【完結】君を上手に振る方法

社菘

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2.夏



 生徒は誰も来ない薄暗い空き教室。

 まだ桜が咲いていた時期に恋人(仮)になり、恋人同士のスキンシップとして『毎日キスをすること』という約束をしていた先輩と僕は、二人とも律儀にその約束をもう数ヶ月間守っていた。

 恋人のフリだったはずなのに、いつの間にかスキンシップが過剰になってきていることには気がついている。でも止められないのはどうしてなのか、キスがただ気持ちいいからではないことくらい自分でも気がついていた。

「ん、宇佐美くん……もう一回、キス、しよ?」
「でも、先輩……先生の見回り、来るかも……」
「先生とおれ、どっちが大事なの……?」
「も、もちろん先輩ですけど、でもバレたらどうするんですか!」
「テスト期間中ずっと会えなくて我慢してたんだから、今日くらい好きにしようよ」

 高校生になって、初めての夏休みがやってくる。ただ、その前に期末テストというなんとも無駄なテスト期間があり、6月の終わりからテストが終わるまで先輩との逢瀬はお預け状態だった。

 そしてやっとテストが終わった最終日、久しぶりに先輩と待ち合わせをした放課後。

 恋人のフリをしているだけの関係にもかかわらず心ゆくまでキスをして、テスト期間中に不足していたお互いのことをチャージしたのだ。

 ただ、期末テストは終わったが、問題はその答案である。

「春陽先輩、今日も告白されてる」
「彼女できたって噂だったのに、いまだに毎日じゃん。昨日は他校生から出待ちされてたぜ」
「モテるよな~。な、恵」
「……んぇ?」
「話聞いてなかったんかい!」

 蛍に容赦なくバシバシ背中を叩かれるが、僕は話を聞いている余裕がないくらい緊張していた。なぜかというと、昼休み明けに英語の授業があるのだ。あと期末テストの答案が返ってきていないのはその英語だけで、最後の答案返却で僕の夏休みが天国か地獄かが決まるのである。

 運動神経はいいのに頭の出来が悪いと自負している僕は、期末テストなんて適当でいいだろ……なんて、今までの自分なら思っていた。でも、春陽先輩の存在でその考えが一瞬にしてひっくり返ったのだ。

「なんの話?」
「春陽先輩! また告白されてるって」
「へえ……」
「お前マジで興味ないよな」
「別に、興味ないわけじゃないけど……」

 周りには秘密にしているのだが入学式で先輩と出会ってからというものの、お互いに告白を断るのが面倒なので恋人がいると言ったらいい、なんていう不思議な理由で付き合うことになってしまったのに先輩はいまだに告白ラッシュが続いているらしい。

 そしてボロが出ないようにと、毎日屋上でキスをするなんていう際どい約束もしっかり守っている。もちろん会えない日もあったけれど入学してからほとんど毎日先輩と会って、キスをして。

 でも相手はスクールカーストの王座にいるような先輩だし、そもそも僕は男なので、どうせ1週間もしたら簡単に捨てられると思っていた。今まで僕は誰とも付き合ったこともなければ、もちろんキスだってしたことがなかったから、飽きられるだろうと。

 でも先輩との付き合いはまだ続いていて、僕も先輩と逢瀬を重ねた結果、ただ触れるだけのキスではなくちゃんとした『キス』ができるようになった。

 5月は暖かい風が吹く屋上で、6月は雨が降る時期だったので空き教室で、7月は期末テストの勉強があったのでほとんど会えなかったけれど、着実に『恋人』としての階段を上っているのだ。

 ……(仮)の恋人だけれど。

「ていうか、恵と春陽先輩っていつの間にあんなに仲良くなったんだよ」
「そうそう。図書室で期末テストの勉強してた時、頭撫でられてたしな」
「お気に入りって言われてなかったっけ?」
「あー、まぁ……いろいろ?」
「なんだよそれ、怪しいな!」

 秘密の逢瀬を繰り返しているうちに、僕はいつの間にか本気で先輩を好きになっていた。

 2歳も年上で、もうあと1年もしないうちに卒業してしまう人。先輩も僕も告白を断るのが面倒だからという理由で恋人関係になっただけで、いつこの関係が解消されてもおかしくない。

 それこそ先輩が卒業してしまったら、この関係には自然とピリオドが打たれるだろう。

 でも今は、ものすごい奇跡が起こって、まだ僕が先輩の恋人である。そんな年上の恋人は期末テストが嫌だと言う僕に『期末テストで赤点を取らなければ、夏休みは一緒に過ごそう』と言ってくれたのだ。だからこそ今は彼が誰かに告白されているという事実より、次の英語の答案が気になって仕方ないのである。

 …………って、また告白されてんのかよ、とは思うけれど。

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