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1.春
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しおりを挟む3度目にその人と会ったのは、本当に偶然だった。
「――あれっ、そのゲーム今日発売のやつ!」
今日発売のゲームがしたくて待ちきれず、昼休みが終わってからというものの、入学して間もないというのに屋上に籠って授業をサボっていた。
誰が来てもバレないよう塔屋に上がってイヤホンをつけていたのが仇になったのだが、寝転がってパーカーのフードを被っていた僕は、屋上のドアが開いた音に気が付かなかったのだ。
そして、誰かが塔屋に上がってきたのにも気が付かず、ゲームに熱中していた。そうしてやっと、ゲーム画面を覗いてきた人物の横顔を見てひゅっと息を飲み、思わずイヤホンを外した。
驚きすぎて声も出せない僕が凝視したその横顔の主は紛れもなく、学園のアイドル・木虎春陽だったからだ。
「うわァッ!?」
「あっ、よそ見するからやられたじゃん!」
「ええ!? 何で先輩が……!?」
「ちょっとちょっと、ちゃんと画面見てよ! 前からゾンビ来てる!」
「うわ、え、」
正直ゲームどころではないのだが、一緒にゲーム画面を覗いてくる彼が「わ、わ、きた! ゾンビいっぱい来てるよ!」と焦る声につられて、忙しなく手を動かした。
敵を一体倒す度に隣でパチパチ拍手をして感心している春陽にドギマギしながら、ある程度キリの良い所で一旦停止してから先輩を見やった。
「わ~、ヘッドショット上手だねえ!」
「いや、あの、木虎先輩」
「君ってゲームとか興味ないのかと思ってた」
「えっと、」
「運動が好きなだけじゃないんだね!」
「木虎先輩!」
「はい、なあに?」
褒めてくれるのは大変有難いが、展開が急すぎて頭を抱えた。
よりにもよってこの木虎春陽にゲーム好きがバレてしまうなんて、明日には学校中に広まるのだろう。別にそれがバレたって構わないのだけど、小遣いを貯めて買ったゲーム機を奪われるわけにはいかない。後ろ手にゲーム機を背中に隠した。
「……ここ、先輩の場所でしたか? 勝手に使ってすみません」
「俺の場所?」
「食堂とか……先輩の使ってる場所っていうのがあるんですよね?」
「え、ないけど?」
「……へ?」
「食堂って席が決まってるんじゃないの? みんないつも同じ席に座るから、そういうルールなのかと思ってた」
「あれ……?」
「ここは確か俺のお気に入りだけど、別に使わないでって言ったこともないし…」
サボるにはもってこいの場所だよね、と笑う先輩の態度に違和感が隠せない。
だって、あまりにも噂で聞いていた所謂『我儘な王様』のような姿とは、程遠かったからだ。入学式の日に迷子の僕を連れて行ってくれた先輩も、先日告白の現場に居合わせてアドバイスをくれた先輩も、最初の印象通り優しい人なのだと思えるから。
誰だよ、この人が使ってる食堂のエリア使うなって言ったやつ!決められた席にしか座れないと思い込んでるだけじゃん!と今にも叫びたかったが、屋上とは言え今は授業中。先輩のようにフラッと誰かが来ることもあり得るので、喉まで出かかった言葉をぐっと飲みこんだ。
「先輩って、」
「ん?」
「天然って言われます……?」
「親友にはよく言われる!」
にかっと白い歯を見せて笑う先輩。そういう風に笑うと唇がハート型になるんだなぁ、なんてこの場に似つかわしくないことを考えた。
「ねえねえ、続きやらないの?」
そう言って、長い指で後ろに隠したゲーム機をつんつんっと指す。
この雰囲気からカツアゲはされそうにないな、と先輩に対しての警戒心を解くことにした。それでもやっぱりゲーム機は奪われたくないので、おずおずゲーム機を後ろから取り出すと、先輩が肩に顎を乗せて覗き込んでくる。ふわりといい匂いがして、思わず心臓が跳ねた。
「ち、近いです!」
「ええ? だって、ゲーム画面が小さいから……だめ?」
「だ、だめじゃない、ですけど…」
「あ、もしかして近づかれるの嫌いなタイプだったりする? 俺、パーソナルスペースが狭いって、よく親友から怒られるんだぁ」
「……だから勘違いする子が先輩に毎日告白するんじゃないんです?」
「あはは、そうかも。そういえば宇佐美くんはあの子とどうなった?」
「どうもこうも、毎日断ってます」
「わはっ、モテる男も大変だねぇ」
まるで昔からの知り合いのように、するっと懐に入り込んでくる猫のような先輩のペースにまんまと乗せられている気がするが、初めてまともに会話したとは思えないほど彼の側は心地よい。
学校一の人気者と、陽キャを装っている元々はゲームが好きなただの陰キャの自分が屋上で会話しているなんて、どこの青春マンガだ。
もしかしたら、これから甲子園だとか全国一とかを目指すスポ根マンガのような展開になるのだろうか?なんて自嘲した。
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