大に寝坊をした。

 隣の家に住む幼馴染の獅子戸大我ししどたいがも同じ学校に進学するのだが、どうして起こしに来てくれなかったのかと走りながら悪態をつく。

 しかも両親だって『親はまだ行く時間じゃないから』と言って起こしてくれなかったのだ。って、他人に責任転嫁。

 それが僕・宇佐美恵うさみけいの悪いところだ。

「あれっ、ここどこだ!?」

 正直、学校は面倒くさい。

 話せる相手と言えば幼馴染の大我くらいで、友達もどうせできないし、勉強だって苦手だ。家に引きこもってゲームをしているほうが性に合っているのだが高校に行かせてくれる両親への感謝もあるので、寝坊しても入学式に間に合うように走ってきたのに。

 でも、人っ子一人いないここは、もしかしたら裏門だろうか。
 正門に行くにはどうしたら……?
 もうこの際、正門じゃなくてもいいのだが、1年生の下駄箱は一体どこ……!?

「きみ、新入生?」
「へっ!?」

 体育館の裏からひょこっと顔を出した人物に驚いて、恵は思わず変な声を出して後ずさる。でもすぐに、その人物に目を奪われて硬直した。

 ふわっふわの黒髪が風になびいていて、ピンク色の桜の花びらに愛されている男子生徒。同じ制服を着ているがネクタイの色が緑色なので、上級生だ。

 それにしても驚いた。上級生に話しかけられた衝撃と言うより、その人があまりにも綺麗でかっこよかったのだ。

 それはもう、今まで見たことがないくらい、まるで天使のようにも思えた。

「迷子?」
「ま、迷子です!」
「あはっ、元気がいい迷子だね。間違えて裏門から来ちゃったんだ?」
「そ、そうみたいです……」
「1年生の下駄箱、連れてったげる。こっちだよ」
「わわ……っ」

 謎の上級生に手を引かれていくと、周りの人たちが全員振り返る。

 いわゆる、黄色い歓声と言われる声が女子生徒から上がっているが、謎の上級生は気にも留めていない。「春陽はるひくん!」と名前を呼ばれた時だけ、にこっと小さく笑うくらいだった。

 ――ていうか、ちょっと待ってくれ。春陽はるひって、まさか。

「恵! お前遅すぎる……って、え!?」
「あ、そっかぁ。下駄箱より先にクラス発表だね。名前なんてゆーの?」
「う、宇佐美恵です!」
「宇佐美恵、宇佐美恵~…あ、1組だって。俺と同じじゃん! 俺は3年1組の木虎春陽ことらはるひ。見かけたら声かけてね」

 そう言ってひらひら手を振りながら去っていく、木虎春陽。

 そんな後ろ姿を呆然と見送った。3年生とはそもそも棟が違うし、1年生が3年生に声をかける機会なんてほとんどないだろう。

 それに、あの人は特に『話しかけてはいけない人』。外部の生徒でも知っている『スクールカーストの王者』という異名がついている人なのだから。

「お前、入学早々春陽先輩にカツアゲされた? それとも舎弟にされたとか……!?」
「いや、そんな物騒な話じゃないけどさ……お前が置いてくから、間違って裏門から来ちゃったんだよ」
「バカなの? 方向音痴すぎるだろ」
「はあ!? お前が置いていくからだろ!」
「そうじゃなくて、とりあえず何で春陽先輩と?」
「1年の下駄箱に連れてってくれるって言うから……場所分からなかったし、ついてくしかなったんだよ」

 木虎春陽と言えば。

 スクールカーストの上位、というかもう王座にいるような二学年上の先輩がいるんだとかいう噂は、入学前から話題になっていた。

 彼の言うことには逆らっちゃいけないとか、食堂の決まったエリアは絶対に座っちゃいけないとか、不良のような噂を聞いていたのだ。

 ただ、先程ここまで案内してくれた春陽が本当に噂の彼ならば、印象が大分違うなと思う。ふわふわの黒髪に、シルバーのピアスを左耳にだけしていた。顔立ちは意外と幼いというか純粋そうで、人は見かけによらないんだなぁとぼんやり思う。あんなに優しそうなのに、学食の席とかに厳しいなんて意外だ。

「ま、あんまり関わらないようにしたほうがいいって。目ェつけられても面倒だし」
「……んな、噂通りの人っぽく、ないけどなぁ」
「お前いつか騙されてツボ買わされるタイプだぞ」
「よけーなお世話だよ」

 ピンク色の花びらに愛されている、笑った顔が幼くて可愛い天使のような上級生。

 意外とハスキーな、キャラメルを溶かしたような甘い声が耳にこびりついて離れない。

 たった一言『宇佐美恵』と名前を呼ばれただけなのに。ここに来るまでの数分間、腕を握られていただけなのに。どうしてこんなにも、あの人のことが頭から離れないんだろう――


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