泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

冒険者

伯爵軍救援

衛兵隊は鍛冶屋通りで駐屯兵団と戦っている。その後ろには避難する一般人達。
逃げ遅れた人を助けているのだろう。

冒険者ギルド周辺は既に駐屯兵団に制圧されている。冒険者らしき者が何人か倒れていた。

領主の屋敷周辺は更に混沌としており、駐屯兵団の攻撃を衛兵隊と領主軍、冒険者が何とか防いでいる状態だ。

「これは想像以上に酷い状態だ……領主軍は何とか持ち堪えている様だが、他の地区が劣勢だ。戦力不足で次々と制圧されている。どこから手を付ければいい……？」

ヴァンは街を見下ろしながら必死に状況を分析していた。

私達は突如現れた戦力だ。
しかも巨大な黒竜の存在は無視できないだろう。
これを有効に使わない手は無い。

「ヴァンさん、民間人が避難しているエリアは見たところ四箇所ですね？」
「あ、ああ。有事の際に避難に使う建物は決まっているんだ。どれも衛兵の宿舎に近い堅牢なもので、地下道で繋がっている」

いざと言う時の抜け道も完備されているということか。しかし……

「と言う事は、その一つでも落とされると全ての避難所が危険にさらされますね。見たところ南側が一番押し込まれています。そこに半数を投入して残りは均等に三箇所に分けるのはどうですか？」
「あ、ああ。それが一番良いだろうが……この竜では広さが足りなくて降りられないぞ」
「飛び降りてもらいます」
「なに？」
「カナエ、風の魔法で落下を制御してあげて。全員を無事下に降ろします」
「分かりました！」
「ヴァンさんは編成をお願いします」

ヴァンは急いで編成を決めていく。南側には『鋼鉄の壁』と『草原の風ステップウインド』が降りる事に。

「お、おい……本当に大丈夫なんだろうな？」
「何ですか？ハル様と私を信用できないのですか？」
「い、いや……とにかく頼むぞ！」

カナエの気迫に圧されて『鋼鉄の壁』のリーダーは覚悟を決めて飛び降りた。それに続いて全員飛び降りていく。

カナエは風の魔法を器用に操って避難所になっている建物の敷地に全員を着地させた。

続いて東側には『雷光』、西側には『竜の爪ドラゴンファング』が降りる。

「ハル、君達は北側を頼んだぞ。防備が整い次第地下道を通って援護に向かうからな」
「はい。ヴァンさん達もお気をつけて」

ヴァン達が飛び降りて行った。

「それでは北側に向かいます。そこで皆に降りてもらいます」
「お母さんは一緒じゃないの？」
「私はトコヤミと領主の屋敷に行きます。そこでトコヤミが領主の味方であると宣言して相手の勢いを挫きます。エレは私と一緒に来なさい」
「はい！」

北側に移動してパーティのメンバーを降ろす。

「颯太、カナエ、みんなを頼みます」
「任せてよ」「はい！」
「お母さんも気をつけてね」
「ええ、芽依もね。みんなを守って」
「うん！」

元気に頷くと手を振りながら飛び降りていった。

「トコヤミ、領主の館に向かって」
『御意』

領主の館は北東の位置にある。堅固な塀で覆われた立派な屋敷だ。
しかし今は塀の一部が破壊されて、そこから駐屯兵団が入り込んでいる。それを領主の兵が何とか食止めている状況だ。

「トコヤミ、庭に降りて咆哮をあげて」
『よろしいのですか？』
「まずは全員を黙らせます」

トコヤミは庭の人の少ないところを選んで着地し、咆哮を一つ。
空気が振動し、戦闘していた全ての者が動きを止めた。

「直ちに戦闘をやめなさい。マルダを襲っていたファディアの軍は殲滅しました。この反乱は失敗します」

状況を知らない者も多いだろうが、最後の言葉には力を入れて発しておく。

自身のやっている事が意味のないものになったと印象付ける為だ。

「怯むな！数はこちらが有利！ドラゴン一匹増えたところで……」
「トコヤミ、やりなさい」

私が合図すると声を上げた男に向かって火球を吐き出す。

目にも留まらぬ速さで火球が着弾して、周囲の人間ごと消滅させた。

「私達はソリムド伯爵の味方です。敵対する者には容赦はしません。今すぐ武器を捨てて投降しなさい」

私が声を上げると、反応はそれぞれだった。