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魔王

西方の解放

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「う……誰……?」
「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ。」

鼠人族メルキアン半獣人レグスケルヴィムの子が目を覚ましたので優しく声を掛ける。

歳は10歳にならない位の男の子。大きな怪我はしていない。
念の為に回復魔法で治療しておいた。

リオさん達の所に飛んで戻る。

「魔王を一撃で……?」
「何なんだよ今の……」
「背中のそれは…まさか…」

無意識に《シャイターン》が出ていたみたい。

ええと、マズいかな…。

「何も言う事はないわね。」
「説明しろよ!」

ショウ君が食って掛かる。

「何で?あなた達の立場で何を聞くの?」
「そ、それは…」
「話せない様な事だと言っているようなものね。」
「ご想像にお任せするわ。」

リオさんが何とか誤魔化してくれた。

森の中の状況が気になるけど、先に柱を破壊してしまおう。

《ルインブレイザー》をぶつけて柱を吹き飛ばす。
アッサリと柱が壊れて転移や通信が出来る様になった。

オーバーブーストを掛けた鑑定で調べてみると、森にいた魔王は倒されていた。

森に飛んでいくと、カオリさんが熊人族アルクトシアンの代表と話をしている所だった。

「本当に人間が仕切っていたのか。」
「たまたま各部族の連絡役をやっているだけで仕切っている訳ではないわ。彼らの戦闘力をみたでしょう?レイファードと戦うのは彼らに任せて獣人族ケルヴィムは集まってこの難局を打開しましょう。」
「しかし人間に我らの土地を奪われるのではないか?」
「そんな事は絶対にしないし、させない。もし約束を破るようなら私を八つ裂きにしてくれて構わないわ。」
「分かった。お前を信用しよう。」

話が纏まったみたい。
私は鼠人族メルキアンの少年をカオリさんに託した。
緊張している様子の少年だったけど、カオリさんと少し話をしたら落ち着きを取り戻した。

この少年は鼠人族メルキアン半獣人レグスケルヴィムの両親とはぐれてしまったらしい。
両親は行商人をやっていてレイファードの国境の町で取引を終えた帰りに襲われてしまったのだとか。
その両親は既に村で保護されているそうなので無事らしい。

うん、無事で良かったよ。

「あなた達はこのまま他に行くんでしょ?」
「はい。北の柱を破壊してレイファードに向かいます。」
「私は熊人族アルクトシアンと一緒に村に戻るわ。もし土竜人族タルピアンに会ったら、こちらに合流するように伝えてもらえるかしら?」
「はい。分かりました。」

それからカオリさんが従えている魔王について鑑定させてもらった。

この人の名前はギレウス。種族が魔王代理になっている。
生命力が280万…。精神力と気力は共に240万。とんでもない強さだ。

それからギフトに魔王の因子(かけら)というものがあった。
アウラさんに調べてもらったら、大元の魔王が因子を分けているのだろうと教えてくれた。

分けてもらったから代理なんだよね。
…このギフトを強奪したらどうなるのかな?

[因子に生命維持能力を完全依存させているので死亡するでしょう。]

じゃあこの人達は元に戻す事は出来ないんだね…。

「今まで遭った魔王を見る限り、人に強い憎念を抱いているわ。あれだけの破壊力を持っているのだから、既に沢山の人を殺しているでしょう。そうでなくても、魔王から元に戻れても普通の生活には戻る事は出来ないと思うわ。」
「《プロディギウム》を使えばもしかしたら…」
「一人ずつに使っていたらミナが死んでしまうわ。彼らは自ら望んで魔王になった様な節があるのよ。それを命をかけて助ける必要はない。」
「分かりました…。」

助ける事ができたら良かったんだけど。
こんなに色々と凄い力を持っていても全てを救う事は出来ない。全員が幸せになる方法はないのかな…。

「難しい事を考えているみたいだけど、あなた達は良くやってくれていると思うわ。だから自信を持って頑張りなさい。」

カオリさんが励ましてくれる。

そうだね。やれる事を精一杯やればいい。今できるのは生存者の救出と魔王の排除。そして大元の魔王をどうにかする事だ。

ウジウジ考えていても仕方ないよね。

ここでカオリさんとはお別れだ。

「カオリおねーさん、また来てもいい?」
「当たり前でしょ。落ち着いたら遊びに来なさい。あなた達の話もその時に詳しく聞かせてね。」
「何か合ったら村の防衛に当たらせている竜に言って。私達と連絡が取れるはずだから。」
「分かったわ。気を付けなさいよ。」

ソラちゃん、リオさん、カオリさんが話をしていた。

「ミナ、ユキ、リオ達から聞いたわ。ソラとリオを助けてくれてありがとう。帝国の連中には気を付けて。」
「ありがとうございます。」

昨日のやり取りの事を言っているんだろう。カオリさんはいい人だ。今度会う時はゆっくり話をしたいな。

「さあ、行きましょう!」

カオリさんと少年と熊人族アルクトシアンと別れて北部の柱に向かって出発した。

ウルちゃんに全員が乗って移動する。
森で魔王を倒したのはマサキさんらしいので聞いてみた。

「マサキさん、魔王はどうでした?」
「んー、まあまあだったな。ハナの足元にも及ばない。」
「私を引き合いに出すなよ…。」
「じゃあ、ミナと比較したらゴミだったな。」
「その比較はやめて下さい。」

マサキさんはダンジョンの中の私と比較している。

「通常の方でも勝てないんだぞ。《ラズルシェーニェ》は使って来ないってのに。」
「そうなんですか?」

[《シャイターン》(通常)は《ラズルシェーニェ》を使用出来ないようにしてあります。]

アウラさんが言うには《ラズルシェーニェ》を常時発動しながら戦うと戦闘にならないらしい。

「じゃあ本物のミナの方が強いんだな!まずはアイツに勝てる様にならないと、いざという時にミナを止められないな!」

なんでマサキさんは嬉しそうなんだろう…?

「なあ、さっきからなんの話だ?」

リュウさんが聞いてくる。

「ええと…「秘密よ。」

リオさんが私を遮って答える。

帝国の人達にはダンジョンの事とか手の内を見せない様にした方がいいとリオさんに言われた。

昨日カオリさんと話していた事もあるし、完全に味方と言うわけではないならね。
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