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破壊と再生
出会い
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まさかこんなものが泉な訳がない。
これはただのオイル溜まりだ。近くに泉と呼べるものがあるはずだ。
周りを見渡しても瓦礫しか見えない。
そうだ……自分はどんな姿なのだろう?
手を見るととても小さく、まだ幼児といった所だろうか。真っ白なゆったりとした服を着ているけど靴は履いていない。
このまま歩いたら足を怪我しないだろうか?
そっと足を踏み出す。
どうやら大丈夫のようだ。
しかし、滅んだ世界と言っていたけどこれは酷い。何もかもが破壊された世界。
地球では冷戦と呼ばれていた時期があったけど、何かを機に大国同士が全面戦争をした末路、といった感じだ。これでは何も生きていけない。
そうだ、もっと何か情報はないだろうか……?
こんな所に幼児を一人、いくらなんでも酷すぎる。あの神様は何処かにいないのか?
暫く周りを歩いて探してみるも何もない。雨は止み、今度は真っ黒な雪が降っていた。
盛り上がった瓦礫に腰掛け、途方に暮れていたらバサバサと大きな音が聞こえてくる。
それはゆっくりだけど規則的で、私の頭を飛び越えて着地して横たわる。
ズシンと大きな地響きがして、私の身体が飛び跳ねた。
全身ビッシリと鱗に覆われている翼の生えた巨大な蜥蜴。これは……
「息子が子供の頃に映画で見たわ。口から熱線を吐く怪獣……?」
いや、あれに翼は生えていなかった。翼が生えていたのは頭が三つあった覚えがある。
『何者だ……?』
低く唸るような声。
縦長の瞳孔が私を睨みつける。
「言葉が話せる怪獣さん。私は……泉の精、らしいです。」
何者だと言われて名前を名乗りそうになるが、泉の精と名乗っておく。
『生まれて間もない小さき精霊よ。この世界は滅びを迎えた。』
「知っています。私はこの世界を再生出来ると言われてやって来ました。」
見ればこの怪獣さんは身体中に傷を負い、血が至る所から流れ出ていた。
「大変、手当てをしないと……」
とは言っても小さな私にしてあげられる事は何もない。せめて綺麗な水でもあればいいのに。
『心優しき泉の精よ、我はもうじき死ぬ。構う必要はない。』
「いいえ、こんな酷い怪我をしている怪獣さんを放ってはおけないわ。私に何か出来ないかしら……?」
『ならば水を、一雫で良いから貰えないか?』
水……私は泉の精だけど、目の前にあるのはオイルのような汚れた水しかない。こんなものをあげたら余計に体を悪くしてしまうだろう。
『力の使い方を教えよう。掌に水を溜めるイメージをしてみよ。泉の精なら可能な筈だ……。』
苦しそうに呻くように話す怪獣さん。
本当にそんな事が出来るのだろうか?いや、こんな見たことのない生物がいる世界なのだ、とにかくやってみる。
手を合わせて器を作る。綺麗な水、冷たい美味しい水を想像すると、何処から現れたのか、小さな掌に一杯の水が現れた。
「本当に……できた。」
『すまないがその水を口の中に……』
僅かに開いた口に駆け寄り掌の水を流し込む。
大きな口。小さな私など簡単に丸飲みできてしまうだろう。ギザギザとした歯は所々欠けていて、口の中も血だらけだった。
『ああ……なんと冷たく綺麗な水なのだ……全身に染み渡る。』
掌に一杯の水だったけど、怪獣さんにしたら雫の一滴にもならなかっただろう。
それなのに怪獣さんは本当に嬉しそうに目を細めていた。
「もっと出すわ。沢山飲んで……」
『いや……もうよいのだ。その力は無限ではない。』
怪獣さんはあの僅かな水で喜んでくれた。しかしあんなものでは足らない筈だ。
「でも、あなたの身体じゃもっと沢山いるでしょう?」
『最後に、僅かでも清んだ水を飲むことが出来ただけで満足だ。』
そう言うと深く息を吐き、目を閉じた。
私はそれを見守っていた。
これはただのオイル溜まりだ。近くに泉と呼べるものがあるはずだ。
周りを見渡しても瓦礫しか見えない。
そうだ……自分はどんな姿なのだろう?
手を見るととても小さく、まだ幼児といった所だろうか。真っ白なゆったりとした服を着ているけど靴は履いていない。
このまま歩いたら足を怪我しないだろうか?
そっと足を踏み出す。
どうやら大丈夫のようだ。
しかし、滅んだ世界と言っていたけどこれは酷い。何もかもが破壊された世界。
地球では冷戦と呼ばれていた時期があったけど、何かを機に大国同士が全面戦争をした末路、といった感じだ。これでは何も生きていけない。
そうだ、もっと何か情報はないだろうか……?
こんな所に幼児を一人、いくらなんでも酷すぎる。あの神様は何処かにいないのか?
暫く周りを歩いて探してみるも何もない。雨は止み、今度は真っ黒な雪が降っていた。
盛り上がった瓦礫に腰掛け、途方に暮れていたらバサバサと大きな音が聞こえてくる。
それはゆっくりだけど規則的で、私の頭を飛び越えて着地して横たわる。
ズシンと大きな地響きがして、私の身体が飛び跳ねた。
全身ビッシリと鱗に覆われている翼の生えた巨大な蜥蜴。これは……
「息子が子供の頃に映画で見たわ。口から熱線を吐く怪獣……?」
いや、あれに翼は生えていなかった。翼が生えていたのは頭が三つあった覚えがある。
『何者だ……?』
低く唸るような声。
縦長の瞳孔が私を睨みつける。
「言葉が話せる怪獣さん。私は……泉の精、らしいです。」
何者だと言われて名前を名乗りそうになるが、泉の精と名乗っておく。
『生まれて間もない小さき精霊よ。この世界は滅びを迎えた。』
「知っています。私はこの世界を再生出来ると言われてやって来ました。」
見ればこの怪獣さんは身体中に傷を負い、血が至る所から流れ出ていた。
「大変、手当てをしないと……」
とは言っても小さな私にしてあげられる事は何もない。せめて綺麗な水でもあればいいのに。
『心優しき泉の精よ、我はもうじき死ぬ。構う必要はない。』
「いいえ、こんな酷い怪我をしている怪獣さんを放ってはおけないわ。私に何か出来ないかしら……?」
『ならば水を、一雫で良いから貰えないか?』
水……私は泉の精だけど、目の前にあるのはオイルのような汚れた水しかない。こんなものをあげたら余計に体を悪くしてしまうだろう。
『力の使い方を教えよう。掌に水を溜めるイメージをしてみよ。泉の精なら可能な筈だ……。』
苦しそうに呻くように話す怪獣さん。
本当にそんな事が出来るのだろうか?いや、こんな見たことのない生物がいる世界なのだ、とにかくやってみる。
手を合わせて器を作る。綺麗な水、冷たい美味しい水を想像すると、何処から現れたのか、小さな掌に一杯の水が現れた。
「本当に……できた。」
『すまないがその水を口の中に……』
僅かに開いた口に駆け寄り掌の水を流し込む。
大きな口。小さな私など簡単に丸飲みできてしまうだろう。ギザギザとした歯は所々欠けていて、口の中も血だらけだった。
『ああ……なんと冷たく綺麗な水なのだ……全身に染み渡る。』
掌に一杯の水だったけど、怪獣さんにしたら雫の一滴にもならなかっただろう。
それなのに怪獣さんは本当に嬉しそうに目を細めていた。
「もっと出すわ。沢山飲んで……」
『いや……もうよいのだ。その力は無限ではない。』
怪獣さんはあの僅かな水で喜んでくれた。しかしあんなものでは足らない筈だ。
「でも、あなたの身体じゃもっと沢山いるでしょう?」
『最後に、僅かでも清んだ水を飲むことが出来ただけで満足だ。』
そう言うと深く息を吐き、目を閉じた。
私はそれを見守っていた。
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