泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

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勇者

帰路の会話

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魔物には会う事無く、無事森から街道に出る事ができた。

停めてあった馬車はフランシスに使ってもらおうとマリオネルが話したが断られた。

「僕達は歩くから男爵が使って下さい」
「殿下を歩かせて私が馬車などと……私も歩きます」

そんなやり取りがあり、結局馬車には誰も乗らなかった。
街道では陣形を組む必要はないので皆二列になって歩いていく。

「皆さんはセイランの冒険者ですよね?セイランはどんな街ですか?」

フランシスはセロに話し掛けている。
彼はリーダーのセロとよく話した。丁寧な言葉遣いで様々な事を聞き、セロの答える内容に大袈裟に反応していた。
セロもフランシスに質問している。

「殿下は冒険者の様な事をされているのですね」
「はい。でも僕は冒険者登録は出来ないから趣味みたいなものですよ」

流石に王族を冒険者にする訳にはいかないのだろう。立場的には仕方のない事か。

「では仲間の皆さんが冒険者なのですか?」
「彼らも貴族の家の者なので冒険者にはなっていません」

貴族達の道楽なのね。でも戦果を上げているのは確かで、困っている人の役に立っているなら素晴らしい事だわ。

「そうだ、ギルドに応援をもらって討伐しようとしている魔物がいるのですが、良かったら一緒にどうですか?」
「俺達ランクが低いので受けられるか分かりませんよ。もっと腕の立つ冒険者も沢山いると思いますし」

セロは断った。彼はフランシスを警戒しているのではなく、本当にランクが足らないと思ったのだろう。

正直私はフランシスと関わり合わない方が良いと思っているのでこの話は無しにしたい。

「皆さんは相当な使い手だと思ったのですが……指名依頼にすればランク関係無しで受けられます。どうでしょう?」
「それなら受けられるかも知れませんが……みんなはどう思う?」
「セロ!殿下が誘ってくださっているのよ!」
「殿下に失礼ですよ」

リンとミラがセロを責める。
身分を考えたら即答しなければならないのだろうか?残念ながら人間の王侯貴族の事はよく分からない。

「無礼をお許しください殿下。喜んでお受け致します」
「そんなに気を遣っていただかなくていいですよ。皆さんの意見を聞いてから受けるかは決めて下さい。街に戻ったらギルドに依頼を出しておきますので詳細を確認してみてくださいね」

そう言って微笑むフランシス。

「ところでハルさんは城に連れてきた幻獣達を出さないのですか?」
「あれは皆私の家族です。そして今の私は冒険者ですので家族達を私の我儘で引っ張り回すつもりはありませんよ」
「すみません……誤解させてしまったかも知れませんが、僕はハルさんのご家族の力をあてにしている訳ではありません」
「それを聞いて安心しました。もし一緒に仕事をする事があれば微力を尽くします」

私がそう言うと嬉しそうに頷いていた。

人懐っこい笑顔の少年。ただそれだけなら可愛いと思えるのだが気を付けなければならない。

ブラストベアの暴走を意図的に起こしていたのなら、狙いは何だったのだろうか?

国王派に接近を始めたエリオット派を牽制する為にロイガー男爵を狙ったのか、私に危害を加える事が目的だったのかも知れない。単純に私達の力量を見たかっただけの可能性もある。

街に着くまでの間、フランシスとは楽しく会話をしていた。マリオネルとも街に着いた所で別れる。

「今日はありがとうございました。これは依頼の終了証明です。冒険者ギルドに渡して下さい」
「ありがとうございます」

セロがマリオネルからメダルを受け取る。

「それでは私達はこれで。殿下、失礼致します」
「ええ。ロイガー男爵、狩りのお邪魔をしてすみませんでした」
「とんでもございません。帰路を御同行出来て光栄でした」

フランシスとマリオネルが挨拶を交わして別れていった。

とにかく仕事は無事に終わった。
ギルドに報告に戻ろう。
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