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魔術、習得したい!
名前って意味だ
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この世界の常識はわかった。だが俺は、まだ何もわかっていない。この世界を見たわけじゃないんだ。こんな記憶のない俺が、何故ここに存在しているのか、なぜ生まれたのかを俺は知らない!
「そんな……! 困る、あんたとは一緒にいたいんだ。俺は生まれた意味を知る必要がある、自分が何者か、記憶を取り戻さなきゃいけないんだ!」
「記憶……そんなものには頼らないほうがいい。自分を見失うだけだ」
「今、見失ってんだよ!」
「それは……」
青年も回答には困っていた。この人が俺を助けたのは、偶然かもしれない。あの巨大な機械が科学で、この人が魔術師だから、敵対しただけなのかもしれない。
────きっと、俺は「ついで」だ。ついでに、まぐれに、助けられただけ。この人には何の関係もないんだろう。
それでもだ。俺は輝く目を信じたい。確かに俺を見てくれた、存在を証明してくれた目を見ていたい。
「俺はあの輝く目を見た、だからここにいる。あんたがいなきゃ、俺の存在を誰が認めてくれるんだ」
「そうか、お前が初めて見たのは……あの時の、俺の目なのか……」
「あと、魔術が習得したい。無個性なのに科学に目をつけられて……ってことは、魔術師になったほうが、いいんじゃないかなと思うんだ。どう、師匠!」
「はぁ!? ばっ、バカ言うな! 俺は、弟子は取らない。師匠なんか恥ずかしいだろ!」
「そこを何とか、この防寒着気に入ったし。ほらあの時存在証明とか使えたし……魔術師向いてるでしょ、俺」
怒涛の魔術押し。ここで畳み込まなきゃ、この人は絶対うなづいてくれない。師匠と呼んだあたりから、さすがに無表情でも顔が赤くなっている。あと声もデカい。あとはほかに何か……
「あなたの魔術は、まさに俺の希望です! 弟子にしてください!」
「お前、バカなのか?」
しかし、さっきまでもそうだが、これらは全部本心だ。特にこの人の魔術で、心躍ったのは確かだし、俺の生きる希望なのも間違いじゃない。
さすがに、青年は腕を組み首をかしげる。目を閉じ、少しだけ考え……一息ついて目を開いた。
「……なんでこんなことに……仕方ない。弟子じゃないが、お前に魔術は教えてやる。だが、この条件が飲めるか?」
「いいぞ、今の俺は何もわからない。だからどんな条件も飲める! 気がする」
「言ったな……?」
「あ、あぁ。かかってこい!」
青年は不敵な笑みを浮かべる。静かに、その口角が上がったのだ。わずかだが見逃さなかったぞ。嫌な予感を感じながら、俺はその条件を聞いた。
「────旅をする。科学首都へ向かいながら、お前に魔術を教えてやろう」
「科学首都……まさか、敵の親玉!?」
「あぁ、そうだ。最近は魔術師の領域にも科学軍が侵入してきている。少し根元へ向かい、敵を減らさなければ」
嫌になっただろう、青年がつぶやく。それは嫌味でも、茶化しているのでもなく、この人の本心だ。目でわかる────この人は、誰とも戦いたくいないんだ。きっとこれにも理由がある。どこまでが嘘かはわからないが、それがついていかない理由にはならない。
「それでも、俺はお前についていく。魔術師になるんだったら、どうせ戦いは避けられないし。討伐に協力したい」
「そう、か。意外、だな」
俺からそんなことを言われるとは、思っていなかったようで、青年は少し動揺していた。だが、青年は真っすぐ俺を見つめる。
「なら、あと仲間が3人欲しい。俺は科学軍を止めなければいけない」
「……何か、あったのか。戦いたくなくても、戦わなきゃいけない理由」
「お見通しだな────いいや、気にしなくていい。俺の問題だ」
最後に少し、表情が緩んだ。だがそれも一瞬で、これといった感情を顔に出すことはなかった。その本当の顔を、見られる日は来るのだろうか。
「さぁ、そうと決まれば早速移動だ。お前、自分の名前は忘れたんだったな」
「あぁ……そういえばそうだ」
「この世界、名字は意味を成さないが、名前はあったほうがいい。カガリというのはどうだ」
「カガリ……?」
響きはとてもいい。でも何の意味をつけて、この人は俺にカガリと……?
「意味は簡単だ。燃え盛る町でお前は「存在を証明した」からだ。そこに新たな命の炎……闇を照らす篝火かがりび が生まれたんだよ」
「お、おぉ! すごく、すごくかっこいい! いいじゃん、いいじゃん!」
「そこまで喜ばれるとは……」
とても、とても、今の俺と言った感じがする。その名前に意味がある。意味のある俺がいる。それが心の底から叫びたいくらいに、嬉しかったんだ。
「ありがとう。ところで、師匠の名前は? 名前がないなら師匠で……」
「嫌だ、師匠は絶対に嫌。俺の名前はライチ、未来を意味する名前だ。気軽にライチと呼べばいい」
「じゃあ、ライチ────」
────息を吸い、目を合わせ、ライチの手を握る。ここにいることに祝福を、出会えたことに感謝を────
「────これからよろしく、ライチ!」
こうして、俺カガリ とライチの「打倒、科学軍への道」は始まった。あと3人仲間を集めて、科学を倒すぞ!
「そんな……! 困る、あんたとは一緒にいたいんだ。俺は生まれた意味を知る必要がある、自分が何者か、記憶を取り戻さなきゃいけないんだ!」
「記憶……そんなものには頼らないほうがいい。自分を見失うだけだ」
「今、見失ってんだよ!」
「それは……」
青年も回答には困っていた。この人が俺を助けたのは、偶然かもしれない。あの巨大な機械が科学で、この人が魔術師だから、敵対しただけなのかもしれない。
────きっと、俺は「ついで」だ。ついでに、まぐれに、助けられただけ。この人には何の関係もないんだろう。
それでもだ。俺は輝く目を信じたい。確かに俺を見てくれた、存在を証明してくれた目を見ていたい。
「俺はあの輝く目を見た、だからここにいる。あんたがいなきゃ、俺の存在を誰が認めてくれるんだ」
「そうか、お前が初めて見たのは……あの時の、俺の目なのか……」
「あと、魔術が習得したい。無個性なのに科学に目をつけられて……ってことは、魔術師になったほうが、いいんじゃないかなと思うんだ。どう、師匠!」
「はぁ!? ばっ、バカ言うな! 俺は、弟子は取らない。師匠なんか恥ずかしいだろ!」
「そこを何とか、この防寒着気に入ったし。ほらあの時存在証明とか使えたし……魔術師向いてるでしょ、俺」
怒涛の魔術押し。ここで畳み込まなきゃ、この人は絶対うなづいてくれない。師匠と呼んだあたりから、さすがに無表情でも顔が赤くなっている。あと声もデカい。あとはほかに何か……
「あなたの魔術は、まさに俺の希望です! 弟子にしてください!」
「お前、バカなのか?」
しかし、さっきまでもそうだが、これらは全部本心だ。特にこの人の魔術で、心躍ったのは確かだし、俺の生きる希望なのも間違いじゃない。
さすがに、青年は腕を組み首をかしげる。目を閉じ、少しだけ考え……一息ついて目を開いた。
「……なんでこんなことに……仕方ない。弟子じゃないが、お前に魔術は教えてやる。だが、この条件が飲めるか?」
「いいぞ、今の俺は何もわからない。だからどんな条件も飲める! 気がする」
「言ったな……?」
「あ、あぁ。かかってこい!」
青年は不敵な笑みを浮かべる。静かに、その口角が上がったのだ。わずかだが見逃さなかったぞ。嫌な予感を感じながら、俺はその条件を聞いた。
「────旅をする。科学首都へ向かいながら、お前に魔術を教えてやろう」
「科学首都……まさか、敵の親玉!?」
「あぁ、そうだ。最近は魔術師の領域にも科学軍が侵入してきている。少し根元へ向かい、敵を減らさなければ」
嫌になっただろう、青年がつぶやく。それは嫌味でも、茶化しているのでもなく、この人の本心だ。目でわかる────この人は、誰とも戦いたくいないんだ。きっとこれにも理由がある。どこまでが嘘かはわからないが、それがついていかない理由にはならない。
「それでも、俺はお前についていく。魔術師になるんだったら、どうせ戦いは避けられないし。討伐に協力したい」
「そう、か。意外、だな」
俺からそんなことを言われるとは、思っていなかったようで、青年は少し動揺していた。だが、青年は真っすぐ俺を見つめる。
「なら、あと仲間が3人欲しい。俺は科学軍を止めなければいけない」
「……何か、あったのか。戦いたくなくても、戦わなきゃいけない理由」
「お見通しだな────いいや、気にしなくていい。俺の問題だ」
最後に少し、表情が緩んだ。だがそれも一瞬で、これといった感情を顔に出すことはなかった。その本当の顔を、見られる日は来るのだろうか。
「さぁ、そうと決まれば早速移動だ。お前、自分の名前は忘れたんだったな」
「あぁ……そういえばそうだ」
「この世界、名字は意味を成さないが、名前はあったほうがいい。カガリというのはどうだ」
「カガリ……?」
響きはとてもいい。でも何の意味をつけて、この人は俺にカガリと……?
「意味は簡単だ。燃え盛る町でお前は「存在を証明した」からだ。そこに新たな命の炎……闇を照らす篝火かがりび が生まれたんだよ」
「お、おぉ! すごく、すごくかっこいい! いいじゃん、いいじゃん!」
「そこまで喜ばれるとは……」
とても、とても、今の俺と言った感じがする。その名前に意味がある。意味のある俺がいる。それが心の底から叫びたいくらいに、嬉しかったんだ。
「ありがとう。ところで、師匠の名前は? 名前がないなら師匠で……」
「嫌だ、師匠は絶対に嫌。俺の名前はライチ、未来を意味する名前だ。気軽にライチと呼べばいい」
「じゃあ、ライチ────」
────息を吸い、目を合わせ、ライチの手を握る。ここにいることに祝福を、出会えたことに感謝を────
「────これからよろしく、ライチ!」
こうして、俺カガリ とライチの「打倒、科学軍への道」は始まった。あと3人仲間を集めて、科学を倒すぞ!
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