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第45話 あの子とこの娘とそして君もなの? ACT 11
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帰りの電車の中。思わず座席に座っていた。
そしてただ茫然と外の流れる景色を眺めている。
「―――――私、笹崎君のことが好きなんです」
その言葉がずっと脳裏から離れなかった。そして、あのやわらかい彼女の唇の感触も。
今日という日はいったい何だったんだ? 二人の女性に告られた。
――――たんだよな。
なんかいまいちその実感がわかない。
なんでだ?
なんで僕みたいなのが二人の女性から告られたんだ? 不思議だ。……ありえないことだ。
未だに記憶にある。恵美に告ったあの日のことを。もう少し何か劇的なと言うか、そうだな、断られるにしたって、もっと感情がこもった感じに断られたかったな。あれじゃまるで事務的だ。
なんだか次の次のと言う感じでイモ洗いの様に断られたような感じがするけど、それは僕の気のせいか……。
でも、恵美は僕を見てすぐに僕の名を言った。
そりゃ、ただ、あの河川敷で眺めていただけなんだけど、自己紹介なんてしていなかったのに、僕の名を彼女は知っていた。……あ、当たり前か。そうだよな、僕が忘れていただけで、恵美はもしかしたら僕のことを知っていたのかもしれなかったんだから。父さんたちがあんなにも恵美の両親と仲が良かったことさえ、僕が一人だけ知らなかった……知ろうとしなかったのか? なんだかその部分の記憶があいまいなんだよな。
昔、本当に幼かったころ、一緒に遊んだ記憶。本当におぼろげながら、断片的に残っている記憶。それをつなぎ合わせる土台はない。ただあるというだけしかないこの記憶。
そして恵美を襲った事件。響音さんと言う人との出会いがあり、そして彼女は大きな傷を受け、最愛の人を失った。
その傷を背負い、ようやく前に踏み出し始めたばかりだという恵美。そんな彼女の心の辛さも僕はついこの間まで知らなかったことだ。
それでも、振られたことは事実だ。
それに恵美は極力僕を避けているのがよくわかる。
しかも彼女は意図的に僕を避けている。
振ったから避けている? いや、そんなことじゃない。
響音さんの事が忘れなくて。確かにそれは大いにあるだろう。何せ彼女にとっては、響音さんはすべてだっただろうから……。でも。何かが引っかかてるんだ。
僕と恵美の間にある何か。その何かが、今頃になって、大きく僕を支配しようとしている。
好きだった。好きだよ。今でも、僕は多分恵美のことが好きなんだと思う。もうフラれたことなんかどうでもいい。本当なら、僕を好きになってもらうまで努力し続けるなんて言う、地道な努力をこれからしていこうと、……実際、そんな思いとは違う想いが新たに湧き始めている。
僕は本当に恵美のことが好きなのか?
いきなり二人の女性に好きと言われた。
好きだといわれても、恵美のことが気になるわけでも、初志貫徹するくらいの気持ちを持てているのかと言われればそうでもない。
もしかしたら、どちらかと本当に付き合ってもいいような、そんな思いさえ、今僕の心の中では芽生えている。
じゃぁ、恵美と言う存在は僕にとってなんなんだ?
分かんねぇ。考えらば考えるほどわかんなくなる。
そんなことを考えながら僕は電車を降りた。駅の改札を抜け家までの道をただ、真っ白になって混乱している頭の中を整理するわけでもなく、茫然とした感じで歩いていた。
その僕の背中を追う足音があった。
「結城……結城ってば!」
間近になって声をかけられているのにようやく気が付いた。
その声の方に振り向くと、速足で歩いていたせいだろうか、少し顔を赤くして息を弾ませた恵美の姿が目に入った。
「ようやく気が付いたんだ。さっきからずっと呼んでいたのに。気が付かないでどんどん先に進んでいっちゃうんだもん、追いつくの大変だったわよ」
「えっ! 恵美」
きょとんとしながらも、聞こえた言葉を彼女はしっかりと聞いていた。
「何よ、私だったのがそんなに残念なの?」
「えっ、そ、そう言う意味じゃなくてさ。恵美から声かけてきたのが不思議と言うかちょっと驚いたていうか」
「何よ、そんなに変なことなの、あんたに私が声をかけたこと」
「いや、そうじゃなくて……」
「ま、いいわ、それより。―――――今日はありがとう」
最後方の声は小さくて、ちょっと照れてた感じがした。
「んっ? ありがとうって何が?」
「お昼、購買で……その」
ああ、もしかして『たまごサンド』のことか。
「別に、何でもないよ。ちゃんと食べたのかよ」
「う、うん食べたよ。ちゃんといただきました。せっかくだから」
「そうか、それじゃいいんじゃない」
「うん、そうよ、いいわよ。ただそれだけのことよ」
「で、パン2個で本当に足りてんのか?」
「あ、私そんなに大食いじゃないんだから。……でも、助かった」
「いつもどうしてんだよ。弁当なんか持って行っていないんだろ。いつも昼抜きなのか?」
「いつもじゃないけど」
「じゃぁ、抜いているときもあるんだ」
「べ、別にただ食欲がないときは食べないようにしているだけだから、それにあんたには関係ないことでしょ」
関係ないかぁ――。そう言われちゃうと後の言葉が見つからない。
そこから僕は何も話さなかった。
家の近くに来ると恵美はつかつかと僕を追い越し、先に玄関の戸を開けて、そのまま自分の部屋へと消えていった。
なんだ? と、思ったけど、これがいつもの恵美の僕に対する姿と行動だ。今に始まったわけでもなし。
それが当たり前だという感じで僕も気にせず、家の中に入った。
僕はすぐに自分の部屋に行かず、居間のソファに座り、その身を沈めた。
お店はもうじき閉店時間だ。
もうじき正樹さんたちもお店から上がってくるだろう。
その時なぜか急に珈琲が飲みたくなった。
いつも朝にセットすれば勝手に珈琲が出来上がる、ドリップマシンの珈琲じゃなく。お湯を沸かし、自分でドリップした珈琲が飲みたい。
そんな衝動にかられおのずと体を動かして、キッチンでケトルにミネラルウォーターを入れ沸かし始めていた。
豆を小鍋で軽く再ローストして、その豆を挽く。
夜になんでこんな面倒な淹れ方をしたがるんだ。
分からないけど、こうしていると、なんとなく落ち着く自分を感じていた。
そしてただ茫然と外の流れる景色を眺めている。
「―――――私、笹崎君のことが好きなんです」
その言葉がずっと脳裏から離れなかった。そして、あのやわらかい彼女の唇の感触も。
今日という日はいったい何だったんだ? 二人の女性に告られた。
――――たんだよな。
なんかいまいちその実感がわかない。
なんでだ?
なんで僕みたいなのが二人の女性から告られたんだ? 不思議だ。……ありえないことだ。
未だに記憶にある。恵美に告ったあの日のことを。もう少し何か劇的なと言うか、そうだな、断られるにしたって、もっと感情がこもった感じに断られたかったな。あれじゃまるで事務的だ。
なんだか次の次のと言う感じでイモ洗いの様に断られたような感じがするけど、それは僕の気のせいか……。
でも、恵美は僕を見てすぐに僕の名を言った。
そりゃ、ただ、あの河川敷で眺めていただけなんだけど、自己紹介なんてしていなかったのに、僕の名を彼女は知っていた。……あ、当たり前か。そうだよな、僕が忘れていただけで、恵美はもしかしたら僕のことを知っていたのかもしれなかったんだから。父さんたちがあんなにも恵美の両親と仲が良かったことさえ、僕が一人だけ知らなかった……知ろうとしなかったのか? なんだかその部分の記憶があいまいなんだよな。
昔、本当に幼かったころ、一緒に遊んだ記憶。本当におぼろげながら、断片的に残っている記憶。それをつなぎ合わせる土台はない。ただあるというだけしかないこの記憶。
そして恵美を襲った事件。響音さんと言う人との出会いがあり、そして彼女は大きな傷を受け、最愛の人を失った。
その傷を背負い、ようやく前に踏み出し始めたばかりだという恵美。そんな彼女の心の辛さも僕はついこの間まで知らなかったことだ。
それでも、振られたことは事実だ。
それに恵美は極力僕を避けているのがよくわかる。
しかも彼女は意図的に僕を避けている。
振ったから避けている? いや、そんなことじゃない。
響音さんの事が忘れなくて。確かにそれは大いにあるだろう。何せ彼女にとっては、響音さんはすべてだっただろうから……。でも。何かが引っかかてるんだ。
僕と恵美の間にある何か。その何かが、今頃になって、大きく僕を支配しようとしている。
好きだった。好きだよ。今でも、僕は多分恵美のことが好きなんだと思う。もうフラれたことなんかどうでもいい。本当なら、僕を好きになってもらうまで努力し続けるなんて言う、地道な努力をこれからしていこうと、……実際、そんな思いとは違う想いが新たに湧き始めている。
僕は本当に恵美のことが好きなのか?
いきなり二人の女性に好きと言われた。
好きだといわれても、恵美のことが気になるわけでも、初志貫徹するくらいの気持ちを持てているのかと言われればそうでもない。
もしかしたら、どちらかと本当に付き合ってもいいような、そんな思いさえ、今僕の心の中では芽生えている。
じゃぁ、恵美と言う存在は僕にとってなんなんだ?
分かんねぇ。考えらば考えるほどわかんなくなる。
そんなことを考えながら僕は電車を降りた。駅の改札を抜け家までの道をただ、真っ白になって混乱している頭の中を整理するわけでもなく、茫然とした感じで歩いていた。
その僕の背中を追う足音があった。
「結城……結城ってば!」
間近になって声をかけられているのにようやく気が付いた。
その声の方に振り向くと、速足で歩いていたせいだろうか、少し顔を赤くして息を弾ませた恵美の姿が目に入った。
「ようやく気が付いたんだ。さっきからずっと呼んでいたのに。気が付かないでどんどん先に進んでいっちゃうんだもん、追いつくの大変だったわよ」
「えっ! 恵美」
きょとんとしながらも、聞こえた言葉を彼女はしっかりと聞いていた。
「何よ、私だったのがそんなに残念なの?」
「えっ、そ、そう言う意味じゃなくてさ。恵美から声かけてきたのが不思議と言うかちょっと驚いたていうか」
「何よ、そんなに変なことなの、あんたに私が声をかけたこと」
「いや、そうじゃなくて……」
「ま、いいわ、それより。―――――今日はありがとう」
最後方の声は小さくて、ちょっと照れてた感じがした。
「んっ? ありがとうって何が?」
「お昼、購買で……その」
ああ、もしかして『たまごサンド』のことか。
「別に、何でもないよ。ちゃんと食べたのかよ」
「う、うん食べたよ。ちゃんといただきました。せっかくだから」
「そうか、それじゃいいんじゃない」
「うん、そうよ、いいわよ。ただそれだけのことよ」
「で、パン2個で本当に足りてんのか?」
「あ、私そんなに大食いじゃないんだから。……でも、助かった」
「いつもどうしてんだよ。弁当なんか持って行っていないんだろ。いつも昼抜きなのか?」
「いつもじゃないけど」
「じゃぁ、抜いているときもあるんだ」
「べ、別にただ食欲がないときは食べないようにしているだけだから、それにあんたには関係ないことでしょ」
関係ないかぁ――。そう言われちゃうと後の言葉が見つからない。
そこから僕は何も話さなかった。
家の近くに来ると恵美はつかつかと僕を追い越し、先に玄関の戸を開けて、そのまま自分の部屋へと消えていった。
なんだ? と、思ったけど、これがいつもの恵美の僕に対する姿と行動だ。今に始まったわけでもなし。
それが当たり前だという感じで僕も気にせず、家の中に入った。
僕はすぐに自分の部屋に行かず、居間のソファに座り、その身を沈めた。
お店はもうじき閉店時間だ。
もうじき正樹さんたちもお店から上がってくるだろう。
その時なぜか急に珈琲が飲みたくなった。
いつも朝にセットすれば勝手に珈琲が出来上がる、ドリップマシンの珈琲じゃなく。お湯を沸かし、自分でドリップした珈琲が飲みたい。
そんな衝動にかられおのずと体を動かして、キッチンでケトルにミネラルウォーターを入れ沸かし始めていた。
豆を小鍋で軽く再ローストして、その豆を挽く。
夜になんでこんな面倒な淹れ方をしたがるんだ。
分からないけど、こうしていると、なんとなく落ち着く自分を感じていた。
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