泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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繁栄

事情

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次の日の朝、カクカミは颯爽と大型動物の元へと駆けて行った。

「カクカミ大丈夫かなぁ?」
「きっと大丈夫よ。彼も無理はしないと思うわ。」

あの姿になって何かと戦った事は無いはずだ。戦闘で不覚をとる事は十分に有り得る。なので相手が強いと判断したらすぐに逃げる様にと伝えておいた。

泉のほとりで颯太と話しているとカクカミが戻ってきた。自分よりも大きな熊を連れて。
木々をかき分ける様にして現れた黒く巨大な熊はキョロキョロと辺りを見回している。

『ただいま戻りました。』
「お帰りなさい。」「おかえりー!」
『さあ、精霊様にご挨拶せよ。』
『はい……初めまして、俺はアルカスと言います。』

カクカミに言われて地に伏せながら名前を名乗った。
この名前も恐らく種族の名前なのだろう。呼びにくいので心の中では熊さんと呼ばせて貰おう。

「初めまして、私は泉の精霊のハルと申します。」
「僕はソータ。世界樹の精霊だよ。」

熊さんは顔を上げて私達をマジマジと見ると、再び深く頭を下げた。

毛皮に覆われていて気づかなかったけど、よく見るとあちこち凹んでいる気がする。

「怪我をしているの?」
『話を聞く為に声を掛けたのですが、激しく抵抗されたので大人しくしてもらいました。』
『神獣様とは知らず、襲いかかってしまいました。どうかお許しください。』

神獣?カクカミの事よね。

カクカミが言うには、熊さんの攻撃はカクカミには一切効かず、踏み付けるだけで制圧できてしまったらしい。
その後も抵抗するものだから幾度か蹴飛ばしたりツノで軽く小突いたりしてここまで連れて来たそうだ。

「あなたの住処はこの辺りではなかった筈ね?何か事情があるのかしら?」
『はい。俺は母と二人でこの地よりずっと南に住んでいました。何日か前に、母が急におかしくなってしまって……』

この子、ひょっとして小熊なの?

「話を止めてしまってごめんなさいね、あなたは生まれてどれくらいになるの?」
『一年位かと。』

ということはお母さん熊はもっとずっと大きいのね。

「そう……それでお母さんはどんな風におかしくなったの?」
『凶暴になったのです。必要以上に他の獣を襲う事はなかったのですけど、俺にまで襲いかかってきて……』

余程恐ろしかったのだろう。思い出しながら身震いしていた。

「他に何か変わった所はなかった?」
『……そういえば、額に赤い石がくっついていた様な。』
「それは元々ついていなかったということね?」
『はい。』

それが原因かも知れない。お母さん熊に会って話を聞いてみたいけど、私達はここからそんなに遠くに移動出来ない。
カクカミに行かせるのは心配だし、どうしたものか……。

「お母さん、突然変異を使ってみる?」
「そうね、役に立つものが出てくるかもしれないわね。」

あれから殆ど付与力を使っていないのでかなり溜まってきている。試してみるのも良いだろう。
カクカミと熊さんには少し待ってもらって突然変異を使ってみる。
使えそうなものが出なくても五回で止めると決めて、突然変異を使用する。

増えたのは、
過剰分泌 ×10
眷属強化 ×100
遠隔視野 50
実体化  ーー
栄養吸収 0

また分かりにくいものが出てきたわね。颯太にも知恵を貸してもらいながら検証する。

まず過剰分泌は付与力の消費を十倍にする事で効果を引き上げる事ができるみたいだ。
次に眷属強化。これはカクカミに泉の効果を与える事が出来るみたい。ただし通常使用の百倍の消費らしい。
遠隔視野はここに居ながら遠くを見る事が出来る能力で、実体化はそのままの意味だった。

「今まで私達は身体を持っていなかったという事なのかしら?」
『私にはお二人はボンヤリと見えます。ここに身体がある様には見えません。』

熊さんには私達がハッキリとは見えないそう。カクカミにはしっかり見えるそうなので、眷属以外には見えにくいのかもしれない。

それでは実体化を試してみようか。もしかしたら遠出が出来る様になるかも知れない。
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