魔術戦隊ができるまで~アイデンティティーの5人組~

ザクロ

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魔術、習得したい!

あなたの希望になりたい

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「……兄貴、なんか空を飛んでる!」
「お、アルト。あれが見えるようになったかー、よしよし! いい感じの回復だな」
「────見間違いじゃなかったら、スケボーだったよね」
「はぁ? スケボーって……なんだそれ。旧文明の道具か何かか? ロストテクノロジーだなー」
「ちょっと違うかな、あれ」

 そんな会話をしている兄弟がいるとは知らず、俺たちのスケボーは減速する様子はない。早くなっているぞ、大丈夫じゃないな、これ!

「エリア・サムライ通り過ぎちゃうよ! 大丈夫これ!?」
「問題ない、虚構世界に突っ込む」
「それどこ!?」

 スケボーは限界の速度に達したのか、次第に遅く、そして落ちていく────違う、早すぎて世界が歪んでるんだ。落ちてるんじゃない、何かに突っ込んでいってる。
 ……そして世界は闇に包まれる。闇よりもそこは────宇宙空間のようだった。闇の中を無数の光が行き交い、それがぶつかることは決してない。

「なんだここ……スケボーが宇宙を走ってる……?」
「間違いではないな。ここは魔術師たちが作り出した、努力の結晶のような世界、虚構世界だ」
「虚構って、現実みたいなのを作る、フィクションみたいなものでしょ。って、それって!」
「お察しの通り、お前の使った空想実現イマジナリーリアライズ の応用だ。不安定とはいえ、世界を作れるんだ。科学からしたら、なんで星に負担をかけることするんだ、だろうな」

 想像出来る範囲。それが実現できるなら、世界すら作れる。人の想像力は恐ろしいもので、そこまで考える欲深ささえ感じるほど。
 科学も魔術も、世界を作ってまでも、全て支配しようとした。俺にはわからない、総べる価値が。その意味はなんだ、それになんの未来がある。

「星とは有限だ。だからこそ人は支配を望む。ある全てを自分のものにして、自分だけが生きる。結局、どんな世も人の世だ」
「どうして、分け合ったりできないんだ。科学も魔術も協力すればいいのに」

 その方が絶対にいい。さっき戦った、レーゼン。あれはまさにハイブリッドだ。科学の高火力で、魔術の非現実な回避。とても簡単に倒せる相手じゃない。

「それが出来るのは、本当に賢い人間だけだ。それより、外を見てみろ」
「ふむふむ……えっ、いつのまに、ここどこ!?」

 本当に突然だ。気づけばスケボーは赤土の上を飛んでいる。何もない、だだっ広い平野だ。とりあえず旧日本ではない。それに、さっきよりは気温も全然暑い。

「ようこそ、魔空間インドだ」
「ここインドかよ!」

 土地だけ見せられて、インドですと信じられないが、インドならインドなんだろう。よく聞くインド象とか、宗教っぽい建物とか、本場カレーとか、そんなものはない。
 そもそもこの時代に、インドらしさを求めるのが間違いだろう。おそらく、この世界に国の概念はない。支配者が魔術か科学か、それだけなんだ。

 ────何もない。そこにあったはずの国という個性を、新文明は塗り潰した。

「俺の知ってる、インドじゃないね」
「インドは広い。イメージしやすいのはほんの一部だ。だいたいはこれだぞ」
「そうなの? ほら、今の時代、国とかあったものじゃないんでしょ」
「それは正しい、だがここは空想の魔空間。このインドは約100年前のものだ。文明もカレーもある」
「……S・S対戦の少し前くらいだよね」
「そこがこの世界のピークだった。それだけだ」

 俺の認識が滲み始める。この常識は、そのピーク時のものではないか。では100年も経っている俺は、本当は誰なのか。
 すっきりとはしないまま、スケボーは地面へ着陸する。小さな白いテントがある以外、その辺りには何もない。ポツンと二人、乾いた風が吹く。

「自分を深く考えるな。今いる自分以外は、自分ではないんだから」

 ライチがそれを言えるのは、自分の記憶がはっきりしているからだ。俺みたいに、時代錯誤なんて起こさない。過去から今まで、存在が一律だ。
 ────羨ましい、俺にはそんなの無理だ。時間に押し潰されそうな、俺の気持ちなんて、ライチはわからない。

「……いいよな、あんたは自信満々で。俺は間違いを探しては、間違いだらけで沈んでるってのに」
「なっ……」

 静かなで落ち着いたライチが、声を荒げそうになる。その声を聞いて逸らしていた目を彼に向ける。
 ────辛そうだ、苦しそうだ。何かを必死に耐えて、飲み込もうとしている。泣き出しそうな目も、全て壊してしまうように震える手も、全てが見ているだけで、俺の心が痛む。

「俺だって、俺だって……! こんなのは……!」
「ライチ、その……ごめん」

 両手を握りしめ、何かに必死に耐える。自分を無理やり抑え込みそうとしている彼に、俺はなにが出来る。
 感情が滲みだし、空気にさえ影響を与えている。この重たい空気は、溺れそうな息の苦しさは何だ。光が届かないような、この闇の深さは何だ! 救えない、救えない、救えない……!

「失った時から、取り返すのは不可能だってわかっている。失い続ける俺は、何も取り返せない。俺が自信満々だと、ふざけるな!」

 今にも泣き出しそうな彼に、何もできない、俺には何もない。和らげる魔術はない、精神を支える科学もない。説得するような経験もなく、何が出来るかがわからない。
 ────まだ俺は、無力だ。平気で人を傷つける、誰かがいないと何もできない。俺は子供だ、未熟なんだ。

 それを理由に、俺は逃げるのか? 本当に何もできないのか?

 ────いいや、違う。ここにいる限り、何もないなんて間違ってる!

「……いい、気にするな。声を荒げて悪かった。何かをしようと頑張るほど、心はすり減るものなんだ」
「ライチ、それは……」
「だから人は、自分を勇気づける言葉を唱え続ける。それが俺なんだ、俺のことはほっといてくれ」

 違う、きっと違うんだ。でもまだ、俺ははっきりということができない。何かしようとしたのが、ライチに伝わってしまったらしい。ライチの言うことは最もで、俺だって「頑張り続けるのが自分」だと、どこかで決めかけているのかもしれない。
 でもそれ以外に俺はいなくて、俺はまだ何者でもない。

「……俺は、俺に自信がない。俺の常識は間違いかもって思う。積み上げた先に何があるんだって、疑問には思うよ」

 だからこそすべてが間違いで、すべてが正しい。何にでもなれる、それが今の俺なんだ。俺の人生が始まり、戦いが始まった。次に始めるのは、何を頑張るか。

「だから、俺は頑張る。疑問を解決するために、魔術を習得して見せる」
「それが、お前の何になる。疑問を解決した、その先にあるものは何だ。疑問が無くなったとき、お前がいなくなるんじゃないのか」
「……うん」

 疑問に思い、記憶を探す俺が、通常運転だとしたら。それでこれからも走っていくなら、それが無くなったとき、俺のアイデンティティーは何だ。

「そうかもしれない。それでも、きっとその時に答えを出す。俺は、その時の俺に答えを任せる。それに魔術は、俺のための物じゃない」

 俺は間違いだ、それでもライチは信じてくれた。だから想像を形にできたんだ。俺だってライチを信じる、ついていくって決めた。ライチのその見えない心も信じてあげなきゃ、誰が彼を守るんだ。
 失うばかりが、生きることじゃないはずだ。今からでもそうしてあげたい、それが俺の魔術を習得する最大の理由────!

「あんたが俺の希望のように、俺もあんたの希望になりたいんだ。魔術って、そういうもんだろ」
「────そう、か。あぁ、そうだな。お前らしいよ」

 そういって、誰かの名前を口に仕掛ける。ライチはハッとして、すぐさま顔を逸らした。

「別の名前を言おうとしたでしょ、誰だよそれ。気になるから教えて!」
「ばっ、バカ言うな! いい、気にするな、人違いだ」

 絶対に、俺の知らない誰かを重ねている。俺はライチにとっては、その誰かの代わりかもしれない。それでもいい、その椅子に少しだけ、俺は座らせてもらおう。
 ライチの表情は、いつもの無表情に戻っている。感情も落ち着いたのか、溺れそうな空気なんてことはない。むしろ軽く、爽やかな気さえする。なんだか、嬉しくなってくる。助けてもらったんだ、ライチをこれからも助けていけるような、そんな人間になりたい。
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