【完結】君を上手に振る方法

社菘

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2.夏

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「……あーっ、宇佐美くん! そっち行ったらダメだってぇ!」
「違いますよ! 春陽先輩がそっち行ったからでしょお!」
「ちがうもぉん!!」

 先輩がこの夏休み中にやりたいと言っていた二人プレイ専用のゲーム。このゲームは意思疎通やお互いのタイミングが大事で、二人の息が合わないと進まないゲームなのだ。

 謎解き要素もあるようなゲームなので、二人のキャラクターが協力していくのだ。だからこそプレイする側の信頼関係も必要になっている。このゲームを終える頃にはプレイしている二人の絆も深まっているだろうし、夫婦やカップルにおすすめだという話も聞いた。

「おれたちの信頼度足りないんじゃない?」
「………そりゃそうですよ、僕たちはつい先日会ったばかりですからねっ」
「つい先日って、もう4ヶ月くらいは経ってるのに」
「……ふんだ」
「あはっ、なぁに? 拗ねたの?」

 信頼度が足りない、と先輩に言われて無意識に僕の頬がぷくっと膨れる。我ながらなんとも子供っぽい拗ね方だ。

 デートも何もせずただ学校でだけ会う恋人なのだから『信頼関係がない』と言われればそうなのだが、この数ヶ月間は無駄な時間だったのか?と拗ねてしまうのも仕方ないじゃないか。

「……どうせ僕は出会って数ヶ月しか経ってないですし、先輩のことなんてほとんど知らないし…志鶴先輩とのほうがサクサク終われるんじゃないですか?」

 なんて、心にもないことを言ってしまう。ただ、先輩は僕が拗ねてそんなことを言っているとお見通しで、くすくす小さく笑われながらするっと顎を撫でられた。

「出会って数ヶ月しか経ってない人を家に招いたことも、泊まらせたこともないよ?」
「そんなの分かんないですもん……僕は出会って数ヶ月だし…」
「ふふ、拗ねちゃって可愛いね、宇佐美くん」

 先輩は余裕たっぷりに笑っている。学校一のモテ男は、きっとこういう面倒くさい恋人にも慣れているのだろう。先輩の過去の恋人にまで嫉妬してしまって、僕はコントローラーを置いて先輩の頭を引き寄せた。

「うさ、ん……」

 舌を入れるキスは僕が初めてだと、先輩は言っていた。だから、キスの最中の息継ぎの仕方が分からないと照れていた彼の言葉や態度を信じていいのだろうか?

 先輩と出会ってたかが数ヶ月、されど数ヶ月。

 高校生の気持ちなんて単純で、最初はただの告白避けとして始まったこの関係に僕はすっかりのめり込んでいた。先輩の一番でありたいと、彼のたった一人の特別になりたいと、そう願ってしまったのだ。

「………僕だけ、特別ですか…?」
「うん、そうだよ……」
「本当の本当に?」
「本当の本当に。宇佐美くんとしかまともに付き合ったこと、ないもん……」
「え?」
「え?って、なに」
「いや……先輩はてっきり、慣れてるんだろうなと……」
「なっ、人をなんだと思ってるんだよお! キスだって宇佐美くんが初めてだって言ったじゃん、俺!」

 まともに誰かと付き合うのも、キスも僕が初めてだと先輩は真っ赤な顔で告白する。僕も中学の時まではボサボサ頭に分厚いフレームのメガネをかけた、ザ・陰キャだったので全くモテなかったし誰とも付き合ったことはなかったが、先輩も本当に同じだったとは驚いた。

「俺のこと、遊び人とか慣れてるとか、そう思ってたんだ……」
「いや、その、イメージっていうか……?」
「思ってたってことじゃんか! 最低最低、先輩は傷ついた!」
「な、か、かわいい……」
「かわいいとかの話してないっ!」

 僕から疑われてぷりぷり怒っている先輩が可愛すぎてたまらない。先ほどは僕が些細なことで拗ねてしまったが、今度は先輩が頬を膨らませて拗ねてしまった。

 もう知らない、ひどい、なんて可愛いことを言いながらそっぽを向いてしまったので、僕は思わずぎゅっと後ろから抱きしめた。

「じ、自信がないんです、僕……」
「自信?」
「先輩がこの前、男子生徒にも告白されてたのを見て、誰かに取られてしまうかもって……」
「……告白されてたの、見たの?」
「見ました、空き教室に呼び出されてるところ…。先輩と一緒にいると、僕はどんどん欲深くてわがままになります」
「なんで?」
「だって、あんなに優しい断り方はイヤです。あんなの、僕なら絶対諦められない。先輩だって"ちゃんとした断り方"を勉強してくださいよぉ……」

 告白を断られて泣いてしまったら優しく肩を撫でてくれて、そのまま柔らかい声色で「ごめんね」と「ありがとう」を言うのだ。そんな優しさを見せられたら、断られたとしても諦められなくなる。

 先輩は告白を断られたりしたことがないから、断られた側の気持ちが分からないだけかもしれないけれど。僕がもしあの男子生徒だったら、向こう10年は引きずる恋かもしれない。

「……ごめんね、宇佐美くんがそんなこと思ってるなんて知らなくて……俺のこと嫌いになる?」
「えっ、ちが、そんなことにはならないですけど……!」
「俺は本当に、全部宇佐美くんが初めてだよ。それだけは信じてほしい。誰にでも付き合ってみる?とか、冗談でも言わないから……」

 先輩が僕の胸元にこてんと頭を預け、大きな瞳が見上げてくる。上目遣いで甘えた声を出しながら「ごめんね」と言われれば、単純な自分はもうそれだけで納得してしまうのだ。先輩にはきっと単純なやつだと思われているだろうが、惚れた弱みというやつである。

「あのさ、宇佐美くん」
「はい?」
「このゲームが終わったら、俺たちの仲も今より深まってると思うんだよね。きっと宇佐美くんもそれを望んでるでしょ?」
「そう、ですね……」
「だからさ、あの……このゲームが終わったら……」

 先輩がまだ話している最中なのに、唇にしか目がいかない。僕に何かを伝えようとして動いている唇を目で追って、まるで吸い寄せられているかのように顔を近づけた。

「先輩……」
「まって宇佐美くん、話が……」

 先輩が全て言い終わる前に唇が重なる――その瞬間、玄関のインターホンがけたたましく鳴り響いた。


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