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魔術、習得したい!
自然な敵対宣言
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「……それで、捕まらなかったのね。あなたたちには期待したのに、残念だわ」
巨大な機械────大勢の機械兵を前に、少女は傘をさして立つ。その幼い見た目からは害を感じない。しかし、右目には革製の眼帯をして、左目は静かに現実を見ている。立ち姿はどこか大人びていた。
「エネル、あなたを信じてたのよ。機械兵がこれだけいれば、町は焼けるし「ユリウスの果実」は見つかるはずだった。それなのに、肝心の果実がいないわ」
「気にするな、レーゼン。泳がせただけだ」
対するローブに身を包んだ人物は、落ち着き払って答えた。これくらいは何とでもないと、手を軽く振る。機械兵を見ると「調整が必要か」と一人でつぶやいていた。
「ふーん、その勝負「勝てる」の?」
「勝てるとも。俺たち科学軍に、敗北はない。俺はあいつを助け出した……あの魔術師に見覚えがある」
「それで泳がせたのね。エリア・サンサーラが落ちたときの魔術師と、同じかしら」
すでに形のなくなった、建物の残骸物に少女は座る。もう一人はそれに寄り掛かり、少女に寄り掛かるように耳を近づけた。
「立てる音は同じだ。見た目では判断できんな」
「あっそう、ふーん」
興味のなさそうな返事だ。それにお互い気にする様子はない。少女はローブの人物の肩に触れ、そっと顔を近づけ、近くでその人物を見た。
「エネル、隠さなくていいじゃない。それで聞こえるの?」
にっこり笑う少女、どこか不気味にも思える。それにその人物は、口角をあげた。
「笑わせる。お前もそれで見えているのか」
「えぇ、左で十分。エネルがわかればいいのよ」
少女はそう言って立ち上がると、振り返らずに歩き出した。もう一人も立ち上がり、少女を確かに見る。
「私がいってきてあげる。エネル、バックアップを頼むわ」
旧文化の残骸の上、一人残される。不思議な会話を終えて、その人物は左手をローブから出した。
「……いいだろう、俺がやるよりはいい。後ろは得意じゃないが、任せろ」
────現れた「機械の腕」を空間にかざす。腕からは蜂の形をした偵察機が3機飛び出し、3枚の画面が展開された。そこにグラフが映し出され、状況をデータで示す。巨大な機械兵たちの目に光が灯り、そして立ち上がる。戦力はここに、抜かりなくそろっていた。
「科学は万全だ。観念してもらおうか、転生の魔術師」
計画は起動する。科学の魔の手は、確かにカガリたちに迫っていた────
「……へっ、へっくしょん! さっ、寒いぃ!」
「おかしいな、魔術防具が機能していないのか?」
「いや、噂されてる気がするって……いや、それ以上に!」
一面、吹雪。魔術防具であるこの手袋をしていなかったら、凍えて死んでいただろう寒さ。そんな、人が歩けるような場所じゃないところを、俺とライチは進んでいた。しかも、ライチお手製のスキー板で。
俺たちは、科学首都を目指している。ライチが言うに、この国の中心らしい。それ以外はっきりとしたことはわからず、それにライチも話さない。小出しで行くと言っているが、正直そこは最初に教えておいてほしいものだ。
「この寒冷地帯を抜ければ、しばらくは寒いだけで何もない。もう少し辛抱だ」
「うーん、この魔術スキー板。習いたての俺には厳しいのでは? 全然進んでない気が……」
「弱音を吐くな、呪文を吐け! はい復唱、氷の大地を踏みしめよ !」
「はいぃ、りおーと、てぃえ……?」
いかん完全にバカだ。自分から魔術師についていった割には、全然わからない。そもそも、魔術の基本的な知識を知らないのに、呪文を唱えて何とかなるものなのか?
そんな俺に、ライチは見向きもしない。ただ前を見て、スキー板を進めていく。俺はただ、ついていくのに必死だった。
「イメージしろ、この呪文は氷の上を動くためのものだ。それは雪でも同じ。だから、想像力を働かせるんだ」
「想像力ぅ……」
「魔術は感情に影響される、想像しなければ何も生まれない。何も浮かばないなら、前に進むことを考えるんだ」
聞こえづらいだろう吹雪の中でも、ライチの声は確かに届く。それほど、心にストンと入ってくる声だった。
何もも浮かばないなら、前に進むことを考える……それは、俺が目を覚ましたあの時に似ている気がした。俺は、ただ生きていたかった。そのためにがむしゃらだった。それが実を結んだかはさておき、今こうして俺はいる。
「あっ……」
そうか、俺があの時使った魔術は、生きるための魔術だったんだ。生きていたい、その気持ちがあの瞬間にあったんだ。
「本当に、感情がエネルギー……」
気づいたらなんだか嬉しくなってきた。やった、感情があれば使える。だったら俺は、この吹雪を駆け抜けられる気がする!
「リオート……ティエラ、ナストゥパーチ。リオート・ティエラ……ナストゥパーチ……!」
「おい、待てカガリ! 聞いているか、カガリ!」
おぉ、唱えたらどんどん加速していく。踏みしめるよりも早く、駆け抜けているような速さ。行動すれば、想像は自然とついてくるし、現実は加速していく。俺もやればできる、できる……!
「止まれ! 聞こえないのか、バカか?」
「ヴッ」
気持ちが乗りに乗っていたところで、強制停止。俺の体は勢い余って、そのまま前のめりに倒れこんだ。地面は凍った雪で、ザクザクとしていて痛い。
「痛ってぇ……何するんだよ……」
「吹雪だが、少し周りを見たほうがいい」
視界が悪い中、言われるがまま目を凝らす。吹雪の先には何軒か建物が見えていた。赤い光が時たま点滅し、人がいるように思える。
「町、か? 何か工場の残骸……」
「そうだったらいいんだがな。少し力を貸してやる、聴力、強化 」
ライチが呪文を唱えたとたん、聞こえてきたのは機械音だった。何かが鼓動するような音も聞こえ、ガシャガシャと人ではありえない音を立てながら、確かにそれは近づいてくる。聴力と視界が合致し、状況を理解する。吹雪の先にいるのは、あの巨大な機械だ!
「魔術が使えるようになると、だいたい周りが見えなくなるのが人間だ。気持ちはよくわかる」
「えぇ……じゃあ俺って……」
「ほぼ自殺行為だ、好奇心は人を殺せる。今からでもなんとかできるだろう……方角を切り替えて、あの機械兵を抜けよう」
「……はい、すみませんでした」
「わかればいい、次は死ぬだろうから気をつけろ」
こんな中でも落ち着いているライチに、俺は黙ってついていく。こういった、命と隣り合わせなところでは、むやみに使うもんじゃないな。ん? 今、さらっと死ぬって……?
そして俺たちは、吹雪の中を進んでいく。時々、ライチが巨大な機械との位置を確認しながら、少しずつ離れていった。
「ライチ、あの機械は何?」
しばらく巨大な機械を見なくなって、俺はライチに聞いた。
「安心するな、あれは科学軍の末端だ。やつらはあまり知能が高くない、量産型。町を焼いたり人を捕まえるくらいしか命令 がない。手加減もできないから、下手をすれば死ぬだろうな」
「なんで科学軍は、人間を襲うの? この国は科学の物なんだから、管理すればいいじゃない」
「案外そうもいかない。やつらは完璧を目指すんだ。あいつらにとって完璧に管理できるのは10万人が限度らしい。だから魔術師は例外なく殺されるし、科学首都から出ればその10万人には数えられなくなり、殺される」
「俺のいた町は……無個性たちの町じゃないか。どうして……」
「無個性は、科学軍にとっては完全に計算外だ。どうしてどちらにも付けなかったのか、それが疑問らしい。疑問は欠陥に繋がる、やつらにとっては反乱分子。もちろん、増えすぎれば削除対象だ。あいつらはこちらが理解できないからな」
そんな、じゃああの町は科学軍にとって邪魔だとみなされたから、燃やされたのか? おかしいよ、そんなの間違ってる……
生きる場所は守られるべきだ。その自由を奪うのは、絶対に違う。それが国の管理者だったとしても。
「それらはすべて、あちら側が存在を認知していないために起こる。確かな存在と、僅かな力を持つならば、最低限やつらに殺されずには生きられるだろう。少々、楯突くがな」
「……本当、俺でもできる?」
「────あぁ、すでにお前がやった、存在魔術 だが」
「え────」
確かな存在、僅かな力。少々楯突いて、科学軍から生き延びるならやりたかった!が、すでにやっていたとは! ライチなしじゃ、存在もままならないし、力もない。しかも、かなり派手に目をつけられたとしか思えないんだが。
「あの魔術、科学軍の前で堂々とやるものではないんだが……」
「ど、ど、どうすればいいの!? あれしか……頭になかったのに……」
「そう、か……なら、どうもしない。本来は魔術師たちの前で、科学との決別と、無個性からの脱却、魔術への決意を示すものだ。ソーサリーで魔術師を、イグジストで生存する存在を意味する」
「簡単に言えば、あの魔術「俺はここに生きてます、魔術師になるから助けて」みたいな感じかな」
「間違っていないな、その解釈はいいだろう。そしてその呪文の大本……第一分類を存在証明という。 感情、想像を基とする魔術の基礎だ。存在がなければ感情は湧かない、魔術ではそうなっている」
「ほぉ……そういうことか。だいたいわかった、失敗だな!」
これはやってしまった。丁寧に読み解けば読み解くほど、俺がやったことがはっきりしてくる。俺は科学軍の前で、堂々と敵対宣言しちゃったし、俺がやったことは基本だった。科学には目を付けられるし、まだ魔術を使っていないのと同じだし。
まだまだ、俺は修業しなきゃいけないな。ここに俺は存在している、あの魔術が何よりも証明だ。何もなかったところに、一つの点が現れた。科学からしてみればそれくらい。しかしそれは、絶対に消さなきゃいけない点。
────冷静に考えれば、今からが始まりだ。魔術師としての俺の人生を積み上げていけばいい。それがあるなら十分だ。
「心配するな、カガリ。場所こそ違ったが、確かに俺は見届けた。お前の保証は俺がしてやる」
「……あぁ、ありがとう。ライチにこれからも教えてもらって……」
魔術を習得する。そう言おうとしたとき、突然吹雪が止んだ。いいや、全部吹き飛んだんだ────あの巨大な翼を前に!
「……このスキー板を履いていてよかったな。僅かでも氷に面する限り、大したことでは飛ばない」
「本当、助かったよ。それより……」
「あぁ、科学軍だ。しかも幹部直々と来た。どうやら気に入られたな」
鳥の羽にも似た鉄の翼が、俺たちの前に立ちふさがる。黒いドレスのような服を着た少女が、宙に浮いている。黒い傘をさして、左目だけでこっちを見ている。その鋭い目の前に怯みそうになった。
……それを知ってか、少女は不気味にニヤリと笑う。体がゾクッと震えたのが、相手にも伝わっただろうか。
「あら、初めまして。ふーん、長生きはするものね」
巨大な機械────大勢の機械兵を前に、少女は傘をさして立つ。その幼い見た目からは害を感じない。しかし、右目には革製の眼帯をして、左目は静かに現実を見ている。立ち姿はどこか大人びていた。
「エネル、あなたを信じてたのよ。機械兵がこれだけいれば、町は焼けるし「ユリウスの果実」は見つかるはずだった。それなのに、肝心の果実がいないわ」
「気にするな、レーゼン。泳がせただけだ」
対するローブに身を包んだ人物は、落ち着き払って答えた。これくらいは何とでもないと、手を軽く振る。機械兵を見ると「調整が必要か」と一人でつぶやいていた。
「ふーん、その勝負「勝てる」の?」
「勝てるとも。俺たち科学軍に、敗北はない。俺はあいつを助け出した……あの魔術師に見覚えがある」
「それで泳がせたのね。エリア・サンサーラが落ちたときの魔術師と、同じかしら」
すでに形のなくなった、建物の残骸物に少女は座る。もう一人はそれに寄り掛かり、少女に寄り掛かるように耳を近づけた。
「立てる音は同じだ。見た目では判断できんな」
「あっそう、ふーん」
興味のなさそうな返事だ。それにお互い気にする様子はない。少女はローブの人物の肩に触れ、そっと顔を近づけ、近くでその人物を見た。
「エネル、隠さなくていいじゃない。それで聞こえるの?」
にっこり笑う少女、どこか不気味にも思える。それにその人物は、口角をあげた。
「笑わせる。お前もそれで見えているのか」
「えぇ、左で十分。エネルがわかればいいのよ」
少女はそう言って立ち上がると、振り返らずに歩き出した。もう一人も立ち上がり、少女を確かに見る。
「私がいってきてあげる。エネル、バックアップを頼むわ」
旧文化の残骸の上、一人残される。不思議な会話を終えて、その人物は左手をローブから出した。
「……いいだろう、俺がやるよりはいい。後ろは得意じゃないが、任せろ」
────現れた「機械の腕」を空間にかざす。腕からは蜂の形をした偵察機が3機飛び出し、3枚の画面が展開された。そこにグラフが映し出され、状況をデータで示す。巨大な機械兵たちの目に光が灯り、そして立ち上がる。戦力はここに、抜かりなくそろっていた。
「科学は万全だ。観念してもらおうか、転生の魔術師」
計画は起動する。科学の魔の手は、確かにカガリたちに迫っていた────
「……へっ、へっくしょん! さっ、寒いぃ!」
「おかしいな、魔術防具が機能していないのか?」
「いや、噂されてる気がするって……いや、それ以上に!」
一面、吹雪。魔術防具であるこの手袋をしていなかったら、凍えて死んでいただろう寒さ。そんな、人が歩けるような場所じゃないところを、俺とライチは進んでいた。しかも、ライチお手製のスキー板で。
俺たちは、科学首都を目指している。ライチが言うに、この国の中心らしい。それ以外はっきりとしたことはわからず、それにライチも話さない。小出しで行くと言っているが、正直そこは最初に教えておいてほしいものだ。
「この寒冷地帯を抜ければ、しばらくは寒いだけで何もない。もう少し辛抱だ」
「うーん、この魔術スキー板。習いたての俺には厳しいのでは? 全然進んでない気が……」
「弱音を吐くな、呪文を吐け! はい復唱、氷の大地を踏みしめよ !」
「はいぃ、りおーと、てぃえ……?」
いかん完全にバカだ。自分から魔術師についていった割には、全然わからない。そもそも、魔術の基本的な知識を知らないのに、呪文を唱えて何とかなるものなのか?
そんな俺に、ライチは見向きもしない。ただ前を見て、スキー板を進めていく。俺はただ、ついていくのに必死だった。
「イメージしろ、この呪文は氷の上を動くためのものだ。それは雪でも同じ。だから、想像力を働かせるんだ」
「想像力ぅ……」
「魔術は感情に影響される、想像しなければ何も生まれない。何も浮かばないなら、前に進むことを考えるんだ」
聞こえづらいだろう吹雪の中でも、ライチの声は確かに届く。それほど、心にストンと入ってくる声だった。
何もも浮かばないなら、前に進むことを考える……それは、俺が目を覚ましたあの時に似ている気がした。俺は、ただ生きていたかった。そのためにがむしゃらだった。それが実を結んだかはさておき、今こうして俺はいる。
「あっ……」
そうか、俺があの時使った魔術は、生きるための魔術だったんだ。生きていたい、その気持ちがあの瞬間にあったんだ。
「本当に、感情がエネルギー……」
気づいたらなんだか嬉しくなってきた。やった、感情があれば使える。だったら俺は、この吹雪を駆け抜けられる気がする!
「リオート……ティエラ、ナストゥパーチ。リオート・ティエラ……ナストゥパーチ……!」
「おい、待てカガリ! 聞いているか、カガリ!」
おぉ、唱えたらどんどん加速していく。踏みしめるよりも早く、駆け抜けているような速さ。行動すれば、想像は自然とついてくるし、現実は加速していく。俺もやればできる、できる……!
「止まれ! 聞こえないのか、バカか?」
「ヴッ」
気持ちが乗りに乗っていたところで、強制停止。俺の体は勢い余って、そのまま前のめりに倒れこんだ。地面は凍った雪で、ザクザクとしていて痛い。
「痛ってぇ……何するんだよ……」
「吹雪だが、少し周りを見たほうがいい」
視界が悪い中、言われるがまま目を凝らす。吹雪の先には何軒か建物が見えていた。赤い光が時たま点滅し、人がいるように思える。
「町、か? 何か工場の残骸……」
「そうだったらいいんだがな。少し力を貸してやる、聴力、強化 」
ライチが呪文を唱えたとたん、聞こえてきたのは機械音だった。何かが鼓動するような音も聞こえ、ガシャガシャと人ではありえない音を立てながら、確かにそれは近づいてくる。聴力と視界が合致し、状況を理解する。吹雪の先にいるのは、あの巨大な機械だ!
「魔術が使えるようになると、だいたい周りが見えなくなるのが人間だ。気持ちはよくわかる」
「えぇ……じゃあ俺って……」
「ほぼ自殺行為だ、好奇心は人を殺せる。今からでもなんとかできるだろう……方角を切り替えて、あの機械兵を抜けよう」
「……はい、すみませんでした」
「わかればいい、次は死ぬだろうから気をつけろ」
こんな中でも落ち着いているライチに、俺は黙ってついていく。こういった、命と隣り合わせなところでは、むやみに使うもんじゃないな。ん? 今、さらっと死ぬって……?
そして俺たちは、吹雪の中を進んでいく。時々、ライチが巨大な機械との位置を確認しながら、少しずつ離れていった。
「ライチ、あの機械は何?」
しばらく巨大な機械を見なくなって、俺はライチに聞いた。
「安心するな、あれは科学軍の末端だ。やつらはあまり知能が高くない、量産型。町を焼いたり人を捕まえるくらいしか命令 がない。手加減もできないから、下手をすれば死ぬだろうな」
「なんで科学軍は、人間を襲うの? この国は科学の物なんだから、管理すればいいじゃない」
「案外そうもいかない。やつらは完璧を目指すんだ。あいつらにとって完璧に管理できるのは10万人が限度らしい。だから魔術師は例外なく殺されるし、科学首都から出ればその10万人には数えられなくなり、殺される」
「俺のいた町は……無個性たちの町じゃないか。どうして……」
「無個性は、科学軍にとっては完全に計算外だ。どうしてどちらにも付けなかったのか、それが疑問らしい。疑問は欠陥に繋がる、やつらにとっては反乱分子。もちろん、増えすぎれば削除対象だ。あいつらはこちらが理解できないからな」
そんな、じゃああの町は科学軍にとって邪魔だとみなされたから、燃やされたのか? おかしいよ、そんなの間違ってる……
生きる場所は守られるべきだ。その自由を奪うのは、絶対に違う。それが国の管理者だったとしても。
「それらはすべて、あちら側が存在を認知していないために起こる。確かな存在と、僅かな力を持つならば、最低限やつらに殺されずには生きられるだろう。少々、楯突くがな」
「……本当、俺でもできる?」
「────あぁ、すでにお前がやった、存在魔術 だが」
「え────」
確かな存在、僅かな力。少々楯突いて、科学軍から生き延びるならやりたかった!が、すでにやっていたとは! ライチなしじゃ、存在もままならないし、力もない。しかも、かなり派手に目をつけられたとしか思えないんだが。
「あの魔術、科学軍の前で堂々とやるものではないんだが……」
「ど、ど、どうすればいいの!? あれしか……頭になかったのに……」
「そう、か……なら、どうもしない。本来は魔術師たちの前で、科学との決別と、無個性からの脱却、魔術への決意を示すものだ。ソーサリーで魔術師を、イグジストで生存する存在を意味する」
「簡単に言えば、あの魔術「俺はここに生きてます、魔術師になるから助けて」みたいな感じかな」
「間違っていないな、その解釈はいいだろう。そしてその呪文の大本……第一分類を存在証明という。 感情、想像を基とする魔術の基礎だ。存在がなければ感情は湧かない、魔術ではそうなっている」
「ほぉ……そういうことか。だいたいわかった、失敗だな!」
これはやってしまった。丁寧に読み解けば読み解くほど、俺がやったことがはっきりしてくる。俺は科学軍の前で、堂々と敵対宣言しちゃったし、俺がやったことは基本だった。科学には目を付けられるし、まだ魔術を使っていないのと同じだし。
まだまだ、俺は修業しなきゃいけないな。ここに俺は存在している、あの魔術が何よりも証明だ。何もなかったところに、一つの点が現れた。科学からしてみればそれくらい。しかしそれは、絶対に消さなきゃいけない点。
────冷静に考えれば、今からが始まりだ。魔術師としての俺の人生を積み上げていけばいい。それがあるなら十分だ。
「心配するな、カガリ。場所こそ違ったが、確かに俺は見届けた。お前の保証は俺がしてやる」
「……あぁ、ありがとう。ライチにこれからも教えてもらって……」
魔術を習得する。そう言おうとしたとき、突然吹雪が止んだ。いいや、全部吹き飛んだんだ────あの巨大な翼を前に!
「……このスキー板を履いていてよかったな。僅かでも氷に面する限り、大したことでは飛ばない」
「本当、助かったよ。それより……」
「あぁ、科学軍だ。しかも幹部直々と来た。どうやら気に入られたな」
鳥の羽にも似た鉄の翼が、俺たちの前に立ちふさがる。黒いドレスのような服を着た少女が、宙に浮いている。黒い傘をさして、左目だけでこっちを見ている。その鋭い目の前に怯みそうになった。
……それを知ってか、少女は不気味にニヤリと笑う。体がゾクッと震えたのが、相手にも伝わっただろうか。
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