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1.春
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しおりを挟む隣同士で座っていたのに、キスをしたまま体勢を変えた僕は、壁に先輩を押し付けて両腕の中に閉じ込める。やり方がよく分かりもしない、下手かもしれないキスに夢中になっていると、どんっと胸を叩かれてハッと我に返った。
「うぁ……っ!?」
「っは、も、ちっそくするかと……っ!」
「す、すみません……!」
慌てて離れると、先輩との間を繋いでいた銀糸がぷつりと切れた。
先輩の唇が唾液で濡れていて、ぐいっと手の甲で拭う仕草にまたじわじわと欲求が高まってくる。
無我夢中でキスをしていた時に感じたのは、先輩の唾液が甘くてハチミツやシロップのように感じたということ。何だか頭の中がぼーっとするような成分が入っていそうなくらい、その甘い唾液を求めてキスに夢中になってしまった。
「あの、ごめんなさい…調子に乗りましたよね……」
先輩の前に正座をしてしゅんと項垂れると、頭上からため息が聞こえてきた。先輩に愛想を尽かされてしまうかもと思って行動したのに、やりすぎてしまった。
初めてする『キス』が思ったよりも気持ちよくて、もっとほしいと思ってしまったのだ。でも、それは先輩の気持ちを考えない行動だったなと反省した。こういう大切なことは、お互いの気持ちが同じでないと意味がないのである。
「……イヤじゃなかったから、だいじょーぶ。そんな顔しないでよ、宇佐美くん」
「え……」
「ちょっとびっくりしただけだから、えっと、宇佐美くんの"キス"、きもちよかったから……」
だから、もう一回しない?
と、先輩が頬を赤く染めて制服を引っ張る。
その顔にドキッとして、頷くよりも先に先輩に顔を近づけている自分がいた。近づいてくる僕に彼はきゅっと目を瞑って、薄く唇を開けて準備してくれている。
ふにっと唇が触れ合って、僕はまた先輩の口内を味わうように舌を差し込んだ。今度はしっかり、先輩と舌が絡むのを意識しながらキスをすると、さっきよりも満たされる感覚がする。
今までよく、ただ触れるだけのキスで満足していたなと思う。こんなキスを知ってしまったら、もう後戻りできないほどハマってしまいそうな気がした。
「……キスって、こんな感じなんですね…」
「そ、だね……」
名残惜しいけれど、呼吸の仕方が分からないので一度唇を離すと、二人を繋いでいた銀糸がぷつりと切れる。先輩と鼻先同士が触れ合って、僕は額を押し付けて甘い吐息をもらすと先輩が長い指で僕の唇を濡らす唾液を拭って、そのままふにふにと弄ばれた。
「……誰かと練習したとか、ないよね?」
「え? 練習?」
「初めてにしては上手すぎる、もん……」
「上手だったら、イヤですか?」
「俺じゃない違う人と経験があったら、イヤ……」
「……誰とも経験ないですし、誰かと練習もしてません。先輩にするならってイメトレばっかり、してただけです」
何だか先輩が拗ねているように見えるので、ちゅっと軽いキスをしてみると、むっと唇を尖らせた。そして鼻先をピンっと指で弾かれて、僕は驚きに目を瞑るとくすくす小さい笑い声が耳に届く。先輩が眉を下げながら笑っていて、ぽすっと僕の胸にもたれてきた。
「……これからも、俺だけにしかしないで」
そう呟かれた言葉にドキッとする。
僕は付き合うのもキスをするのも先輩が初めてで、今のところは彼以外考えられない。先輩以外の人とキスをしたり触れ合いたいと思わないし、僕とそういうことをしたいと思う人も現れないだろう。
「今のところ、先輩以外の人とする予定はありません」
「"今のところ"じゃなくて…」
「え、っと、じゃあ……これから先も……?」
先輩はもう、一年足らずで学校を卒業していなくなる。彼の今後の進路は聞いていないけど、卒業したらこの関係はどうなるのだろう?
『これから先も』って、いつまで?
卒業した後もずっと?
今でさえ曖昧な恋人関係なのに、これから先の未来を約束できるのだろうか。頭の中ではそう思っているのに、自分の心では先輩とずっと一緒にいられたらいいな、という淡い思いを抱いている。こんなことを思っているだなんて、子供だと笑われてしまうかもしれないけれど。
「……春陽先輩こそ、僕以外の人と"キス"の経験がありますか?」
「気になる?」
「先輩は僕に聞いたじゃないですか……」
「……したことないから、息の仕方が分からなくて窒息しそうになったんだろーが」
年上の威厳が、とか何かぶつぶつ呟いている先輩。顔も耳も首も真っ赤にしている彼を初めて見て、僕はまたキスがしたい衝動に駆られた。
「先輩、あの……」
もう一回、キスしたい。
そう言って先輩の肩に手を置いた時、無情にも昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響く。
あぁ、もう!
もう一回キスできそうだったのに、なんで邪魔をするんだ!
「………お預けだね、宇佐美くん」
照れたように笑う先輩に、ぎゅっと胸を締め付けられる。雨が続くと憂鬱で体も頭も重くなるなと思っていたのに、先輩に会うと一瞬で吹き飛んだ。
そうして思ったのは、先輩とこうやって、誰もいない教室でキスできるなら雨の季節も悪くないかもしれない、という単純なこと。まさか自分がこんなことを考えるなんて、思ってもいなかったけれど。
「そういえば……約束、一個追加ね」
「なんですか?」
「"キス"は、特別な時しかダメ」
「えっ、な、なんで……!」
「俺の心臓が持たないから!」
しばらくはまた軽いキスだけね!
そう言って笑う先輩は、梅雨の時期には見られない太陽のように輝いていた。
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