報われない恋の育て方

さかき原枝都は

文字の大きさ
4 / 69

第3話 見事にフラられました ACT 3

しおりを挟む
カンカンカンカン。踏切の音がホームまで鳴り響く。

村本孝義むらもとたかよし戸鞠真純とまりますみそして僕はホームに立ち、電車が入線するのを待っている。
向かいのホームには杉村愛華すぎむらあいかが一人、ホームのベンチに座り電車が来るのを待っていた。

この組み合わせ、入学したての時は僕と孝義の二人だけだった。それが今は戸鞠と杉村という女子が交じり合わさり、なんとなくまとまった僕らの仲間といった感じで、この私立森ケ崎高校の日々を送っている。

「なぁ結城」孝義がぼっそりという。
「気は済んだか?」
「ん? ああ、なんかこう今まで引っかかってたもんが取れたような感じかな」
「そうか、それじゃ、よかったんじゃねぇのか。結果はどうあれ、お前が少しでもすっきりできたんだったらよう」

「でもなぁ――――。」

「ま、仕方ねぇよ。さっきフラれちまったばかりなんだからようぉ。心の傷は時間が何とかしてくれんじゃねぇのか」
「へぇー、孝義君ってたまにカッコいいこと言う時あるよね」
「なんだよ戸鞠、おだてんなよ」
「別にぃ―、なんとなくそう思っただけ。ねぇ―笹崎君」

ガタンガタン。電車が風を巻きながらホームに入る。
電車のドアが開き、僕たちは車内に乗ると、すっと車内の冷房が体を包み込む。
孝義はドアのすぐ横の席にドカッと腰を落とした、その隣に戸鞠がちょこんと座る。

僕は、決まって、ドアのポールに背をよりかけ、スマホにイヤフォンジャックを差し込み、お気に入りの曲を聴く。
車内から手を振る戸鞠に気が付いたんだろう、反対側のホームにいる杉村が手を振っていた。
ガタン、電車が動き出す。

流れるように車窓からはホームが残像のように消えゆく。
スッと車窓に海が映し出される。いつもの景色だ。
もうじき夏になるんだなぁ。そんな空の色に浮かぶ雲を眺め、はるか遠くにかすむ水平線の先はどうなっているんだろうと、ふと、思った。

見えるところだけは何も変わらない。変わることはないだろう。でもその先は……まだ見ぬ。まだ見えぬその先には何が待っているのか。
……それは今の僕にはわからない。でも、その先の景色をこの目で見るためには、霞がかかるまだ見えぬその先に、自らが進まなければ見ることができない。
なんかセンチになっちまっている。

電車は学校から二駅目の駅に止まった。
この駅は……。三浦恵美がいる街の駅。

何度も通った街。そして何度も立ち寄ったあの河川敷の防波堤。
もう行くことはないのかもしれない。
多分行けば、僕の胸の中の傷はまた痛むと思うからだ。
でもあのアルトサックスの音は、いまだにこの耳に残っていた。

電車が動き出す。流れるホームの景色に、なんとなくもうここには来ないんだという思いが出て寂しかった。
川の陸橋を走る電車。
この大きな川を渡れば、また流れる景色の雰囲気は変わる。

ふと孝義の方に目を向けると、なぜか顔を真っ赤にしていた。居眠りをする戸鞠の頭が孝義の肩に寄りかかっていた。
ふぅーん、やっぱりな。孝義って戸鞠のこと好きなんだ。ほんとわかりやすい奴だよ。

僕の視線を感じたのか、孝義は神妙な顔をして
『もう少しこのままにさせてくれ!』と、なんか心の声が語り掛けてくるようだった。

まったく……。しょうがないなぁ。
陸橋を渡り、次の駅を過ぎれば僕と、孝義は降りなければいけない。


あと少し……。

このままにしてあげるか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!

千鶴田ルト
ライト文芸
百合同人作家の茜音と、百合研究学生の悠乃はSNS上で百合の定義に関する論争を繰り広げる。やがてその議論はオフ会に持ち越される。そして、そこで起こったこととは…!? 百合に人生を賭けた二人が、ぶつかり合い、話し合い、惹かれ合う。百合とは何か。友情とは。恋愛とは。 すべての百合好きに捧げる、論争系百合コメディ!

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

処理中です...