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精子発電用バッテリーとして使い物にならなくなってきた囚人くんの話
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午後九時――。
テレビの前に座った家族連れ、仕事終わりのサラリーマン、風呂上がりにビール片手の独身貴族、誰もが楽しみにしている番組がある。
それが、NHJスペシャル『エネルギー最前線202X』だ。
今夜の特集は
「精子発電が支える日本経済 ~バッテリー達の現場から~」
ババーンという効果音とともに、画面には日本列島の空撮映像。ドローンがゆるやかに南から北へ駆け上がり、次第にクローズアップしていくのは、東関東某所に位置する広大な矯正施設「国家第七発電刑務所」だ。
ナレーションは、落ち着いた女性の声。
「今、日本は経済復興のまっただ中にあります。
かつては人口減少・エネルギー危機に喘いでいたこの国が、いまやアジア随一のGDP成長率を記録。
その原動力となっているのが、皆さんの生活にも深く関わる“精子発電”です」
ビルの明かり、電車のライト、コンビニの冷蔵庫――。
あらゆる電力を使用するものが、画面に現れ、切り替わって行く。
【すべては、彼らの射精によって支えられている】
そんなキャッチコピーが大きく映し出された後、場面は切り替わる。
テレビクルーが厳重なゲートをくぐり、刑務所の敷地内に足を踏み入れる。
案内役は、がっちりした体格に濃紺の制服を身にまとった警備担当の男。
何重にも設けられたセキュリティを越えると、ついに発電棟エリアに到着。
鉄の扉が重々しく開かれる。
「うっ……!」
「ひぎっ……!あ゛あ゛ッ……んんんんっ!!」
「ぉ゛ぉ゛ぉぉっ……ふ゛ぅっ、い、イグッッッ……!!イグッッッ……!!」
立ち込める蒸気、肌がぴったりと汗に濡れた男たちの肌。
白く明るい搾精室では、囚人たちが機械に繋がれた股間を前後にピストンしながら、絶え間ない快楽に喘ぎ声を上げていた。
どの男も例外なく囚人らしい丸刈り。
その刈り上げた頭皮には汗が光り、首筋には発電効率等を計測する小型センサーが貼り付けられている。
カメラはゆっくりと奥へ進み、現場監督である刑務所長・綿貫が姿を現す。
表情は厳しくも誠実、スーツの胸元には「省エネ貢献賞」のバッジが光っている。
リポーターがスッと、インタビューに入る。
「所長、今日はお忙しい中ありがとうございます。まず、この精子発電刑務所について、国民の皆様に向けてご説明いただけますか?」
所長は軽くうなずき、背後で喘ぎ狂う囚人たちを一瞥すると、真顔で語り始めた。
「はい。我々の役割は“燃料”を安定して供給すること。
彼ら囚人たちは、国家の血液たる精子を生み出す発電機関であり、誇り高きエネルギー労働者です。
我々はその彼らに対し、最大限の環境を提供しています。」
「インセンティブ制度についてお伺いしたいのですが?」
「ええ、これは国の方針でもあります。
1日500回の射精を達成した者には、A5ランク和牛や刺し身などを含む豪勢な夕食を提供。
さらに、月に1万回以上の射精を記録した者には、プライバシーが保たれた“個室型精子生産ブース”が与えられます。」
「個室とは驚きですね!」
「もちろん、テレビもついております。オナホは最新モデル、VRオプションもございます。興奮を促すことで精子生産を促進しますからね。」
ナレーターが語る。
「精子を生産する囚人の存在がなければ、私たちはスマートフォンの充電すら叶いません。
今宵も、彼らの身体から搾り出された“白濁のエネルギー”が、あなたの暮らしを灯しているのです――」
カメラが引きに転じ、夜の刑務所を空撮する。
うめき声が響く中、まばゆいライトが施設を包む。
そして、エンドロールとともにアナウンサーが締めくくる。
「精子――それは、国を照らす光。
その光を生み出す囚人たちに、今宵も静かなる感謝を捧げましょう。
以上、NHJスペシャル『エネルギー最前線202X』、本日は“性と国益の最前線”からお届けしました。」
やがて映像はフェードアウト。
残ったのは、ビール片手にニュースを見ていた市民のつぶやきだった。
「やっぱ、精子ってすげぇなぁ……」
そして、夜は静かに更けていく。
「ぉ゛ぉ゛ぉぉっ……ふ゛ぅっ、いンぁぁァッ! い゛っ! い゛っぐっ! い゛ぐい゛ぐぅぅっ……!」
シリコンの筒から響く水音にかき消されながら、前崎健介は一際大きな声を上げ、腰をビクビクと震わせた。綺麗にバリカンで刈られた頭は汗で濡れ、青白い蛍光灯の光を鈍く反射している。
囚人番号1919、前崎健介、32歳。
かつて恐喝・暴行を繰り返していた半グレも、今や国の精子バッテリーとして三年目のキャリアを重ねる中堅囚人。
今日もまた、ぬるぬるとした搾精機の中に性を注ぎ込みながら、アホ面を晒していた。
ぐぷぅ、ぐぷっ、ぬぽっ……
精子搾取用の機械は、まるで健介の身体と意識を全て把握しているかのようなリズムで、的確に締めつけ、揺らし、震わせ、際限なく快感を送り込んでくる。
健介の口から、言葉にならない声が漏れた。
「ッは……ふぅ、あ……ぅ、ひ、いく……っ、くぅっ、あっ……」
無様だった。
だが、これが「正しい」姿だった。ここでは。
そうしているうちに、壁際のスピーカーからピィィーッという高音の笛が鳴り響いた。
“終了の合図”。
今日の精子労働は終わった。
健介は、ゆっくりと搾精機から腰を引き抜いた。まだ僅かに震えている太ももと、熱を持った男根の感覚を残したまま、ぶらぶらと虚ろな目で前を見据える。
モニターが、機械に接続された囚人番号「1919」のデータを表示していた。
射精回数:119回
健介の表情が、わずかに揺れた。
「……119回。……そろそろ、やべぇ、よな」
ぽつりと、独り言が落ちた。
そして、思考がゆっくりと巻き戻る。
精子発電バッテリーとして、この施設に収容されたばかりの頃。
刈り上げられた頭皮のヒリつきを気にしながら、無理やり突っ込んだあのときの感触。
羞恥と怒り、混乱、そして快楽の入り交じった日々。
だが。
半年もすれば、人間は順応する。
いや、順応させられる。そういう薬を、そういう催眠音声を、そういうルーチンを与えられる。
気がつけば、健介は月に一万回の射精をこなす一流の“生産者”となり、報酬として個室を与えられ、冷暖房完備、食事も一日三回、VRブースでの“自己管理時間”も許された。
出世――と、言えば出世だ。
だが。
年々、数値は落ちていった。
そもそも、1日3桁の射精なんていうのは無理のある話。
身体が悲鳴を上げ始めたのだ。
そして今日、ついに「119回」。
“その日”が、近い。
健介は思い出す。あの噂を。
囚人食堂。水で薄められたシャバシャバのカレーが夕食の日だった。
食器を持ったまま、耳をそばだてた。
「……おい、知ってるか。100切ったヤツ、例外なく消えてるんだよ」
「マジか? どこに行くんだよ」
「知らねえけどよ、消えてるのだけは確かだ。あの日から、そいつ見てねえ」
「どーなるんだよ。臓器売買?海外の富豪向けの接待係とか?」
「いやいや、結局、死ぬんだよ。ぶっちゃけ、精子出せねぇ囚人に価値はねぇだろ」
あのときの笑い声、歯の裏にひっかかったカレーの味、そして背筋を撫でた冷たい汗の感覚。
全部、思い出せる。
健介の胸がざわついた。
息を吐く。不安が喉に張り付く。
どこかまだ火照った股間を片手で包み込み、握る力に力を込めた。
だが、裏付けのない決意に意味はない。
それは思考の中だけで完結する“希望ごっこ”にすぎず、現実をひとつも変えはしないのだ。
あれから数週間が経った。
時間は経つ。日々は流れる。
健介を取り巻くものは、何も変わらない。壁の色も、汗も、匂いも、搾精機の駆動音も――そして、ただ無表情に彼らを見張る刑務官たちの無機質な目も。
そして今――
今日の労働終了まで、あと30分を切っている。
搾精機に接続されたままの健介は、半ば狂ったように腰を振っていた。
その額には汗が滲み、眼球は焦点を失っている。
だが、搾精機のモニターが表示する数字は、あまりに無情だった。
射精回数:87回
「やべぇ……やべぇよ……あと30分で、13回はイカねぇと……」
焦燥が、鼓動とともに強くなる。
ぬぽっ、ぐぷっ、ぐぢゅっ、ぬちゅっ、ぐぶっ……!
「んあ゛ぁっっっ!! お゛ほぉ……ひ、ひぅっ、くぁ゛……ッッ!!」
絞り出そうとする意思とは裏腹に、射精の感覚が鈍っている。
絞っても、出ない。突いても、抜けない。
それでも腰を振る。恥も外聞もない。
刑務官の冷たい目が横から突き刺さっているのも分かっている。
だが、止められない。止めるわけにはいかない。
「ッッく、ん゛っ……あっっっ……あ、出る、出る……くぅぅッ!!」
ビクッ、ビクンッ!!ビュルル!!
ようやく88回目の射精。
が、余韻に浸る間もなく、健介は再び腰を打ちつける。
ぬぽっ、ぬぽっ、ぐぷっ、ぐっ、ぬりゅっ……!
「い゛ああっ……ッ! おおおおっっ……お、お゛ぐ、ぐっぅぅぅ……っ!!」
モニターの数値は、徐々に上がっていく。
91、92、93……
だが、そのたびに股間は重くなり、感覚は鈍くなっていく。
(あと、7回!あと7回で100……!)
その目標が、果てしなく遠く感じられた。
ぶしゅっ、じゅぷっ、ぬぼっ、ぬっぷ……
「んっ……うぅっっ、くぅ……あ、イッ……イッく、またッ……!」
そして――96回。
ピィィィィーーーーッッ!!!
精子労働、終了の合図。
機械が自動で収縮を止め、接続部が外れる。
健介は、震える腰のまま、その場にへたり込んだ。
胸の中で、声にならない絶望が、静かに膨らんでいた。
じっとりと汗に濡れた坊主頭をうなだれたまま、健介は動けなかった。
膝が笑い、息は上がり、心臓の鼓動ばかりが耳元でうるさく響いている。
目の前のカウンターには、無慈悲な数字――「96」
それだけが、くっきりと赤い数字で表示されていた。
……間に合わなかった。
あれほどまでに腰を振り、膝を打ちつけ、喉の奥から喘ぎ声を絞り出したのに、届かなかった。
それが、現実だった。
「おい、お前、こい」
低い、感情のこもらぬ声。
健介が顔を上げると、そこには一人の刑務官が立っていた。
制服の袖には銀色に輝く階級章が輝いている。見慣れた監視員ではない。階級が違う。
健介が立ち上がる前に、刑務官の手が伸び、手錠がカチャリと嵌められる。
手首を拘束された感触。
次いで、強く腕を引かれ、健介の身体がぐらりと前に引きずられる。
抵抗など、できなかった。
筋肉は連続射精という名の無酸素運動、それによる乳酸で満ちている。
腰はすでに力を失い、呼吸さえも浅い。
そのまま、彼は刑務官に連れられて歩かされる。
いつもの廊下ではなかった。
光の色が違った。壁の材質が違う。
足元はコンクリではなく、金属板のような鈍い音を立てていた。
彼が通されたのは、普段ならば封鎖されている“北棟”の裏手。
そこには、見たこともないエレベーターがぽつんと設置されていた。
やけに新しい造りだ。
健介は、その無機質なボタンの列を見つめながら、声を絞り出した。
「……あの、俺……どうなっちゃうんですか……?」
刑務官は振り返らず、ただ「ん?」と、気の抜けた声を返す。
「臓器……売られるんですか? それとも……」
その言葉に、刑務官は数秒沈黙した。
そして、ふいに肩を揺らしながら笑った。
「……ははは。何を勘違いしてるんだ? お前」
「え……?」
「お前らは国家の貴重な電力源だ。そんなもん、無駄に使えるわけがねぇだろ」
言いながら、刑務官はエレベーターのボタンを押す。
ウィーンという機械音と共に、扉がゆっくりと開いた。
内部は、異様なほどに白い。眩しいほどだ。
健介の足は、自然と止まりかけた。
が、手錠を引っ張られ、否応なく乗り込まされる。
「で、でも、俺……全然、最近じゃ、射精も……できなくなってきてて……」
「……あぁ、そうだな。あのやり方じゃ、バッテリーとして使い物にならなくなってきてる」
「じ、じゃあ……じゃあ、やっぱり俺……」
「まぁ、黙ってついてこい。ちゃんと、お前を“リサイクル”してやるから」
エレベーターが静かに降下を始める。
上下の感覚が不安定に揺れる中、健介の胸も、同じようにざわめいていた。
何かが確実に、今までとは違う。
これまでの精子労働とは異なる“層”に、彼は踏み込もうとしていた。
行き先のボタンには、見たことのないアルファベットと数字。
どこへ連れて行かれるのか。
思考はまるで煙のように定まらない。
やがて、エレベーターが静かに停止する。
扉が、音もなく開く。
(……俺はこの先、どうなっちまうんだ……)
その問いは、心の中で繰り返されるだけで、誰も答えてはくれなかった。
扉が、音もなく開く。
直後、空気が変わる。
生ぬるく、湿っていて、そして何より――臭い。
ただの体臭や汗の匂いではない。
それはどこか馴染みのある、だが圧倒的に強烈な臭気――精液のにおいだった。
搾精室と同じ……いや、それ以上に濃い。
鼻腔の奥を突き刺すような臭気に思わず顔をしかめる。
同時に、耳に入ってきたのは、人の声――喘ぎ声とも呻き声ともつかぬ、獣じみたうめきだった。
だが、何かが違う。
音の質が、あまりにも異様だった。
快楽というより、苦痛に近い。
足元を引っ張られるような嫌悪感と戦いながら、健介は一歩、また一歩と足を踏み入れる。
中は薄暗く、天井は高い。
視界が次第に慣れてくると――それは、まさに異様だった。
整然と並んだ四つん這いの全裸の男たち。
それぞれの身体には金属のベルトが食い込み、手首・足首・腰が地面に固定されていた。
誰一人として顔を上げることはできず、ひたすらに、その体勢のまま……喘いでいた。
まるで、人間をブロックのように並べたような、無機質な構造。
健介は喉の奥がひゅっと鳴った。
「……こ、ここ……は……」
刑務官が、淡々と言った。
「今日からここが、お前の職場で寝床だ」
「え、それ、どういう……」
「早速“リサイクル”といくか」
その瞬間、左右から影が現れる。
複数の刑務官たちが、無言のまま健介の腕を掴む。
「おい、何すんだよ!」
反射的に身を捩った。
が、その刹那。
ビリビリッッッ!!!
「ぐあああああああああっっ!!」
背中に何かが突き刺さったかのような衝撃。
痙攣するように四肢が震え、膝から崩れ落ちた。
「大人しくしろ」
感情のない声が重なる。
健介の手足は、あっという間に他の囚人たちと同じように、床に固定された。
腰には頑丈な金属のアームが差し込まれ、背骨を圧迫するような感触。
ぐいと尻が持ち上がるような角度にされ、もう自力では動かせない。
口が自然と開く。
声にならない叫び。
「ここからが本番だ」
誰かが、健介の尻を撫でた。
粘つく手のひら。
「や、やめろっ……何、なにすんだよ!!」
直後。
ひやりとした感触が、尻の割れ目に滑り込む。
金属――明らかに人工の、冷たく無機質なそれが、肛門のすぐ外にピタリと触れた。
「や、やだ、やだって!!」
無視された。
押し込まれる感触。
「ぐ、ぐぎぃ……!!」
肛門が拒絶する。
だが、構わず、器具はゆっくりと奥へ。
直腸の内側を押し広げる感覚。
異物が、熱をもった粘膜をこじ開けていく。
慣れない。
いや、初めてだ。
その“場所”に異物が入り込む感覚。
鈍い、吐き気を誘うような異常な不快感。
健介は歯を食いしばり、拘束具に身体をぶつけるように暴れた。
が、微動だにできなかった。
装置の固定は完璧だった。
そして――異物は、ついに奥の奥まで達した。
健介の背筋が、ぶるりと震えた。
これから、何かが、始まる。
[newpage]
……何かが、始まる。
肛門奥に差し込まれた金属の感触。
それがただの異物ではないことを、健介の本能が訴えていた。
「なぁ……何すんだよ……それだけでも、教えてくれよ……っ」
声は掠れていた。
だが、それでも健介は震える声を振り絞った。
刑務官は、しばし無言だった。
まるで“答える価値もない”という顔で彼を見下ろしていた。
だが、ふいに口元を歪めて、低く言った。
「……いいだろう。教えてやるよ」
健介は、小さく頷く。
その顔には、安堵と恐怖の両方があった。
「まず……お前は、ここから一生動くことはない」
「……え?」
あまりにも淡々とした声。
「ま、待て……飯とか、うんことか、そういうのは……どうすれば……」
「肛門につけたパイプがお前に栄養補助を行う。そして、内部は空道構造になってるから、排泄もそのまま可能だ」
「は……? え……?」
理解が追いつかない。
いや、理解したくなかった。
「そして……お前の配置転換の目的は、言うまでもない。リサイクルだ。新鮮な精子を、もう一度、大量に出せるようにすることだ」
「そんなの……どうやって……」
「それは、こうする」
その言葉と同時に、肛門奥へと通された金属装置にスイッチが入った。
バチバチッ……!!
「く……ああああああああああっっ!!!」
雷鳴のような刺激。
それは脊髄を駆け上がり、脳天を貫いた。
全身が痙攣する。
そして――股間から、熱いものが漏れた。
ぬるり、と。
射精だった。
健介はその感覚に、目を見開く。
だが、刑務官は眉一つ動かさずに言った。
「おっと、私としたことが……これを忘れていた」
そう言って、もう一人の刑務官が、健介の股間に取り付ける。
透明なチューブと、その先にあるポンプ。
尿道口に差し込まれた細い管が、ズズッと奥へ。
ちゅぴ、と音を立てて装着が完了する。
「射精一回分、無駄にしてしまったな」
その間も、電流は止まらない。
「アアアアアアアアアアアア!!!!!!」
健介の喉が張り裂けるほどの声を上げる。
口の端からは涎が溢れ、目は涙で潤む。
刑務官がひとつ頷いた。
「……一旦、止めようか」
ピッ。
電流が止まる。
健介の身体から力が抜け、拘束具に体重が預けられる。
「な、なぁ……これって……どういう……」
「前立腺に、電撃を流して射精を促している」
「え……?」
「性器を擦るだけじゃ、もう劣化していく一方だ。違ったアプローチが必要だろう?」
「ちょ、ちょっと待て、どういう――」
「黙れ!」
ビシィッと音が鳴った。手の甲で尻をはたかれる。
反射的に腰が跳ねるが、拘束が緩むことはない。
「……」
健介は、黙った。
いや、黙るしかなかった。
「これから……睡眠時間を除いて永遠に、この電流が流れ続ける」
「え……?」
「最初は辛いかもしれないが、安心しろ。慣れる。そして、気持ち良くもなる」
「……永遠? これから、ずっと……? おい! 外せよ!! これ!!」
声を張り上げた。
喉を裂くように。
だが。
刑務官は、スイッチを見下ろしながら、静かに言った。
「……では、これからしっかりと国家に貢献するように」
ピッ。
バチバチバチッ……!!!
「ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアァァァ!!!!!!!」
ピッ。
バチバチバチッ……!!!
「ぐ、ぐぎいいいいいい!!!!!!!」
脳の奥で火花が散る。
前立腺から腰へ、背骨へ、視神経の奥へ、灼けつくような電撃が、波のように繰り返し繰り返し襲ってくる。
吐き気とも違う、痛みとも違う。
だが確かに、身体のどこかが壊れていく。
いや、作り替えられていく。
どれだけの時間が経ったのか。
それは分からなかった。
天井もなければ、窓もない。
時計もなければ、声もない。
ただ、絶え間ない電流。
止まらない射精。
止められない痙攣。
動くことはできない。
手足は拘束具に封じられ、冷たい金属に圧しつけられたまま。
苦しい。
息も、絶え絶え。
目の焦点は合わない。
喉は乾いていて、口は開けっ放し。
涎が垂れ、顎を伝って床に滴る。
だが、それさえも、もう気にならなかった。
ふと、横を見た。
同じように四つん這いにされている囚人たち。
その顔。
その顔は――白目を剥いていた。
正気ではなかった。
焦点を失い、涎を垂らし、時折ピクンと痙攣する表情筋。
「んっっんぉ……っ、うぅぅ、んあっ……っっ……」
「ぉ゛ぉっっ……お゛お゛お゛……!!」
「ッッっああっああああッッ!!! くぁっ……はぁぁ……っ」
周囲から絶え間なく漏れ続ける喘ぎ声。
それは単なる喘ぎではなかった。
快楽というよりも、“反射”に近かった。
人間としての意思を挟む余地のない、身体が勝手に発する悲鳴。
それが、連続していた。
永遠のように。
(……どうしたら……どうしたらいいんだ……どうしたら、ここから……)
健介の思考が、ぼろぼろと崩れていく。
逃げ道を探すように、心が視線を宙にさまよわせる。
だが、どこにもない。
どこにも、何もなかった。
その瞬間だった。
ビリッ、と。
明らかにさっきまでとは違う感触。
痛みとは違う。
不意に、背筋を駆け上がるような快感。
「んぉっ……」
思わず、声が漏れた。
そして――気づく。
考えることに意味はない。
抵抗することに意味はない。
ここは、そういう場所なのだ。
ただ、快楽に飲まれること。
ただ、精液を出すこと。
それだけが、ここに存在する意味なのだ。
それこそが、“国家に貢献する”ということ。
尿道の奥で、じゅる、という粘着質な音。
チューブを通って、精液が排出されていく感触。
自分の一部が、身体の外へ、国へと供給されている現実。
「……あ……あっ、ん……くふっ……あ、あ……んぅぅ……」
健介の口から、自然と声が漏れる。
下品で、無様で、だが、そこにはどこかしら甘やかさが滲んでいた。
脳がゆるむ。
思考がほどけていく。
代わりに流れ込んでくるのは、“快感”の記憶。
もう一度、あの感触が欲しいという欲望。
次も、その次も、ずっと、ずっと――。
健介はゆっくりと、しかし確実に――その正気を手放した。
テレビの前に座った家族連れ、仕事終わりのサラリーマン、風呂上がりにビール片手の独身貴族、誰もが楽しみにしている番組がある。
それが、NHJスペシャル『エネルギー最前線202X』だ。
今夜の特集は
「精子発電が支える日本経済 ~バッテリー達の現場から~」
ババーンという効果音とともに、画面には日本列島の空撮映像。ドローンがゆるやかに南から北へ駆け上がり、次第にクローズアップしていくのは、東関東某所に位置する広大な矯正施設「国家第七発電刑務所」だ。
ナレーションは、落ち着いた女性の声。
「今、日本は経済復興のまっただ中にあります。
かつては人口減少・エネルギー危機に喘いでいたこの国が、いまやアジア随一のGDP成長率を記録。
その原動力となっているのが、皆さんの生活にも深く関わる“精子発電”です」
ビルの明かり、電車のライト、コンビニの冷蔵庫――。
あらゆる電力を使用するものが、画面に現れ、切り替わって行く。
【すべては、彼らの射精によって支えられている】
そんなキャッチコピーが大きく映し出された後、場面は切り替わる。
テレビクルーが厳重なゲートをくぐり、刑務所の敷地内に足を踏み入れる。
案内役は、がっちりした体格に濃紺の制服を身にまとった警備担当の男。
何重にも設けられたセキュリティを越えると、ついに発電棟エリアに到着。
鉄の扉が重々しく開かれる。
「うっ……!」
「ひぎっ……!あ゛あ゛ッ……んんんんっ!!」
「ぉ゛ぉ゛ぉぉっ……ふ゛ぅっ、い、イグッッッ……!!イグッッッ……!!」
立ち込める蒸気、肌がぴったりと汗に濡れた男たちの肌。
白く明るい搾精室では、囚人たちが機械に繋がれた股間を前後にピストンしながら、絶え間ない快楽に喘ぎ声を上げていた。
どの男も例外なく囚人らしい丸刈り。
その刈り上げた頭皮には汗が光り、首筋には発電効率等を計測する小型センサーが貼り付けられている。
カメラはゆっくりと奥へ進み、現場監督である刑務所長・綿貫が姿を現す。
表情は厳しくも誠実、スーツの胸元には「省エネ貢献賞」のバッジが光っている。
リポーターがスッと、インタビューに入る。
「所長、今日はお忙しい中ありがとうございます。まず、この精子発電刑務所について、国民の皆様に向けてご説明いただけますか?」
所長は軽くうなずき、背後で喘ぎ狂う囚人たちを一瞥すると、真顔で語り始めた。
「はい。我々の役割は“燃料”を安定して供給すること。
彼ら囚人たちは、国家の血液たる精子を生み出す発電機関であり、誇り高きエネルギー労働者です。
我々はその彼らに対し、最大限の環境を提供しています。」
「インセンティブ制度についてお伺いしたいのですが?」
「ええ、これは国の方針でもあります。
1日500回の射精を達成した者には、A5ランク和牛や刺し身などを含む豪勢な夕食を提供。
さらに、月に1万回以上の射精を記録した者には、プライバシーが保たれた“個室型精子生産ブース”が与えられます。」
「個室とは驚きですね!」
「もちろん、テレビもついております。オナホは最新モデル、VRオプションもございます。興奮を促すことで精子生産を促進しますからね。」
ナレーターが語る。
「精子を生産する囚人の存在がなければ、私たちはスマートフォンの充電すら叶いません。
今宵も、彼らの身体から搾り出された“白濁のエネルギー”が、あなたの暮らしを灯しているのです――」
カメラが引きに転じ、夜の刑務所を空撮する。
うめき声が響く中、まばゆいライトが施設を包む。
そして、エンドロールとともにアナウンサーが締めくくる。
「精子――それは、国を照らす光。
その光を生み出す囚人たちに、今宵も静かなる感謝を捧げましょう。
以上、NHJスペシャル『エネルギー最前線202X』、本日は“性と国益の最前線”からお届けしました。」
やがて映像はフェードアウト。
残ったのは、ビール片手にニュースを見ていた市民のつぶやきだった。
「やっぱ、精子ってすげぇなぁ……」
そして、夜は静かに更けていく。
「ぉ゛ぉ゛ぉぉっ……ふ゛ぅっ、いンぁぁァッ! い゛っ! い゛っぐっ! い゛ぐい゛ぐぅぅっ……!」
シリコンの筒から響く水音にかき消されながら、前崎健介は一際大きな声を上げ、腰をビクビクと震わせた。綺麗にバリカンで刈られた頭は汗で濡れ、青白い蛍光灯の光を鈍く反射している。
囚人番号1919、前崎健介、32歳。
かつて恐喝・暴行を繰り返していた半グレも、今や国の精子バッテリーとして三年目のキャリアを重ねる中堅囚人。
今日もまた、ぬるぬるとした搾精機の中に性を注ぎ込みながら、アホ面を晒していた。
ぐぷぅ、ぐぷっ、ぬぽっ……
精子搾取用の機械は、まるで健介の身体と意識を全て把握しているかのようなリズムで、的確に締めつけ、揺らし、震わせ、際限なく快感を送り込んでくる。
健介の口から、言葉にならない声が漏れた。
「ッは……ふぅ、あ……ぅ、ひ、いく……っ、くぅっ、あっ……」
無様だった。
だが、これが「正しい」姿だった。ここでは。
そうしているうちに、壁際のスピーカーからピィィーッという高音の笛が鳴り響いた。
“終了の合図”。
今日の精子労働は終わった。
健介は、ゆっくりと搾精機から腰を引き抜いた。まだ僅かに震えている太ももと、熱を持った男根の感覚を残したまま、ぶらぶらと虚ろな目で前を見据える。
モニターが、機械に接続された囚人番号「1919」のデータを表示していた。
射精回数:119回
健介の表情が、わずかに揺れた。
「……119回。……そろそろ、やべぇ、よな」
ぽつりと、独り言が落ちた。
そして、思考がゆっくりと巻き戻る。
精子発電バッテリーとして、この施設に収容されたばかりの頃。
刈り上げられた頭皮のヒリつきを気にしながら、無理やり突っ込んだあのときの感触。
羞恥と怒り、混乱、そして快楽の入り交じった日々。
だが。
半年もすれば、人間は順応する。
いや、順応させられる。そういう薬を、そういう催眠音声を、そういうルーチンを与えられる。
気がつけば、健介は月に一万回の射精をこなす一流の“生産者”となり、報酬として個室を与えられ、冷暖房完備、食事も一日三回、VRブースでの“自己管理時間”も許された。
出世――と、言えば出世だ。
だが。
年々、数値は落ちていった。
そもそも、1日3桁の射精なんていうのは無理のある話。
身体が悲鳴を上げ始めたのだ。
そして今日、ついに「119回」。
“その日”が、近い。
健介は思い出す。あの噂を。
囚人食堂。水で薄められたシャバシャバのカレーが夕食の日だった。
食器を持ったまま、耳をそばだてた。
「……おい、知ってるか。100切ったヤツ、例外なく消えてるんだよ」
「マジか? どこに行くんだよ」
「知らねえけどよ、消えてるのだけは確かだ。あの日から、そいつ見てねえ」
「どーなるんだよ。臓器売買?海外の富豪向けの接待係とか?」
「いやいや、結局、死ぬんだよ。ぶっちゃけ、精子出せねぇ囚人に価値はねぇだろ」
あのときの笑い声、歯の裏にひっかかったカレーの味、そして背筋を撫でた冷たい汗の感覚。
全部、思い出せる。
健介の胸がざわついた。
息を吐く。不安が喉に張り付く。
どこかまだ火照った股間を片手で包み込み、握る力に力を込めた。
だが、裏付けのない決意に意味はない。
それは思考の中だけで完結する“希望ごっこ”にすぎず、現実をひとつも変えはしないのだ。
あれから数週間が経った。
時間は経つ。日々は流れる。
健介を取り巻くものは、何も変わらない。壁の色も、汗も、匂いも、搾精機の駆動音も――そして、ただ無表情に彼らを見張る刑務官たちの無機質な目も。
そして今――
今日の労働終了まで、あと30分を切っている。
搾精機に接続されたままの健介は、半ば狂ったように腰を振っていた。
その額には汗が滲み、眼球は焦点を失っている。
だが、搾精機のモニターが表示する数字は、あまりに無情だった。
射精回数:87回
「やべぇ……やべぇよ……あと30分で、13回はイカねぇと……」
焦燥が、鼓動とともに強くなる。
ぬぽっ、ぐぷっ、ぐぢゅっ、ぬちゅっ、ぐぶっ……!
「んあ゛ぁっっっ!! お゛ほぉ……ひ、ひぅっ、くぁ゛……ッッ!!」
絞り出そうとする意思とは裏腹に、射精の感覚が鈍っている。
絞っても、出ない。突いても、抜けない。
それでも腰を振る。恥も外聞もない。
刑務官の冷たい目が横から突き刺さっているのも分かっている。
だが、止められない。止めるわけにはいかない。
「ッッく、ん゛っ……あっっっ……あ、出る、出る……くぅぅッ!!」
ビクッ、ビクンッ!!ビュルル!!
ようやく88回目の射精。
が、余韻に浸る間もなく、健介は再び腰を打ちつける。
ぬぽっ、ぬぽっ、ぐぷっ、ぐっ、ぬりゅっ……!
「い゛ああっ……ッ! おおおおっっ……お、お゛ぐ、ぐっぅぅぅ……っ!!」
モニターの数値は、徐々に上がっていく。
91、92、93……
だが、そのたびに股間は重くなり、感覚は鈍くなっていく。
(あと、7回!あと7回で100……!)
その目標が、果てしなく遠く感じられた。
ぶしゅっ、じゅぷっ、ぬぼっ、ぬっぷ……
「んっ……うぅっっ、くぅ……あ、イッ……イッく、またッ……!」
そして――96回。
ピィィィィーーーーッッ!!!
精子労働、終了の合図。
機械が自動で収縮を止め、接続部が外れる。
健介は、震える腰のまま、その場にへたり込んだ。
胸の中で、声にならない絶望が、静かに膨らんでいた。
じっとりと汗に濡れた坊主頭をうなだれたまま、健介は動けなかった。
膝が笑い、息は上がり、心臓の鼓動ばかりが耳元でうるさく響いている。
目の前のカウンターには、無慈悲な数字――「96」
それだけが、くっきりと赤い数字で表示されていた。
……間に合わなかった。
あれほどまでに腰を振り、膝を打ちつけ、喉の奥から喘ぎ声を絞り出したのに、届かなかった。
それが、現実だった。
「おい、お前、こい」
低い、感情のこもらぬ声。
健介が顔を上げると、そこには一人の刑務官が立っていた。
制服の袖には銀色に輝く階級章が輝いている。見慣れた監視員ではない。階級が違う。
健介が立ち上がる前に、刑務官の手が伸び、手錠がカチャリと嵌められる。
手首を拘束された感触。
次いで、強く腕を引かれ、健介の身体がぐらりと前に引きずられる。
抵抗など、できなかった。
筋肉は連続射精という名の無酸素運動、それによる乳酸で満ちている。
腰はすでに力を失い、呼吸さえも浅い。
そのまま、彼は刑務官に連れられて歩かされる。
いつもの廊下ではなかった。
光の色が違った。壁の材質が違う。
足元はコンクリではなく、金属板のような鈍い音を立てていた。
彼が通されたのは、普段ならば封鎖されている“北棟”の裏手。
そこには、見たこともないエレベーターがぽつんと設置されていた。
やけに新しい造りだ。
健介は、その無機質なボタンの列を見つめながら、声を絞り出した。
「……あの、俺……どうなっちゃうんですか……?」
刑務官は振り返らず、ただ「ん?」と、気の抜けた声を返す。
「臓器……売られるんですか? それとも……」
その言葉に、刑務官は数秒沈黙した。
そして、ふいに肩を揺らしながら笑った。
「……ははは。何を勘違いしてるんだ? お前」
「え……?」
「お前らは国家の貴重な電力源だ。そんなもん、無駄に使えるわけがねぇだろ」
言いながら、刑務官はエレベーターのボタンを押す。
ウィーンという機械音と共に、扉がゆっくりと開いた。
内部は、異様なほどに白い。眩しいほどだ。
健介の足は、自然と止まりかけた。
が、手錠を引っ張られ、否応なく乗り込まされる。
「で、でも、俺……全然、最近じゃ、射精も……できなくなってきてて……」
「……あぁ、そうだな。あのやり方じゃ、バッテリーとして使い物にならなくなってきてる」
「じ、じゃあ……じゃあ、やっぱり俺……」
「まぁ、黙ってついてこい。ちゃんと、お前を“リサイクル”してやるから」
エレベーターが静かに降下を始める。
上下の感覚が不安定に揺れる中、健介の胸も、同じようにざわめいていた。
何かが確実に、今までとは違う。
これまでの精子労働とは異なる“層”に、彼は踏み込もうとしていた。
行き先のボタンには、見たことのないアルファベットと数字。
どこへ連れて行かれるのか。
思考はまるで煙のように定まらない。
やがて、エレベーターが静かに停止する。
扉が、音もなく開く。
(……俺はこの先、どうなっちまうんだ……)
その問いは、心の中で繰り返されるだけで、誰も答えてはくれなかった。
扉が、音もなく開く。
直後、空気が変わる。
生ぬるく、湿っていて、そして何より――臭い。
ただの体臭や汗の匂いではない。
それはどこか馴染みのある、だが圧倒的に強烈な臭気――精液のにおいだった。
搾精室と同じ……いや、それ以上に濃い。
鼻腔の奥を突き刺すような臭気に思わず顔をしかめる。
同時に、耳に入ってきたのは、人の声――喘ぎ声とも呻き声ともつかぬ、獣じみたうめきだった。
だが、何かが違う。
音の質が、あまりにも異様だった。
快楽というより、苦痛に近い。
足元を引っ張られるような嫌悪感と戦いながら、健介は一歩、また一歩と足を踏み入れる。
中は薄暗く、天井は高い。
視界が次第に慣れてくると――それは、まさに異様だった。
整然と並んだ四つん這いの全裸の男たち。
それぞれの身体には金属のベルトが食い込み、手首・足首・腰が地面に固定されていた。
誰一人として顔を上げることはできず、ひたすらに、その体勢のまま……喘いでいた。
まるで、人間をブロックのように並べたような、無機質な構造。
健介は喉の奥がひゅっと鳴った。
「……こ、ここ……は……」
刑務官が、淡々と言った。
「今日からここが、お前の職場で寝床だ」
「え、それ、どういう……」
「早速“リサイクル”といくか」
その瞬間、左右から影が現れる。
複数の刑務官たちが、無言のまま健介の腕を掴む。
「おい、何すんだよ!」
反射的に身を捩った。
が、その刹那。
ビリビリッッッ!!!
「ぐあああああああああっっ!!」
背中に何かが突き刺さったかのような衝撃。
痙攣するように四肢が震え、膝から崩れ落ちた。
「大人しくしろ」
感情のない声が重なる。
健介の手足は、あっという間に他の囚人たちと同じように、床に固定された。
腰には頑丈な金属のアームが差し込まれ、背骨を圧迫するような感触。
ぐいと尻が持ち上がるような角度にされ、もう自力では動かせない。
口が自然と開く。
声にならない叫び。
「ここからが本番だ」
誰かが、健介の尻を撫でた。
粘つく手のひら。
「や、やめろっ……何、なにすんだよ!!」
直後。
ひやりとした感触が、尻の割れ目に滑り込む。
金属――明らかに人工の、冷たく無機質なそれが、肛門のすぐ外にピタリと触れた。
「や、やだ、やだって!!」
無視された。
押し込まれる感触。
「ぐ、ぐぎぃ……!!」
肛門が拒絶する。
だが、構わず、器具はゆっくりと奥へ。
直腸の内側を押し広げる感覚。
異物が、熱をもった粘膜をこじ開けていく。
慣れない。
いや、初めてだ。
その“場所”に異物が入り込む感覚。
鈍い、吐き気を誘うような異常な不快感。
健介は歯を食いしばり、拘束具に身体をぶつけるように暴れた。
が、微動だにできなかった。
装置の固定は完璧だった。
そして――異物は、ついに奥の奥まで達した。
健介の背筋が、ぶるりと震えた。
これから、何かが、始まる。
[newpage]
……何かが、始まる。
肛門奥に差し込まれた金属の感触。
それがただの異物ではないことを、健介の本能が訴えていた。
「なぁ……何すんだよ……それだけでも、教えてくれよ……っ」
声は掠れていた。
だが、それでも健介は震える声を振り絞った。
刑務官は、しばし無言だった。
まるで“答える価値もない”という顔で彼を見下ろしていた。
だが、ふいに口元を歪めて、低く言った。
「……いいだろう。教えてやるよ」
健介は、小さく頷く。
その顔には、安堵と恐怖の両方があった。
「まず……お前は、ここから一生動くことはない」
「……え?」
あまりにも淡々とした声。
「ま、待て……飯とか、うんことか、そういうのは……どうすれば……」
「肛門につけたパイプがお前に栄養補助を行う。そして、内部は空道構造になってるから、排泄もそのまま可能だ」
「は……? え……?」
理解が追いつかない。
いや、理解したくなかった。
「そして……お前の配置転換の目的は、言うまでもない。リサイクルだ。新鮮な精子を、もう一度、大量に出せるようにすることだ」
「そんなの……どうやって……」
「それは、こうする」
その言葉と同時に、肛門奥へと通された金属装置にスイッチが入った。
バチバチッ……!!
「く……ああああああああああっっ!!!」
雷鳴のような刺激。
それは脊髄を駆け上がり、脳天を貫いた。
全身が痙攣する。
そして――股間から、熱いものが漏れた。
ぬるり、と。
射精だった。
健介はその感覚に、目を見開く。
だが、刑務官は眉一つ動かさずに言った。
「おっと、私としたことが……これを忘れていた」
そう言って、もう一人の刑務官が、健介の股間に取り付ける。
透明なチューブと、その先にあるポンプ。
尿道口に差し込まれた細い管が、ズズッと奥へ。
ちゅぴ、と音を立てて装着が完了する。
「射精一回分、無駄にしてしまったな」
その間も、電流は止まらない。
「アアアアアアアアアアアア!!!!!!」
健介の喉が張り裂けるほどの声を上げる。
口の端からは涎が溢れ、目は涙で潤む。
刑務官がひとつ頷いた。
「……一旦、止めようか」
ピッ。
電流が止まる。
健介の身体から力が抜け、拘束具に体重が預けられる。
「な、なぁ……これって……どういう……」
「前立腺に、電撃を流して射精を促している」
「え……?」
「性器を擦るだけじゃ、もう劣化していく一方だ。違ったアプローチが必要だろう?」
「ちょ、ちょっと待て、どういう――」
「黙れ!」
ビシィッと音が鳴った。手の甲で尻をはたかれる。
反射的に腰が跳ねるが、拘束が緩むことはない。
「……」
健介は、黙った。
いや、黙るしかなかった。
「これから……睡眠時間を除いて永遠に、この電流が流れ続ける」
「え……?」
「最初は辛いかもしれないが、安心しろ。慣れる。そして、気持ち良くもなる」
「……永遠? これから、ずっと……? おい! 外せよ!! これ!!」
声を張り上げた。
喉を裂くように。
だが。
刑務官は、スイッチを見下ろしながら、静かに言った。
「……では、これからしっかりと国家に貢献するように」
ピッ。
バチバチバチッ……!!!
「ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアァァァ!!!!!!!」
ピッ。
バチバチバチッ……!!!
「ぐ、ぐぎいいいいいい!!!!!!!」
脳の奥で火花が散る。
前立腺から腰へ、背骨へ、視神経の奥へ、灼けつくような電撃が、波のように繰り返し繰り返し襲ってくる。
吐き気とも違う、痛みとも違う。
だが確かに、身体のどこかが壊れていく。
いや、作り替えられていく。
どれだけの時間が経ったのか。
それは分からなかった。
天井もなければ、窓もない。
時計もなければ、声もない。
ただ、絶え間ない電流。
止まらない射精。
止められない痙攣。
動くことはできない。
手足は拘束具に封じられ、冷たい金属に圧しつけられたまま。
苦しい。
息も、絶え絶え。
目の焦点は合わない。
喉は乾いていて、口は開けっ放し。
涎が垂れ、顎を伝って床に滴る。
だが、それさえも、もう気にならなかった。
ふと、横を見た。
同じように四つん這いにされている囚人たち。
その顔。
その顔は――白目を剥いていた。
正気ではなかった。
焦点を失い、涎を垂らし、時折ピクンと痙攣する表情筋。
「んっっんぉ……っ、うぅぅ、んあっ……っっ……」
「ぉ゛ぉっっ……お゛お゛お゛……!!」
「ッッっああっああああッッ!!! くぁっ……はぁぁ……っ」
周囲から絶え間なく漏れ続ける喘ぎ声。
それは単なる喘ぎではなかった。
快楽というよりも、“反射”に近かった。
人間としての意思を挟む余地のない、身体が勝手に発する悲鳴。
それが、連続していた。
永遠のように。
(……どうしたら……どうしたらいいんだ……どうしたら、ここから……)
健介の思考が、ぼろぼろと崩れていく。
逃げ道を探すように、心が視線を宙にさまよわせる。
だが、どこにもない。
どこにも、何もなかった。
その瞬間だった。
ビリッ、と。
明らかにさっきまでとは違う感触。
痛みとは違う。
不意に、背筋を駆け上がるような快感。
「んぉっ……」
思わず、声が漏れた。
そして――気づく。
考えることに意味はない。
抵抗することに意味はない。
ここは、そういう場所なのだ。
ただ、快楽に飲まれること。
ただ、精液を出すこと。
それだけが、ここに存在する意味なのだ。
それこそが、“国家に貢献する”ということ。
尿道の奥で、じゅる、という粘着質な音。
チューブを通って、精液が排出されていく感触。
自分の一部が、身体の外へ、国へと供給されている現実。
「……あ……あっ、ん……くふっ……あ、あ……んぅぅ……」
健介の口から、自然と声が漏れる。
下品で、無様で、だが、そこにはどこかしら甘やかさが滲んでいた。
脳がゆるむ。
思考がほどけていく。
代わりに流れ込んでくるのは、“快感”の記憶。
もう一度、あの感触が欲しいという欲望。
次も、その次も、ずっと、ずっと――。
健介はゆっくりと、しかし確実に――その正気を手放した。
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