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第55話 季節が変わるその時期に ACT1
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「ささざきくぅ――――ん」
耳元で、甘ったるい声で呼ばれ、ぞくっと背筋に寒気を感じた。
季節は次第に夏の暑さを遠のかせ、今では教室内に暖房が入るくらい寒さを感じる時期になってきた。
もうじき、雪が降る。……て、この地域は正直雪はほとんど降らないんだけど。寒さと空の雰囲気はそんなことを訴えているかのように、どんよりとした日が続くようになった。
たまに、日差しが差し込むと、陽の光のありがたみと言うべきだろうか、柔らかな温かさに包まれ、おのずと眠気が差し込む。そんな心地いい気分でうとうとしていた時に耳元であんな声で呼ばれると、ぞくぞくっとくる。
閉じていた目を開けるといったい何が映っているのか、それに気が付くまで幾分の猶予が必要なくらい、まじかにその顔があった。
「えっ、戸鞠!」
「ふぅーん、笹崎君ってまつげ長かったんだね。なんか女の子みたいで可愛いよ」
ち、近い近すぎる。戸鞠の顔が、もうくっつく寸前のところにある。
ほんの少し顔を動かせば、多分唇が重なってもおかしくない。
「戸鞠、もしかしてキスされたい?」
そう言っても彼女はその位置から動こうとはしなかった。
「したければすればいいんじゃない」
彼女はそう言う。ふんわりと桃のような甘い香りを漂わせながら。
スッと顔を動かすと、おのずと唇同士が触れ合った。
柔らかく、プルンとした唇の感触。
甘い香りがさらに洟から抜け出す。
ただ唇同士が触れ合っただけの軽いキス。
さらさらとした彼女の髪の毛がほほに触れる。そしてゆっくりと離れていく。
「しちゃったね」と戸鞠は言う。
最近、こういうことに関しては少し麻痺状態なのかもしれない。
特別戸鞠とキスをしても、ああ、したんだ。そんな感じにしか受け入れていなかった。
「えへへへ、浮気だね」
「浮気か?」
「そうだよ、浮気したんだよ。今ここで、……私と」
「じゃぁ、それってお互い様っていうことで」
「別にお互い様じゃないんだけどね」
ん? それってどういう意味で言っているんだ?
「ま、愛華には報告しなきゃ」
「おいおい、それまずいんじゃない?」
「別にぃ。まずくなんかないよ。愛華もう知ってるし。それに私孝義君とはもうそう言う関係じゃないしね」
「はぁ? 何それ。初耳なんだけど」
「そうでしょ、だって愛華以外特にあなた。笹崎君には内緒にしていたんだもん。もちろん孝義君にも口止めしていたんだけど」
「なんでだよ。なんで僕だけに口止めしてんだよ」
それでなのか? ここのところ孝義の奴なんとなく距離を置いているような感じになっていたのは。
「さぁ、なんででしょうか? 当てたら、ご褒美上げちゃうんだけどなぁ――」
にっこりと笑いながら言う戸鞠のその姿に、ちょっと焦りながらも。
「分かんねぇ――」
「そうでしょうねぇ―、何せ本当にこういうことに関しては疎い結城君なんですもんねぇ―」
はいはい疎くてわるぅーございました。
「まっ、いいか。それじゃ、これ宿題ね。期限は別にいつでもいいんだけど、多分そのうち提出っていうことになると思うけどね」
「はぁ―、で、ほかの連中は?」
「あのねぇ―、今何時だと思ってんの? もう6時よ。とっくにみんないないわよ」
ああ、そうなんだほんの一瞬だと思っていたけど実は、相当寝込んでいたみたいだ。
愛華は? あ、そうか今日は確か、お店手伝いに行くって言っていた。
たまにお店の手伝いもする愛華。最も、愛華には別な理由もあるようだ。
料理のことを職人さんから教えてもらうのも一つにある。それに孫とはいえ、働いた分はちゃんとバイト代を支払ってくれている。
もうすでに料理の腕はかなりのもので、これは僕自身が愛華の作る料理をいつも堪能させてもらっているから実証済みだ。それでも愛華はまだまだと言っているが、おばあさん曰く。
「この子がこの店継いでくれたらほんと、あと思い残すことないんだけどねぇ」などと言うくらいだ。
まぁあのおばあさん、見た目も若く綺麗な人だけど、実際の年齢を聞いてびっくりした。
55歳。で、僕と同い年の孫がいる。
で、愛華の母親もまだ若い。34歳とは。写真を見せてもらったが20代と言ってもいいくらい若い感じの母親だった。幸子さんと同じくらいの年齢。
ふとそんなことを思った。
でもそうなると単純に計算しても愛華を生んだのは15の時? それはいくら何でも早すぎないのか?
まぁでも実際幸子さんも17の時に響音さんを生んだということになるから、身近に僕らと同い年で、子供を産んだという女性に縁があるのか? そんなことも考えてしまう。
それに、おばあさん。いや名前は佳奈美さん。杉村佳奈美と言う名前だ。
もうすでに愛華のおばあさんとは言っていない。正直まだ母親と言ってもいいくらいの年なんだから。
それに……。
僕ら二人の関係に色濃く割り込んでくる彼女の意思が見え隠れしている。
耳元で、甘ったるい声で呼ばれ、ぞくっと背筋に寒気を感じた。
季節は次第に夏の暑さを遠のかせ、今では教室内に暖房が入るくらい寒さを感じる時期になってきた。
もうじき、雪が降る。……て、この地域は正直雪はほとんど降らないんだけど。寒さと空の雰囲気はそんなことを訴えているかのように、どんよりとした日が続くようになった。
たまに、日差しが差し込むと、陽の光のありがたみと言うべきだろうか、柔らかな温かさに包まれ、おのずと眠気が差し込む。そんな心地いい気分でうとうとしていた時に耳元であんな声で呼ばれると、ぞくぞくっとくる。
閉じていた目を開けるといったい何が映っているのか、それに気が付くまで幾分の猶予が必要なくらい、まじかにその顔があった。
「えっ、戸鞠!」
「ふぅーん、笹崎君ってまつげ長かったんだね。なんか女の子みたいで可愛いよ」
ち、近い近すぎる。戸鞠の顔が、もうくっつく寸前のところにある。
ほんの少し顔を動かせば、多分唇が重なってもおかしくない。
「戸鞠、もしかしてキスされたい?」
そう言っても彼女はその位置から動こうとはしなかった。
「したければすればいいんじゃない」
彼女はそう言う。ふんわりと桃のような甘い香りを漂わせながら。
スッと顔を動かすと、おのずと唇同士が触れ合った。
柔らかく、プルンとした唇の感触。
甘い香りがさらに洟から抜け出す。
ただ唇同士が触れ合っただけの軽いキス。
さらさらとした彼女の髪の毛がほほに触れる。そしてゆっくりと離れていく。
「しちゃったね」と戸鞠は言う。
最近、こういうことに関しては少し麻痺状態なのかもしれない。
特別戸鞠とキスをしても、ああ、したんだ。そんな感じにしか受け入れていなかった。
「えへへへ、浮気だね」
「浮気か?」
「そうだよ、浮気したんだよ。今ここで、……私と」
「じゃぁ、それってお互い様っていうことで」
「別にお互い様じゃないんだけどね」
ん? それってどういう意味で言っているんだ?
「ま、愛華には報告しなきゃ」
「おいおい、それまずいんじゃない?」
「別にぃ。まずくなんかないよ。愛華もう知ってるし。それに私孝義君とはもうそう言う関係じゃないしね」
「はぁ? 何それ。初耳なんだけど」
「そうでしょ、だって愛華以外特にあなた。笹崎君には内緒にしていたんだもん。もちろん孝義君にも口止めしていたんだけど」
「なんでだよ。なんで僕だけに口止めしてんだよ」
それでなのか? ここのところ孝義の奴なんとなく距離を置いているような感じになっていたのは。
「さぁ、なんででしょうか? 当てたら、ご褒美上げちゃうんだけどなぁ――」
にっこりと笑いながら言う戸鞠のその姿に、ちょっと焦りながらも。
「分かんねぇ――」
「そうでしょうねぇ―、何せ本当にこういうことに関しては疎い結城君なんですもんねぇ―」
はいはい疎くてわるぅーございました。
「まっ、いいか。それじゃ、これ宿題ね。期限は別にいつでもいいんだけど、多分そのうち提出っていうことになると思うけどね」
「はぁ―、で、ほかの連中は?」
「あのねぇ―、今何時だと思ってんの? もう6時よ。とっくにみんないないわよ」
ああ、そうなんだほんの一瞬だと思っていたけど実は、相当寝込んでいたみたいだ。
愛華は? あ、そうか今日は確か、お店手伝いに行くって言っていた。
たまにお店の手伝いもする愛華。最も、愛華には別な理由もあるようだ。
料理のことを職人さんから教えてもらうのも一つにある。それに孫とはいえ、働いた分はちゃんとバイト代を支払ってくれている。
もうすでに料理の腕はかなりのもので、これは僕自身が愛華の作る料理をいつも堪能させてもらっているから実証済みだ。それでも愛華はまだまだと言っているが、おばあさん曰く。
「この子がこの店継いでくれたらほんと、あと思い残すことないんだけどねぇ」などと言うくらいだ。
まぁあのおばあさん、見た目も若く綺麗な人だけど、実際の年齢を聞いてびっくりした。
55歳。で、僕と同い年の孫がいる。
で、愛華の母親もまだ若い。34歳とは。写真を見せてもらったが20代と言ってもいいくらい若い感じの母親だった。幸子さんと同じくらいの年齢。
ふとそんなことを思った。
でもそうなると単純に計算しても愛華を生んだのは15の時? それはいくら何でも早すぎないのか?
まぁでも実際幸子さんも17の時に響音さんを生んだということになるから、身近に僕らと同い年で、子供を産んだという女性に縁があるのか? そんなことも考えてしまう。
それに、おばあさん。いや名前は佳奈美さん。杉村佳奈美と言う名前だ。
もうすでに愛華のおばあさんとは言っていない。正直まだ母親と言ってもいいくらいの年なんだから。
それに……。
僕ら二人の関係に色濃く割り込んでくる彼女の意思が見え隠れしている。
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