【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ

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3章 皇宮 編

ざわめく心

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 少年と歩き出した私の後を、マリーとロラン卿が追ってくる。

 道すがら、ルネという名の少年は、母親と二人で暮らしていると教えてくれた。

 案内された家に着くと、がらんとした部屋の中でベッドに横になっていた母が、私たちに気づいて慌てて半身を起こした。



「お母さん、たくさん食べるものを貰ったよ。皇太子殿下からだって!」



 意識が混濁しているのか、うつろな目をした母親は、私たちに向かって深々と頭を下げた。

 母親の寝間着から出ている部分の皮膚は、青黒くなっている。首元にも青黒い斑点が見えていて、痛々しい。典型的なニルガ病の症状だ。

 だが、まだ顔色は紙のように白いだけで、そこまで斑点は達していない。これなら回復の望みは大いにある。



「公女様! 買ってまいりました!」



 ネスから薬草を受け取った私は、ルネに頼んだ。



「お母さんに効くお薬を煎じたいから、これを刻むナイフと板、小さくていいから鍋を持ってきてくれない?」



 ルネがそろえてくれた道具で私が薬草を刻んでいると、ルネが竈に火を起こした。

 刻んだ薬草から一掴みを取ると、少量の水と共に鍋に入れ、沸騰するのを待った。まもなく独特の匂いが立ち込めてくる。

 そうしてできた煎じ液を器に注いで、ルネに手渡した。



「これをお母さんに飲ませてあげてね。あと、ここに残っている薬草は、明日からの分。明日から毎日、私が今したのと同じようにこの薬草を煎じて、飲ませてあげてね。たぷん、三日くらいで熱が下がって、十日もすれば体の斑点も消えていくはずだから」

「本当?」

「ええ。大丈夫よ」



 ルネが母親の口元に器を持っていくと、母親は薬をゆっくりと飲みほした。



   ◆ ◆ ◆



「公女が? 何を企んでいる?」



 ジェイデンから、あの日の街でのアデリナの行動について報告を受けたセレスは、苦々しげに眉をしかめて、拳を握った。



「あれは予想外でしたね。……でも、我々にとっては有難いことです。殿下の評判が上がれば、いろいろと進めやすくなることがありますしね。正直、平民街に流されていた噂は、火消ししなければこの先の障害となりえることでしたからね」



 セレスは忌々しげに、ふんっ、と鼻を鳴らした。



「公女は大人しく部屋にでもこもっていればいいものを。公爵邸をほとんど出たことがなかったんじゃなかったか?」

「ええ。調べたところでは、そう聞いています。ただ……数年前の事故以来、様子が目立って変わった、と話した使用人もいたそうです。邸を滅多に出ないのは変わりませんが、大人しくて控えめで、むしろ気弱な性格のはずだったのに、はっきりと物を言うようになり、使用人の諍いを仲裁したこともあったとか。バローヌ騎士団の訓練にも参加していたそうですよ」

「騎士団の訓練に? まさか剣を握るのか?」



 セレスは驚愕を隠せなかった。

 剣術をたしなむ令嬢は珍しいが、いないわけではない。だが、たいていは剣術とは名ばかりの、実戦にはとても耐えられないもの。しかしそれが、騎士団での訓練となれば、話は別だ。



(偶然なのか……どうしてあいつと重なるんだ?)



「ええ。これについては、私も裏を取りました。バローヌ騎士団の団長、クラウス卿は、私の古くからの友人ですので。とはいえ、公爵家では箝口令が敷かれていたらしく、なかなか口を割ってはくれませんでした。バローヌ公爵が知れば反対するだろうということで、公女が口止めしていたらしいです。なので、私の仕える殿下が、公女のことを将来を共にする婚約者として理解するために知りたがっているから、と言い訳して、それならと、ようやく話してもらえたくらいです」

「公爵に逆らって、ということか。剣を持つに至った理由は?」

「それについては、クラウス卿も知らないそうです。ただ、これも事故の直後からの話らしいです。それ以前は剣に興味があるような素振りなど微塵も見せず、むしろ剣を振るう騎士を怖がっていたように見えたそうです。それが突然、訓練所にやってきて、公女自ら剣を習いたいと言ったとか。クラウス卿によると、公女の剣の腕は、なかなかなものだそうですよ」



(おかしな女だ……)



 セレスは公女に感じた違和感に、胸の内がざわりと波立つのを感じた。
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