7 / 12
魔術、習得したい!
空飛ぶスケボー
しおりを挟む
「……勝ったの?」
「逃げるが勝ち、みたいなものだがな…」
「やった、科学に勝ったの? え、本当!?」
「だいたいお前のおかげだ。ありがとう、カガリ」
それにしたら……右手に剣、左手に本、そして体は抱えられ……この国の管理者に勝った気はしないなぁ。
でも、感謝されると悪い気はしない。俺のあの状況で、ここまでできたことはよかったと思ってる。やっと一安心だ。
「次はもっとうまく勝てるように、魔術の練習頑張るよ。だから、もうちょっとまともな所で教えて……?」
するとライチは大きくため息をつく。抱えられているので、顔は見えないが、なんだか残念そうにも聞こえる。
「……そうだな、思い出さないならそれでいいだろう。ちょうどいい、今から向かう場所は、俺の休憩地点────エリア・サムライだ」
「エリア……!」
エリア・サンサーラのことを思い出す。俺はあそこに向かう、それが俺の目的だと話さなければいけない。落ち着いたらそのこともライチに話そう。
それにしても、エリア・サムライか。なんだか昔の日本っぽくて、わくわくしてきた! けど、俺の知っている侍って、魔術と全然関係なかったような……
それでもいいか。今はただ、この勝利の充実感と、顔が吹き飛びそうな空の旅を、味わいながら────この時を駆けていこう。
「行くぞ、カガリ。旅の覚悟はできてるか」
「あぁ、もちろん。こういった、スケボー空の旅もまたやるの? 楽しいからいいけど、危険じゃないかな」
幸いにも抱えられてるから、落下はしないけど……ん? スケボーは真っすぐ飛ぶし、空気抵抗は受けないし、そもそもちゃんと喋れてるって……物理法則ぶった切ってない!?
「ってか、科学要素無視してるよね、これ!」
「人は科学に強く、科学は魔術に強く、魔術は人に強い。不利な三すくみだからこそ、魔術とは科学を逸脱するものだ」
「そんな理由のスケボー!?」
「……基本、魔術師は空を飛ばない、消耗が激しいからな。飛ぶときは軽く、地上でも走りやすいものが好まれる。俺がたまたまスケボーだっただけだ」
「空気抵抗とか、そういったのはやっぱり魔術?」
「そうだな、これには防御壁を使って……いや、空中での説明はやめよう。希望通り、まともなところで教えなきゃな」
こうして、俺たちは空を走る。いくつかの疑問は、空想と創造と、魔術でだいたい丸め込む。そりゃあ、それでは解決できない問題もたくさんあるけれど、先に目の前の問題を、簡単なことからはっきりさせていこう。きっと、レベル上げのようなもの。小さなことからコツコツ重ねて、大きな敵を倒すんだ!
────この知識は、誰の物か。明らかに現代ではない、この記録は何者か。それはまた、置いておこう。
……ひどい話だ、こんなことで昔を思い出すなんて。それは同じものじゃないのに、どうしても繋げてしまう。それが人間の、心の悪い癖だ。
「────ねぇ、そこの君。乗りやすい乗り物を知らない? こう……軽くて、早くて……」
「……スケートボードとか? 同僚の子の置き忘れだけど、使いたければどうぞお好きに」
「ほぉ、スケートボード! 自転車とかだと思ったけど、これはいいね」
その人は、まるでスケートボードを初めて見たかのように、興味津々だった。新しいことに目がなくて、真っすぐで、何事においても楽しむ人。一発でわかる、この人は研究者の類だと。
「いやぁ、実に新鮮でいい考えをもらった。やはり、人類の最先端を行く科学者は違う」
「……え、なんで。それは一部の人しか……」
「そうだね、隠してる。でも私は、隠れてる世界の人間でね。科学の秘密はだいたい知っている────君がもう、助からないことも」
その人はお見通しで、まさに我々の敵だった。だが、そんなことは気にしていない素振り。この世界を人と科学が支配しても、どれだけ進歩しても、この人には及ばない。余裕を感じさせる、その目。
「この目は、そういったことには使わないんだけど、やっぱり君は助けたいよね。この先世界を動かせる、最後の影響者になりそうだし。ここで終わるのは、星の法則を捻じ曲げることになるよなぁ、うん」
「一人で何をブツブツと……」
「とりあえず、そうだなぁ、私は君を助けたい。この世界のために、未来のために、有能な人材は失いたくないんだ」
嘘は言っていない、しかし表情にはこれと言って変化がなく、常に笑みを保つ。不気味だ、感情なんて読み取らせてくれない。
「だから、君が長く生きるために、私の弟子になってはくれないか? 科学ではたどり着けない、天を、地を、世界を見せよう!」
「……胡散臭い、魔術師か何か? それはお断り、だって無理だ。人間はそれができないから、科学へ手を伸ばした!」
「ほーん、夢を諦めるほど、深刻なんだな。いいだろう、このスケボーで空想と現実の狭間まで連れて行こう」
「はぁ? 何言って……」
「人の想像が及ぶ範囲が、魔術だ。そして、人の思い描く空想の世界。それを作るのが、魔法使いだよ」
その人はそう言って無理やり抱きかかえると、スケボーに助走をつけて、 そのまま空へ駆け上がってしまった。バカみたいだ、それはすでに想像を超えている。板に乗るだけで空を飛ぶなんて、人間には早すぎる。
「あぁいいね、これ。スケボーで空の旅も、案外悪くないな。この年で新発見かー、人間って面白ーい!!」
笑っている。空を飛ぶ非日常を、日常のように楽しんでいる。そこは常に新鮮で、常に発見で、常に面白い。それはとても今の自分ではできなくて、とても遠い存在だ。こんな夢を見せる存在を、世間は「魔法使い」と呼ぶのだろう。
────あぁ、私もこの人のようになれたら。私はこの時、この男を見て思った。弟子になってもいいかもしれない、夢を追いかけるのも、悪くはないのかも、と────
「逃げるが勝ち、みたいなものだがな…」
「やった、科学に勝ったの? え、本当!?」
「だいたいお前のおかげだ。ありがとう、カガリ」
それにしたら……右手に剣、左手に本、そして体は抱えられ……この国の管理者に勝った気はしないなぁ。
でも、感謝されると悪い気はしない。俺のあの状況で、ここまでできたことはよかったと思ってる。やっと一安心だ。
「次はもっとうまく勝てるように、魔術の練習頑張るよ。だから、もうちょっとまともな所で教えて……?」
するとライチは大きくため息をつく。抱えられているので、顔は見えないが、なんだか残念そうにも聞こえる。
「……そうだな、思い出さないならそれでいいだろう。ちょうどいい、今から向かう場所は、俺の休憩地点────エリア・サムライだ」
「エリア……!」
エリア・サンサーラのことを思い出す。俺はあそこに向かう、それが俺の目的だと話さなければいけない。落ち着いたらそのこともライチに話そう。
それにしても、エリア・サムライか。なんだか昔の日本っぽくて、わくわくしてきた! けど、俺の知っている侍って、魔術と全然関係なかったような……
それでもいいか。今はただ、この勝利の充実感と、顔が吹き飛びそうな空の旅を、味わいながら────この時を駆けていこう。
「行くぞ、カガリ。旅の覚悟はできてるか」
「あぁ、もちろん。こういった、スケボー空の旅もまたやるの? 楽しいからいいけど、危険じゃないかな」
幸いにも抱えられてるから、落下はしないけど……ん? スケボーは真っすぐ飛ぶし、空気抵抗は受けないし、そもそもちゃんと喋れてるって……物理法則ぶった切ってない!?
「ってか、科学要素無視してるよね、これ!」
「人は科学に強く、科学は魔術に強く、魔術は人に強い。不利な三すくみだからこそ、魔術とは科学を逸脱するものだ」
「そんな理由のスケボー!?」
「……基本、魔術師は空を飛ばない、消耗が激しいからな。飛ぶときは軽く、地上でも走りやすいものが好まれる。俺がたまたまスケボーだっただけだ」
「空気抵抗とか、そういったのはやっぱり魔術?」
「そうだな、これには防御壁を使って……いや、空中での説明はやめよう。希望通り、まともなところで教えなきゃな」
こうして、俺たちは空を走る。いくつかの疑問は、空想と創造と、魔術でだいたい丸め込む。そりゃあ、それでは解決できない問題もたくさんあるけれど、先に目の前の問題を、簡単なことからはっきりさせていこう。きっと、レベル上げのようなもの。小さなことからコツコツ重ねて、大きな敵を倒すんだ!
────この知識は、誰の物か。明らかに現代ではない、この記録は何者か。それはまた、置いておこう。
……ひどい話だ、こんなことで昔を思い出すなんて。それは同じものじゃないのに、どうしても繋げてしまう。それが人間の、心の悪い癖だ。
「────ねぇ、そこの君。乗りやすい乗り物を知らない? こう……軽くて、早くて……」
「……スケートボードとか? 同僚の子の置き忘れだけど、使いたければどうぞお好きに」
「ほぉ、スケートボード! 自転車とかだと思ったけど、これはいいね」
その人は、まるでスケートボードを初めて見たかのように、興味津々だった。新しいことに目がなくて、真っすぐで、何事においても楽しむ人。一発でわかる、この人は研究者の類だと。
「いやぁ、実に新鮮でいい考えをもらった。やはり、人類の最先端を行く科学者は違う」
「……え、なんで。それは一部の人しか……」
「そうだね、隠してる。でも私は、隠れてる世界の人間でね。科学の秘密はだいたい知っている────君がもう、助からないことも」
その人はお見通しで、まさに我々の敵だった。だが、そんなことは気にしていない素振り。この世界を人と科学が支配しても、どれだけ進歩しても、この人には及ばない。余裕を感じさせる、その目。
「この目は、そういったことには使わないんだけど、やっぱり君は助けたいよね。この先世界を動かせる、最後の影響者になりそうだし。ここで終わるのは、星の法則を捻じ曲げることになるよなぁ、うん」
「一人で何をブツブツと……」
「とりあえず、そうだなぁ、私は君を助けたい。この世界のために、未来のために、有能な人材は失いたくないんだ」
嘘は言っていない、しかし表情にはこれと言って変化がなく、常に笑みを保つ。不気味だ、感情なんて読み取らせてくれない。
「だから、君が長く生きるために、私の弟子になってはくれないか? 科学ではたどり着けない、天を、地を、世界を見せよう!」
「……胡散臭い、魔術師か何か? それはお断り、だって無理だ。人間はそれができないから、科学へ手を伸ばした!」
「ほーん、夢を諦めるほど、深刻なんだな。いいだろう、このスケボーで空想と現実の狭間まで連れて行こう」
「はぁ? 何言って……」
「人の想像が及ぶ範囲が、魔術だ。そして、人の思い描く空想の世界。それを作るのが、魔法使いだよ」
その人はそう言って無理やり抱きかかえると、スケボーに助走をつけて、 そのまま空へ駆け上がってしまった。バカみたいだ、それはすでに想像を超えている。板に乗るだけで空を飛ぶなんて、人間には早すぎる。
「あぁいいね、これ。スケボーで空の旅も、案外悪くないな。この年で新発見かー、人間って面白ーい!!」
笑っている。空を飛ぶ非日常を、日常のように楽しんでいる。そこは常に新鮮で、常に発見で、常に面白い。それはとても今の自分ではできなくて、とても遠い存在だ。こんな夢を見せる存在を、世間は「魔法使い」と呼ぶのだろう。
────あぁ、私もこの人のようになれたら。私はこの時、この男を見て思った。弟子になってもいいかもしれない、夢を追いかけるのも、悪くはないのかも、と────
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる