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第20話 僕の知らない彼女 ACT 5
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家に帰ると案の定恵美はその姿を見せることはなかった。
帰ってきていることはわかっている。でも、自分の部屋に閉じこもっているのか、それとも僕の気配を感じ取って、わざと出てこないだけなのか、そこはわからないが、この家の中でさえ、その顔を見ることはない。
多分、家の中でであったにせよ、今は僕のことはいないものだと、彼女は勝手に塗りつぶしていくんだろうな。
あああ、なんだか、もうここにいるのがとても辛い。
とはいってもアパートで独り暮らしをするのも、なんとなく気が引ける。
正直、あの家を出ることになった時、律ねぇから正樹さんのところで暮らすことを打診されて、ちょっと気が引けた。どこかのアパートで独り暮らしをするというのも、意見として出したんだが、それは正樹さんが「そんな事させるわけ行かねぇだろ。馬鹿なこと言うんじゃねぇぞ結城」と半ば切れ加減で言われ、あ、もうこれは正樹さんのところに行くしかないんだというのを腹に決めたんだ。
ただ一つ、恵美のことが気がかりだったのは確かだ。
ほんと気まずいなぁ、ていう感じしかなかったんだけど、何とかま、やっては行けるもんだと思っていた。
しかしだ。この現実を目の当たりにして、やっぱり一人暮らしを強行すべきだったのではと、今更ながらに後悔している。
このままいけば僕と恵美の関係は泥沼化していくことは見るよりもしれている。
多分、あと1年半ほど。高校を卒業すれば、大学に入れば僕はここを出て行くだろう。
大学は都内の大学に進学しようかと今絞っているけど、そうなればここから通うよりは都内に住まいを移した方が便宜はいい。
正樹さんやミリッツアさんが嫌なわけではない。もうそのくらいになれば自立してもいいだろうろと、自分で思っているからだ。
ま、生活費くらいは何とかなるだろうし、当然バイトも始めているだろう。何とかなるさ。
恵美の進路については何も聞かされていない。
確かにうちの学校の吹奏楽では、恵美はかなり上位の方にいることは知っている。
しかもだ、他校からも恵美の存在は、『森ケ崎の三浦恵美』と名が通るほど有名人らしいのだ。
これはおのずと聞こえてきた情報だから、真意はどうだかわからないんだけど。
そうなれば進学する先は音大か?
なんて言うのを勝手に想像している。
どちらにせよあと1年半。恵美との生活は続くわけだ。
その間に少しでも今よりも、よくなっていればいいんだろうけど。これじゃ、無理っぽいよな。
小さいときの思い出なんかも今ではほんと、おぼろげどころか思い出すことさえ難しいっていうのに。
幼馴染は何もみんな仲がいいっという訳ではないという、お手本が僕らのようなものなんだろうな。
ボケっとリビングのソファーに腰を落として、天井を眺めながらそんな事を考えていた。
あ、そう言えば北城先生から明日、時間空けてろって言われていたんだった。
それっきり何の音さたもないんだけど。
いったい何があるんだ?
まったくわかんねぇ。ほんとわかんねぇ。
どうしたらいいのか、わからない。
「どうしたの結城?」
そんな僕を見て、店から戻ってきたミリッツアさんが声をかけた。
「いやなんでもないです」
「悩み事?」
「別に……」
ゆっくりとイスに腰掛けて、じっと僕の顔を見つめながら。
「なんでもないっていう顔してないわよ」
「それってどういう顔ですか?」
「ほんと太芽。お父さんに似てるわよねぇ。あの人も自分が困ったときそんな顔していた」
「そうですか。でもほんと、ミリッツアさんは父さんのこと良く知っていますね」
「………そ、そりゃね。だって、私達元は付き合っていた。恋人同士っていうの? そんな関係だったんだもん」
「うっそだぁ―、あの父さんがミリッツアさんと恋人同士だったなんて、聞いていませんよ」
「そうなんだ、……そうかもね。あなたには関係のない時のことだもん」
「まじめにそうだったんですか?」改めて聞いてみた。
「そうよ」ミリッツアさんは何の躊躇もなくきっぱりと答えた。
「でもね、別れた。そして太芽は日本に帰っていった。ただそれだけよ」
軽く「ただそれだけ」というミリッツアさんの声が少し上ずっていた。
また、父さんのことを思い出してしまったんだろうか。
父さんと母さんが亡くなり、ミリッツアさんも相当ショックを受けていたのは確かだ。
ようやく最近になって立ち直れてきたんだというのがわかる。ううん、違う。そう僕が感じ始めて来ていた。
正樹さんに至っても同じだ。
彼もこの世の終わりのような失望感にあの頃は包まれていた。
少しづつ、本当に少しづつだが、二人はまた、新たにこの現実を受け入れようとしている。
「あのさぁ、結城。もしかしてエミィのことで悩んでいる?」
なんかいきなり確信をつかれた。
「そんなんじゃないですよ。恵美のことは別に」
「嘘よね」
「どうしてそんなこと言えるんですか?」
「だってあなた、鼻の先き触っているんだもん。太芽もそうだった。ほんと親子よねぇ」
あきれるように言うミリッツアさん。
「でもね私からの。ううん私達夫婦からのお願い。エミィにはもう少しそっとしてあげて欲しいの。まだ、あの子の傷は癒えていなんだから」
「傷が癒えていないって、どういうことなんですか?」
「時期にわかるわよ。頼斗さんから連絡あったわよ。明日あなたを借りるってね。多分、一緒に連れて行くんだと思う。あ、そうそう。明日の朝早くに多分エミィは出かけると思う。でも何も言わないでそっとしておいてくれる。毎年のことだから」
こんな話を聞かされて。僕の混乱は、マックスだ!
「明日の昼過ぎにくるみたいよ頼斗さん」そう言って席を立ち、ミリッツアさんはまた店へと戻った。
はぁ~、ホントわかんねぇ。
帰ってきていることはわかっている。でも、自分の部屋に閉じこもっているのか、それとも僕の気配を感じ取って、わざと出てこないだけなのか、そこはわからないが、この家の中でさえ、その顔を見ることはない。
多分、家の中でであったにせよ、今は僕のことはいないものだと、彼女は勝手に塗りつぶしていくんだろうな。
あああ、なんだか、もうここにいるのがとても辛い。
とはいってもアパートで独り暮らしをするのも、なんとなく気が引ける。
正直、あの家を出ることになった時、律ねぇから正樹さんのところで暮らすことを打診されて、ちょっと気が引けた。どこかのアパートで独り暮らしをするというのも、意見として出したんだが、それは正樹さんが「そんな事させるわけ行かねぇだろ。馬鹿なこと言うんじゃねぇぞ結城」と半ば切れ加減で言われ、あ、もうこれは正樹さんのところに行くしかないんだというのを腹に決めたんだ。
ただ一つ、恵美のことが気がかりだったのは確かだ。
ほんと気まずいなぁ、ていう感じしかなかったんだけど、何とかま、やっては行けるもんだと思っていた。
しかしだ。この現実を目の当たりにして、やっぱり一人暮らしを強行すべきだったのではと、今更ながらに後悔している。
このままいけば僕と恵美の関係は泥沼化していくことは見るよりもしれている。
多分、あと1年半ほど。高校を卒業すれば、大学に入れば僕はここを出て行くだろう。
大学は都内の大学に進学しようかと今絞っているけど、そうなればここから通うよりは都内に住まいを移した方が便宜はいい。
正樹さんやミリッツアさんが嫌なわけではない。もうそのくらいになれば自立してもいいだろうろと、自分で思っているからだ。
ま、生活費くらいは何とかなるだろうし、当然バイトも始めているだろう。何とかなるさ。
恵美の進路については何も聞かされていない。
確かにうちの学校の吹奏楽では、恵美はかなり上位の方にいることは知っている。
しかもだ、他校からも恵美の存在は、『森ケ崎の三浦恵美』と名が通るほど有名人らしいのだ。
これはおのずと聞こえてきた情報だから、真意はどうだかわからないんだけど。
そうなれば進学する先は音大か?
なんて言うのを勝手に想像している。
どちらにせよあと1年半。恵美との生活は続くわけだ。
その間に少しでも今よりも、よくなっていればいいんだろうけど。これじゃ、無理っぽいよな。
小さいときの思い出なんかも今ではほんと、おぼろげどころか思い出すことさえ難しいっていうのに。
幼馴染は何もみんな仲がいいっという訳ではないという、お手本が僕らのようなものなんだろうな。
ボケっとリビングのソファーに腰を落として、天井を眺めながらそんな事を考えていた。
あ、そう言えば北城先生から明日、時間空けてろって言われていたんだった。
それっきり何の音さたもないんだけど。
いったい何があるんだ?
まったくわかんねぇ。ほんとわかんねぇ。
どうしたらいいのか、わからない。
「どうしたの結城?」
そんな僕を見て、店から戻ってきたミリッツアさんが声をかけた。
「いやなんでもないです」
「悩み事?」
「別に……」
ゆっくりとイスに腰掛けて、じっと僕の顔を見つめながら。
「なんでもないっていう顔してないわよ」
「それってどういう顔ですか?」
「ほんと太芽。お父さんに似てるわよねぇ。あの人も自分が困ったときそんな顔していた」
「そうですか。でもほんと、ミリッツアさんは父さんのこと良く知っていますね」
「………そ、そりゃね。だって、私達元は付き合っていた。恋人同士っていうの? そんな関係だったんだもん」
「うっそだぁ―、あの父さんがミリッツアさんと恋人同士だったなんて、聞いていませんよ」
「そうなんだ、……そうかもね。あなたには関係のない時のことだもん」
「まじめにそうだったんですか?」改めて聞いてみた。
「そうよ」ミリッツアさんは何の躊躇もなくきっぱりと答えた。
「でもね、別れた。そして太芽は日本に帰っていった。ただそれだけよ」
軽く「ただそれだけ」というミリッツアさんの声が少し上ずっていた。
また、父さんのことを思い出してしまったんだろうか。
父さんと母さんが亡くなり、ミリッツアさんも相当ショックを受けていたのは確かだ。
ようやく最近になって立ち直れてきたんだというのがわかる。ううん、違う。そう僕が感じ始めて来ていた。
正樹さんに至っても同じだ。
彼もこの世の終わりのような失望感にあの頃は包まれていた。
少しづつ、本当に少しづつだが、二人はまた、新たにこの現実を受け入れようとしている。
「あのさぁ、結城。もしかしてエミィのことで悩んでいる?」
なんかいきなり確信をつかれた。
「そんなんじゃないですよ。恵美のことは別に」
「嘘よね」
「どうしてそんなこと言えるんですか?」
「だってあなた、鼻の先き触っているんだもん。太芽もそうだった。ほんと親子よねぇ」
あきれるように言うミリッツアさん。
「でもね私からの。ううん私達夫婦からのお願い。エミィにはもう少しそっとしてあげて欲しいの。まだ、あの子の傷は癒えていなんだから」
「傷が癒えていないって、どういうことなんですか?」
「時期にわかるわよ。頼斗さんから連絡あったわよ。明日あなたを借りるってね。多分、一緒に連れて行くんだと思う。あ、そうそう。明日の朝早くに多分エミィは出かけると思う。でも何も言わないでそっとしておいてくれる。毎年のことだから」
こんな話を聞かされて。僕の混乱は、マックスだ!
「明日の昼過ぎにくるみたいよ頼斗さん」そう言って席を立ち、ミリッツアさんはまた店へと戻った。
はぁ~、ホントわかんねぇ。
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