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1.春
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しおりを挟む【うーさーみーけーくーん。外見て】
春陽先輩と偽装恋人同士として付き合い始めて、1週間。
変わったことと言えば、先輩から毎日鬼のようにメッセージがくること。今日も昼休みに廊下で大我たちと話していたら謎のメッセージが届いたので指示通りに外を見るけれど、先輩の姿はない。そこにはただ中庭が広がっていて、お弁当を食べている女子が数名笑いながら話しているだけだった。
【ちがう、上】
続けて送られてきたメッセージの通りに視線を上にやると、向こう側の棟から先輩が小さく手を振っているのが見える。1年生と3年生の教室はそもそも棟が違うのだが、ちょうど向こう側に3年生の教室があるのだ。お互い廊下に出ていて、周りには友人たちがいるのに窓越しに見つめ合っている自分たちの間だけ別世界のようだった。
【手、振ってよ。寂しいじゃん】
――うぐっ。
そんなこと言われても、先輩とは違って僕が手を振っているところを周りの友人(特に大我)に見られたら、厄介なことになる。
それに上級生に軽々しく手を振るなんて……!
そんなことを思って迷っていると、続けざまに先輩から怒った顔文字が送られてきた。
【内緒にしようっていったの、春陽先輩なのに……】
そう返事をして、誰にもバレないようにササっと小さく手を振る。すると先輩がにっこり笑ったのが離れていても分かった。自慢じゃないが、視力はすこぶるいいのだ。
【ふふ。宇佐美くんからファンサもらっちゃった】
【なんですか、ファンサって……】
【ファンクラブできてるの知らないの?】
「はぁ!?」
「うわっ、なんだよいきなり! びっくりしたぁ!」
「ご、ごめん……!」
【(笑)】
大我に絡まれている僕を見て、そんなメッセージが返ってくる。この際、笑われたっていいのだが、ファンクラブってなに!?
もちろん、先輩を始めとする四天王のファンクラブがあるのは知っていた。僕が通っていた中学の女子たちも、そのファンクラブに入っている子が大勢いたのだ。
何を隠そう幼馴染の大我も中学時代はバスケで活躍していて、ファンクラブができていた。ただ、僕はそんなものには無縁だった。なんせ、ただの陰キャオタクだったからだ。
【君たちのグループはみんな、ファンクラブできてるみたいだよ】
【本当ですか?】
【うん。宇佐美くん、3年の間でも有名だよ。めっちゃ運動神経がよくて、うさぎみたいに可愛い顔のイケメンがいるって】
「はい!?」
「なぁ、お前どうした? どっか具合悪いとか?」
「いや、違う……」
今、自分の人生に意味の分からないことが次々と起こっている。うさぎみたいに可愛い顔のイケメン、とか生まれてこのかた言われたことがない。
ていうか、圧倒的な美貌の持ち主である先輩の恋人(仮)が、うさぎ顔で可愛いってどうなんだ……!?と混乱して、意味の分からない方向に考えが及んでしまう。
「あの、恵くん」
「え?」
「ちょっといい、かな……?」
「あぁ……」
未だに名前を知らない、しつこい女の子。そういえば先週断ってから久しぶりに彼女の姿を見たのだが、多分髪の毛を切っている。
……ん?この子だったよな?
そう思うくらいには、顔も覚えていないのだ。
「恵くん、もしかしてロングが嫌いなのかと思ってショートにしてみたんだけど……」
「いや、えっと……そういう問題じゃなくて……」
とうとう、先輩と付き合ったメリットが試される時がきた。この子以外にも告白はされていたのだが、何となく気恥ずかしくて『あの』断り文句を使っていなかったのだ。
「あのさ、いつも告白してくれてありがとう」
「え……!」
「でも、本当に気持ちには応えられないんだ」
「好きな人がいないなら、少しでも私のこと考えられない…?」
「……ごめん、付き合ってる人がいる、から…」
「は……?」
僕たちの間には気まずい静寂が訪れる。
そりゃあ、散々好きな人はいないだの付き合うのに興味がないだの言って振っていた男が、突然付き合ってる人がいると言ってきたら驚くだろう。自分がこの子の立場でも驚くし、何なら引っ叩くかも――
「さいってい! なにそれ! ホントは彼女いたってこと!?」
自分が彼女だったら引っ叩くかもと思っていたら、しっかりお見舞いされた。
頬を叩くいい音が校舎裏に響き渡り、初めて女子から食らった平手打ちに少しだけ眩暈がする。兄と喧嘩をして殴られた時より意外性があったからか衝撃が走った。
「騙すつもりとかはなくて……その、びびっときた人がいたから……」
「最悪! 私の時間返してよ!」
「いや、本当に申し訳ないです……」
春陽先輩、これって本当に『名案』でしたか……!?
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