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第51話 あの子とこの娘とそして君もなの? ACT 17
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ジ――――と見つめる杉村のおばあさんの視線。
何かチクチク痛い。
買ってきたものを冷蔵庫にてきぱきとしまい込む杉村。台所に今日初めて入った。
広い台所。僕が居た家、そして正樹さんのところのキッチンとは全く雰囲気が違う。
昔ながらの、何だろう童話に出てきそうな感じの台所だ。さすがにかまどが薪とかと言う感じではないけど、ガスレンジに多分あれは業務用のガス台だろう。それに大きな業務用の冷蔵庫。そして流しはコンクリートなのか? 大きな流しに蛇口が3つもある。
これならちょっとした小料理やでも開けそうな感じがする台所。いや厨房と言うべきかもしれないな。
そこに今、杉村はほとんど一人でこの台所を使っているんだ。
なんとなくうなずける。昨日のあの料理。こんな厨房だったらできるのかもしれない。いや、それをここで作り上げた杉村の料理の腕がすごいんだ。
「どうしたんだい、そんなにうちの台所が珍しいのかい。ただ古いだけで広いくて寒い台所なんだけどね」
「あ、いや、なんかいいなぁって」
「ふぅ―ん、そうなのかい。愛華一人には広すぎる台所なんだけどね。今時のシステムキッチンていうのかい。そんな感じだったら使いやすいだろうけどね」
杉村は「別に、もう慣れてるし、私はここの台所が好きなの」
「はぁ―、そうかい。お前の母親はこの台所が一番嫌いだってよく言っていたんだけどね。全く正反対なんだよねぇ」
「もう、お母さんと比べないの! あの人は料理とかそんなものには一切興味ないんだから。ほんとよくここまでおばあちゃんと正反対に生まれてきたもんだね」
「あはは、逆に言われちまったか。そうだな。あの子が特別違うだけなのかもしれないな。全く、こんな可愛い娘を独りほっておいて、ドイツに行きっぱなしのまま帰ろうとしないんだから」
「あ、そこは否定しないよ。でももういいんだ。お母さんも自分の進む道に没頭しているだけなんだし、私のせいで、それが出来ないなんて言わせたくないんだけど」
「……本当に。ふぅ、バカな子だよ。――――あの子は」
「あ、ごめんね、こんなこと聞かせちゃって、あの部屋で休んでいて、今お茶淹れて持っていくから」
「あ、うん。急がなくていいから」
「大丈夫だよ」そう言って杉村はにっこりとほほ笑んだ。
その顔が今日一番の笑顔だったように思える。
昨日いたあの部屋。
藺草の香りがまた僕を包み込む。なんとなく落ち着く。
そして昨日、僕はあの杉村の膝でここで寝ていた。そんなことを思い起こしてしまう。
ふと見る外のミカンの木。
あのミカンすっぱかったなぁ―。
まだ完熟していない青ミカン。これから徐々に甘さが増していくんだろう。
完熟したこのミカンの甘さはどんな甘さ何だろうか。そんなことを考えながらミカンの木を眺めていると。
おばあさんがお盆に湯気の立つお茶をのせてやってきた。
「はいごめんね、多分愛華が無理言ったんだろうね。疲れただろ」
そう言ってお茶を僕の前に置いた。
温かいお茶。冷たい麦茶でもまだ大丈夫なくらいの気温は今はあるが、熱いお茶の湯気を見るとなぜかそれが普通であるかのように思えてくる。
「すみません、ありがとうございます」
「なんでもないさ」と言いニコッと笑うおばあさんの顔はとてもやさしそうに見える。
「ちょうどよかったよ。お団子お客さんの差し入れなんだけどさ、よかったらどうぞ」
小皿に乗せられた串団子。
「愛華は今着替えにいっているよ。もうじき来るから、少し待っていな」
「はい」とだけ答えた。
なんとなく重い空気。じっと僕を見つめるおばあさんの視線が痛い。
「ところで……」
その一言にぴくんと反応してしまった。
「そんなに緊張しなくたっていいよ。うふふ、そうかぁ、愛華がねぇ―、あの子にこんなかわいらしい男の子の友達がいたなんてねぇ。ん――――あ、友達なのかい? それとも……。ま、別にいいんだけど。でもまだ避妊だけはしておいた方がいいと思うんだけどなぁ。ああ、でもさ、出来ちゃったら、それはさ、もう、責任取ってもらう訳なんだけど」
ぶっ! 思わずすするお茶を噴いてしまった。
「僕達まだ、そんな……」
「あらそうなのかい、ずいぶん奥手だねぇ――」
とにんまりしながら言われると、かえって照れてしまう。
何かチクチク痛い。
買ってきたものを冷蔵庫にてきぱきとしまい込む杉村。台所に今日初めて入った。
広い台所。僕が居た家、そして正樹さんのところのキッチンとは全く雰囲気が違う。
昔ながらの、何だろう童話に出てきそうな感じの台所だ。さすがにかまどが薪とかと言う感じではないけど、ガスレンジに多分あれは業務用のガス台だろう。それに大きな業務用の冷蔵庫。そして流しはコンクリートなのか? 大きな流しに蛇口が3つもある。
これならちょっとした小料理やでも開けそうな感じがする台所。いや厨房と言うべきかもしれないな。
そこに今、杉村はほとんど一人でこの台所を使っているんだ。
なんとなくうなずける。昨日のあの料理。こんな厨房だったらできるのかもしれない。いや、それをここで作り上げた杉村の料理の腕がすごいんだ。
「どうしたんだい、そんなにうちの台所が珍しいのかい。ただ古いだけで広いくて寒い台所なんだけどね」
「あ、いや、なんかいいなぁって」
「ふぅ―ん、そうなのかい。愛華一人には広すぎる台所なんだけどね。今時のシステムキッチンていうのかい。そんな感じだったら使いやすいだろうけどね」
杉村は「別に、もう慣れてるし、私はここの台所が好きなの」
「はぁ―、そうかい。お前の母親はこの台所が一番嫌いだってよく言っていたんだけどね。全く正反対なんだよねぇ」
「もう、お母さんと比べないの! あの人は料理とかそんなものには一切興味ないんだから。ほんとよくここまでおばあちゃんと正反対に生まれてきたもんだね」
「あはは、逆に言われちまったか。そうだな。あの子が特別違うだけなのかもしれないな。全く、こんな可愛い娘を独りほっておいて、ドイツに行きっぱなしのまま帰ろうとしないんだから」
「あ、そこは否定しないよ。でももういいんだ。お母さんも自分の進む道に没頭しているだけなんだし、私のせいで、それが出来ないなんて言わせたくないんだけど」
「……本当に。ふぅ、バカな子だよ。――――あの子は」
「あ、ごめんね、こんなこと聞かせちゃって、あの部屋で休んでいて、今お茶淹れて持っていくから」
「あ、うん。急がなくていいから」
「大丈夫だよ」そう言って杉村はにっこりとほほ笑んだ。
その顔が今日一番の笑顔だったように思える。
昨日いたあの部屋。
藺草の香りがまた僕を包み込む。なんとなく落ち着く。
そして昨日、僕はあの杉村の膝でここで寝ていた。そんなことを思い起こしてしまう。
ふと見る外のミカンの木。
あのミカンすっぱかったなぁ―。
まだ完熟していない青ミカン。これから徐々に甘さが増していくんだろう。
完熟したこのミカンの甘さはどんな甘さ何だろうか。そんなことを考えながらミカンの木を眺めていると。
おばあさんがお盆に湯気の立つお茶をのせてやってきた。
「はいごめんね、多分愛華が無理言ったんだろうね。疲れただろ」
そう言ってお茶を僕の前に置いた。
温かいお茶。冷たい麦茶でもまだ大丈夫なくらいの気温は今はあるが、熱いお茶の湯気を見るとなぜかそれが普通であるかのように思えてくる。
「すみません、ありがとうございます」
「なんでもないさ」と言いニコッと笑うおばあさんの顔はとてもやさしそうに見える。
「ちょうどよかったよ。お団子お客さんの差し入れなんだけどさ、よかったらどうぞ」
小皿に乗せられた串団子。
「愛華は今着替えにいっているよ。もうじき来るから、少し待っていな」
「はい」とだけ答えた。
なんとなく重い空気。じっと僕を見つめるおばあさんの視線が痛い。
「ところで……」
その一言にぴくんと反応してしまった。
「そんなに緊張しなくたっていいよ。うふふ、そうかぁ、愛華がねぇ―、あの子にこんなかわいらしい男の子の友達がいたなんてねぇ。ん――――あ、友達なのかい? それとも……。ま、別にいいんだけど。でもまだ避妊だけはしておいた方がいいと思うんだけどなぁ。ああ、でもさ、出来ちゃったら、それはさ、もう、責任取ってもらう訳なんだけど」
ぶっ! 思わずすするお茶を噴いてしまった。
「僕達まだ、そんな……」
「あらそうなのかい、ずいぶん奥手だねぇ――」
とにんまりしながら言われると、かえって照れてしまう。
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