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第60話 季節が変わるその時期に ACT6
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夢を見た。
なんだかとても現実じみた夢だった。小さくてかわいい女の子。
その子が僕に手を差し伸べてこう言った。
「あなたは私のお婿さんになる人なんだよ」
でもその子の姿はぼやけていてよく見えない。
「うん」とうなずいた自分になんの違和感もなかった。
まだ幼いころの僕の姿、そんなものは見る必要もないと思うが、でも、その姿は違うものであるかのように思うた。違うものって……。
人じゃないっていうことなのか? いや違う。
僕自身が思っていた幼き姿とは違うということだ。
じゃぁ、いったいこの子は誰なんんだ? でも自分であることは間違いないようだ。
そして、僕らは幼いキスを交わしたんだ。
それから、その夢は真っ白な霧に覆われた。
不思議な夢。そんな感じがした。
でもあの少女は誰なんだろう。ものすごく現実味のある夢だっただけに、その少女のことが気になる。
ふと時計を見ると7時半だった。
「やべぇ!! 寝過ごした」
やらかしたいつもは6時少し前には起きていたのに。
急いでリビングに行くとキッチンにミリッツアさんの姿があった。
「すみません。寝坊しました」
「あら、おはよう。いいのよ、でも珍しいわね結城が寝坊するなんて」
朝食の支度をしながら、にっこりとほほ笑んでミリッツアさんは言う。
そして目をきらっとさせて
「そうそう、ねぇ―結城。ちょっと聞いたんだけど、彼女出来たんだって?」
「えっ!」
「なによぉ―、とぼけなくたっていいじゃない。エミーから聞いたわよ」
「ま、まぁ―、何と言うかその」
「良かったじゃない。美人さんなんだって、今度連れてきなさいよ。私達にも紹介してほしいなぁ――」
「ええ、まぁ―。そ、そうですね。僕コーヒー淹れます」
「ま、照れちゃって。可愛い。お願いね」
正樹さんたちが厨房から上がってくるのにまだ余裕があった。
ちょっと迷ったけど、ギリギリ間に合う。寝坊したから珈琲だけでもと思い、ドリップすることにした。
急ぐ必要はない。落ち着いていつも通りに。
沸いた湯をドリッパーの豆の中に静に注ぐと、香ばしく甘い香りが立ち込める。
その香りを感じながら鼻歌を漏らし、バケットを切るミリッツアさんのその姿を見た時、ドキッとした。
あの夢に出てきた少女。ぼやけた少女と今、目の前にいるミリッツアさんの姿がなぜか一致したように見えたからだ。
まさか……。いくら何でもそれは違うだろ。
まだ寝ぼけているのか?
「ん、どうしたの?」ミリッツアさんが問いかけてきた。
「あ、いや、何でも」
「そぉ、でもいい香りよね。やっぱりこうして淹れる珈琲って香りが違う。フランスにいたころ、よく太芽が珈琲淹れてくれたなぁ。なんだか懐かしい。……」
彼女の手が止まった。そして、瞼から流れ落ちる一筋の涙。
「ミリッツアさん」
「ごめんねぇ。やだなぁ―、最近ものすごく涙もろくなちゃって。思い出しちゃった」
そしてすっと顔を上げ「うん。大丈夫」と言い、またバケットを切りだす。
その時、正樹さんと葵さんが厨房からやってきて。
「お、いい香りだな」正樹さんがそう言うと「そうだね」とミリッツアさんが答えた。
その彼女の表情に気づきながらも、政樹さんは「一杯先にもらってもいいかな結城」と言う。
「はい」ちょうど淹れ終わったドリッパーを外し、ポットの中の珈琲をカップに注いだ。
正樹さんの前にその珈琲を置くと、彼は静かに口にして「思い出していたんだろ」と彼女に言った。
「あはは、ばれちゃった。……ちょっとね」
ミリッツアさんは、はにかみながら答えた。
「まったく親子そろって罪づくりな奴だな。お前らは」
お前ら、そう言った。それは僕と父さんのことを言っているんだとすぐに分かった。
そして、政樹さんはニヤリとしながら
「そう言えば結城。お前、彼女出来たんだってな」
「へっ!」
今度は正樹さんですか?
その隣で葵さんが「くっっ」と笑っていた。
なんだかとても現実じみた夢だった。小さくてかわいい女の子。
その子が僕に手を差し伸べてこう言った。
「あなたは私のお婿さんになる人なんだよ」
でもその子の姿はぼやけていてよく見えない。
「うん」とうなずいた自分になんの違和感もなかった。
まだ幼いころの僕の姿、そんなものは見る必要もないと思うが、でも、その姿は違うものであるかのように思うた。違うものって……。
人じゃないっていうことなのか? いや違う。
僕自身が思っていた幼き姿とは違うということだ。
じゃぁ、いったいこの子は誰なんんだ? でも自分であることは間違いないようだ。
そして、僕らは幼いキスを交わしたんだ。
それから、その夢は真っ白な霧に覆われた。
不思議な夢。そんな感じがした。
でもあの少女は誰なんだろう。ものすごく現実味のある夢だっただけに、その少女のことが気になる。
ふと時計を見ると7時半だった。
「やべぇ!! 寝過ごした」
やらかしたいつもは6時少し前には起きていたのに。
急いでリビングに行くとキッチンにミリッツアさんの姿があった。
「すみません。寝坊しました」
「あら、おはよう。いいのよ、でも珍しいわね結城が寝坊するなんて」
朝食の支度をしながら、にっこりとほほ笑んでミリッツアさんは言う。
そして目をきらっとさせて
「そうそう、ねぇ―結城。ちょっと聞いたんだけど、彼女出来たんだって?」
「えっ!」
「なによぉ―、とぼけなくたっていいじゃない。エミーから聞いたわよ」
「ま、まぁ―、何と言うかその」
「良かったじゃない。美人さんなんだって、今度連れてきなさいよ。私達にも紹介してほしいなぁ――」
「ええ、まぁ―。そ、そうですね。僕コーヒー淹れます」
「ま、照れちゃって。可愛い。お願いね」
正樹さんたちが厨房から上がってくるのにまだ余裕があった。
ちょっと迷ったけど、ギリギリ間に合う。寝坊したから珈琲だけでもと思い、ドリップすることにした。
急ぐ必要はない。落ち着いていつも通りに。
沸いた湯をドリッパーの豆の中に静に注ぐと、香ばしく甘い香りが立ち込める。
その香りを感じながら鼻歌を漏らし、バケットを切るミリッツアさんのその姿を見た時、ドキッとした。
あの夢に出てきた少女。ぼやけた少女と今、目の前にいるミリッツアさんの姿がなぜか一致したように見えたからだ。
まさか……。いくら何でもそれは違うだろ。
まだ寝ぼけているのか?
「ん、どうしたの?」ミリッツアさんが問いかけてきた。
「あ、いや、何でも」
「そぉ、でもいい香りよね。やっぱりこうして淹れる珈琲って香りが違う。フランスにいたころ、よく太芽が珈琲淹れてくれたなぁ。なんだか懐かしい。……」
彼女の手が止まった。そして、瞼から流れ落ちる一筋の涙。
「ミリッツアさん」
「ごめんねぇ。やだなぁ―、最近ものすごく涙もろくなちゃって。思い出しちゃった」
そしてすっと顔を上げ「うん。大丈夫」と言い、またバケットを切りだす。
その時、正樹さんと葵さんが厨房からやってきて。
「お、いい香りだな」正樹さんがそう言うと「そうだね」とミリッツアさんが答えた。
その彼女の表情に気づきながらも、政樹さんは「一杯先にもらってもいいかな結城」と言う。
「はい」ちょうど淹れ終わったドリッパーを外し、ポットの中の珈琲をカップに注いだ。
正樹さんの前にその珈琲を置くと、彼は静かに口にして「思い出していたんだろ」と彼女に言った。
「あはは、ばれちゃった。……ちょっとね」
ミリッツアさんは、はにかみながら答えた。
「まったく親子そろって罪づくりな奴だな。お前らは」
お前ら、そう言った。それは僕と父さんのことを言っているんだとすぐに分かった。
そして、政樹さんはニヤリとしながら
「そう言えば結城。お前、彼女出来たんだってな」
「へっ!」
今度は正樹さんですか?
その隣で葵さんが「くっっ」と笑っていた。
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