家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕

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1話 お父さん、転生したら無職だったよ。

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いつもと変わらない騒がしい朝。
コーヒーの香りと、子どもたちの騒ぐ声で一日が始まる。

焼きたてのトーストに目玉焼きを乗せて頬張る。
うまい、朝食はこれに限る。

テレビからは天気予報士の明るい声。
「本日は全国的に晴れ。ですが、ところにより雷雨の可能性も──」

「ほら、朝ごはん食べなさーい」

妻、理沙りさの掛け声で、子どもたちがキッチンに座りはじめる。

「パパ、箸とってー」

「ほら、早く食べな」

娘のあおい、小学五年生だ。
この年頃でも、俺に話しかけてくれる。

俺の子ながら、とてもとても可愛い。
反抗期は一生来ないでくれ、頼む。

「お父さん、食べさせてー」

「もうすぐ小学生だろー、頑張って自分で食べなー」

駄々をこねているのは、息子のみなと
自分で出来るのに、やろうとしない。
手間のかかる年頃だ。


歯を磨いて、スーツに着替える。
今日のプレゼンは社運を賭けた一大プロジェクト。
上手くいけば、出世コース間違いなし。

家族の生活も安泰だ。
ネクタイを締める手にも自然と力が入る。

トイレでニュースをチェック、部長と話題になりそうなのは…。
すると、理沙の金切り声が飛んできた。

やばい、早く出ないと。



陽介ようすけのぞみのオムツ変えてあげて!湊!遊ばないで着替えて!」

急いで、新しいオムツとおしり拭きを取り出す。
湊は、走り回ってふざけている。

「ほら!ちゃんとして!」

まずいぞ、理沙の怒りが頂点に達しそうだ。

「いい加減に──」



パチッ



何が弾けた。
視界が真っ白になる。

鼓膜を破りそうな轟音が地面を大きく揺らした。
あまりの衝撃に立っていられない。

みんなの悲鳴が響き渡る。



「今の雷、やばかったな」

「すぐそこに落ちたんじゃない?」

「パパ、怖い」

「まぁ大丈夫さ。ほら、二人とも、準備して出発するぞ」

手際良く希のオムツ交換を済ませ、玄関へ。
最後に身だしなみチェック…よし、完璧だな。

子どもたちも準備を済ませ、やってきた。

「じゃあ、行ってくるぞー」

キッチンの方に声をかける。
理沙は毎朝、玄関まで見送りに来てくれるのだ。

家族全員でハグしてから、出発するのがうちの習慣。


大切で幸せな瞬間だ。


「みんな、いってらっしゃい!」

「行ってくる」
「行ってきまーす」

ドアノブを掴み、扉を押す。
その先は、今日もいつもの景色──


……そのはずだった。


◇   ◇   ◇


扉を開けた瞬間、あまりの眩しさに視界が奪われる。
頬を撫でる風はいつもより軽く、草木の匂いが濃い。

足元はアスファルト──じゃなくて、石畳?
顔を上げると、石造りの家々が立つ街並み。
少し遠くには、デカい西洋風の城が見える。

まるでゲームの世界に放り込まれたようだった。


「なにこれ」

「お父さん、ここ、どこ?」

振り返ると、理沙。
そして、家のいつものリビング。

「おい、理沙、なんか変だ」

「なんなのこれ」

「いや、きっと夢だ。理沙、ほっぺみてくれ」

理沙は小さく頷くと、腕を振りかぶった。


バッチンッ!


頬を貫く衝撃。

「いっっったあぁぁっ!」

いや、“つねって”って言いましたよね?
日頃の不満も込めました?

「夢じゃ……ないわね」

理沙の表情は引きつっている。
大人たちの不安をよそに子どもたちは楽しそうに走り回っていた。


一体、何が起きたんだ?
家の外観もリビングも変わらない。

まさか家ごと別の場所に来た、のか?

「パパー、見て!この花!」

葵が手にしているのは、奇妙な形をした花。
透き通る青い花弁がドクドクと脈打っている。

「わけわからん物とってくるなよ」

花を取り上げて、遠くへ放り投げた。
落ちた瞬間に、ぼんと音を立てて消える。

「と、とりあえず家の中戻るぞ」

鍵をかけて、息を整える。
だけど、頭は追いついていない。

「い、いいか?みんな、お、落ち着け」

「パパが落ち着いてよー」

「いいから!みんな、身を守れそうな物とか使えそうな物持ってくるんだ」

家族みんなで家中を探し回る。

ヘルメットに、おもちゃの剣、おなべのふた。
うん、頼りない。


トン、トン。


誰が扉を叩いている。

やばい、誰か来た。

そーっと覗き窓から覗くと、金髪で煌びやかな服装の気高そうな人が立っている。
背筋は真っ直ぐで、纏う空気が違う。

「は、はーい」

恐る恐るドアを開けると、碧緑色の瞳がこちらを射抜く。
圧倒的な威圧感で、息ができない。

後ろには、腰に大剣を据えた屈強そうな男と、ローブを着てデカい杖を持つ女。


……なにもう、この人たち、全然普通じゃない。


「お前がここの住人か?」

低く、よく通る声。
その圧に思わず背筋が伸びる。

「お父さん、だれー?」

「湊は黙ってなさい」

「はい、何か御用ですか?」

「おお、そうか。散歩をしておったら、近くの住人が、『突然、変な家が現れたー』と騒いでいてな」

何が変な家だ。
こちとら、大手ハウスメーカーで建てた長期優良住宅だぞ。
間取りも一生懸命考えたんだ。

「それで、気になって来てみた、というわけだ」

「すみません、あなたは?」

「失礼。私は、ここ、ヴァルティア王国の第七代国王、アルヴェインだ」

「……この国の王様?」

「王だ」

「ほんとに?」

「本当に、王だ」

「ちょっと、失礼」


ゆっくりとドアを閉める。


「おい、理沙!王様が来た!」

「は!?どういうこと!?」

理沙は驚き、慌てて散らかった部屋を片付け始める。

「入っても良いかな」

ドアを半分開け、上半身だけの王。

「ど、どうぞ」

「うむ、悪いな」

「お付きの方も、どうぞお入りください」

その姿からは威厳という威厳が溢れ出ていて、うちの玄関には不釣り合いすぎる。

予想通りだが、土足のまま、家に入ってきた。

「すみません、靴、脱いでください」

「靴を脱ぐのか。そういうしきたりなのだな。失礼」

王は不慣れそうな動きで片足立ちになり、ぐらりと傾いた。
すかさず、屈強な男が支える。

「すまぬ、このような作法は初めてでな」

「いえ、うちも王様が来るのは初めてです」


◇   ◇   ◇


リビングで正座をする王。
付き人たちは後ろに立ったまま微動だにしない。

「あ、あの、足は伸ばしてください」

「床に座るということがないからな。お前たちの真似をしてみた」

「俺のことは気にせず、楽にしてください」

「それで、お前たちは何者だ?」

「何って言われても…」


「俺は──」

俺は自分たちのことを話した。
住んでいた町、生まれた国のこと。
人々の暮らし。

それから、今日のこと。

声は震えてぎこちなかったかもしれない。
だけど、王は真剣に耳を傾けてくれた。
なんだか俺たちに興味を持ってくれたようだ。

活きたか?俺の営業トーク。

「ドアを開けたら、この世界だったと……ふーむ、原因は分からんな」

「俺たちも何が何だか、さっぱりで」


ぐぅ~~。


誰かの腹が鳴る音。

「すまんすまん、腹が空いてきたようだ」

王も人間なんですね。
さすがに、一国の王をこのまま帰すわけにはいかない、よな?

「おい、理沙、何かあったっけ?」

「何って、昨日のカレー?だけど、火がないよ」

「火が必要か。リシテア、火を出してくれ」

女は俺にリビングの窓を開けさせると、杖を構えて何かを唱えた。

目の前をかすめる火球。
外の木にぶつかると、勢いよく燃え上がった。

……えぇ、火というか火事だよ、これ。
どうやって鍋温めるの?

リシテアという魔法使いは誇らしげな表情をしている。
なんでそんな顔ができんの?


無常にも俺の手にはカレーの入った鍋。
取手がやけに冷たい。

リビングから家族の声援が聞こえる。
行くしかないか…。

意を決して、炎の中へ飛び込む。


熱っっっつうぅぅい!


カレーの前に俺が上手に焼けそうだ。
くそ、どうしてこんな目に。

地獄の加熱作業を終えてリビングに戻る。
スーツはかなり焦げた。

リシテアが水を飛ばして消火していた。
辺り一体が焦げくさい。


「お味は、いかがでしょうか?」

「カレー、かなり美味だな。この白い粒も噛むほど美味い」

「これは、お米です。俺たちの国の主食ですね」

「飯が美味いのは、羨ましいな」

王は満足そうにスプーンを置いた。

「王よ、そろそろお時間です」

屈強な男が後ろから声をかける。

「うむ。邪魔したな、陽介よ。今度、城にくると良い」

「ありがとうございます」

「これは今日のお礼だ。受け取ってくれ」

王は懐から金貨を取り出し、テーブルに置いた。
全部で五枚、この国の通貨か?

「王よ、こんなに渡してはいけません」

屈強な男が慌てて止める。

「良いのだ。歓迎するぞ、異界の者たちよ」

王は立ち上がり、ローブを翻す。
その姿勢には威厳だけでなく、人としての温かさもあった。


玄関に座り、靴を履く王。

立ち上がり、去り際に言い残した。

「そうだ。職業鑑定を受けると良い。バルクス、この者たちの案内を頼む」

「私ですか!?わかりました」

王はリシテアと一緒に帰っていった。
その姿をみんなで見送る。

こちらに手を振っている二人は、なんだか楽しそうで、微笑ましい。

──ふぅ、なんとか終わった。
社長と対面したとき並みの緊張感だったが、無事に終わって一安心。


短く息を吐いて視線を戻すと、屈強な男が仁王立ちしている。
腕を組み、青色の瞳でこちらを睨んでいる。
だいぶ怖い。
王よりも凄みがすごい。

「バルクスだ。王の親衛隊長をやっている。よろしく頼む」

ガッチリとした手が差し出される。
握手を交わすと、岩みたいな手のひらで骨が砕けそうだ。

「バルクスさん、その“職業鑑定”って何ですか?」

「五歳になると、皆が受ける儀式だ。その結果で将来の仕事が変わってくる」

五歳までって…湊の人生まで、もう決まっちゃうの?
まだ、ランドセルも決めてないんだよ?

「いやぁ、すごいっすね…」

その歳でレール敷かれちゃうのか。
もし俺が「お前は向いてない」なんて言われたら、たぶん立ち直れない。
今だって、怪しい。

湊は大丈夫か?


でも、それを当然と受け入れてるこの世界の人たちは、きっと強いんだろう。


「では、ギルドへ向かうぞ。ついてこい」


◇   ◇   ◇


太陽を浴びた石造りの街並みは、まさにファンタジーの世界そのもの。
だけど、石畳を踏む感情はしっかり硬くて、夢じゃないと痛感させられる。

横で子どもたちは、はしゃいでいるが……ここは、テーマパークじゃないのよ。

すれ違う人々は、異世界アニメでよく見るような服装をしていて、全員がこちらを不審そうな目で見てくる。

「あの、俺らって、そんなに珍しいですか?みんな見てくるんですけど」

「あぁ、そうだな。黒い髪で黒い目のやつは、ここでは見ないな」

「そっすか」

黒い髪に黒い瞳、死神とか言われちゃうんじゃないの?これ。


「ここが、王都アルディアの中心街だ」

バルクスの言葉どおり、街は活気に満ちていた。
看板には、見たことない文字が書かれている。
だけど、不思議なことに読める。
自然と頭に入ってくるような感覚だった。
ご都合展開キター!


「お母さん、あのパン食べたーい」

湊がただをこね始めた。
君、さっきカレー食べてたじゃん。

「ぼうず、腹減ったのか?ちょっと待ってろ」

そう言うとバルクスは、子どもたちにパンを買ってきてくれた。
焼きたてで美味そうだ。
今度、買いに来よう。



「着いたぞ。ここがギルドだ」

立ち止まった先にあるのは、三階建てくらいの大きな建物。
外壁には剣と盾の紋章が描いてあり、まさにギルドという雰囲気を放っている。

大きな扉を開けると、温かな空気と賑やかな声が溢れ出す。
中は広いホールになっていて、掲示板らしき場所には無数の羊皮紙。
受付の向こうでは、何人もの職員が忙しそうに仕事をしている。

奥の方に目をやると、武装した冒険者っぽい人たちが談笑しながら、ジョッキを鳴らしている。

いいなぁ、早くビール飲みてぇ。
昼間からアルコールって最高だなぁ。

「本当にゲームの世界みたいだな」

「ねぇ、パパ!あの人、槍持ってるよ!カッコいい!」

葵が目を輝かせる。

「なんか、本当に別世界…」

理沙も呆然としながら呟いた。
希は変わらず、すやすや寝ている。

「お父さん、オレもあの剣欲しい!」

湊も楽しそうだ。

「また今度な」

バルクスが受付に向かい、一言だけ伝える。

「王の命令だ」

その一言が、ホールの喧騒を一瞬だけ止めた。
受付の女性は慌てて姿勢を正す。

「ご用件は何でしょうか?」

「この者たちの職業鑑定を頼む」

受付の女性は一瞬目を見開いた後、丁寧に頭を下げた。

「かしこまりました。これから準備いたします」


◇   ◇   ◇


受付の女性が奥の扉を開けて、俺たちを中へと案内した。
ギルドの奥は一転して静かだった。

さっきまでの喧騒が嘘みたいだ。
そして、ちょっと埃っぽい。

廊下の壁には鉄製のランプが等間隔で並ぶ。
優しく光っているが、これは魔法…か?

「こちらが鑑定室になります」

「よし、お前ら、入れ」

室内は円形で、床には淡く光る紋章。
部屋の中心には透明な水晶が浮かび、内部で脈打つように明滅している。

「うわぁ…キレイ…!」

葵が声を上げる。
湊も興味津々な様子で、手を伸ばしたが、理沙が腕を掴んだ。

「触っちゃダメ!壊れたら大変」

「そう簡単には壊れんよ」

そう笑いながら、奥から一人の老人が現れた。

「おぉ、バルクス、久しいな」

「久しぶりだな、じいさん。こいつらの鑑定を頼む」

「よかろう、鑑定するのは四人、じゃな」

老人が何かを囁くと、光の粒が宙を舞う。

「では、順番にこの水晶に手をかざすのじゃ。魂の波動を読み取って、天職を示してくれるぞい」

「魂の波動ねぇ…。なんか胡散臭いな」

「おい!そんなことを言うと──」

バルクスが何かを言いかけたが、受付の女が制した。

「誰からやろうかの?」

「はい!あたし、やりたい!」

葵が元気よく手を上げた。

「よかろう。では、魔法陣の真ん中に立つのじゃ。そして、水晶に手をかざしてみよ」

葵が恐る恐る魔法陣の中心に立ち、手をかざす。
すると、足元の紋章が光を放ち、水晶が深い緑色に輝いた。

「──これは、“槍使い”じゃな」

「やったー!カッコいー!」

葵は飛び跳ね、回りながら喜んでいる。

「新体操やってて良かったね」

理沙はなぜか安堵している。

え、そういうこと?
てか、槍使ってどうするの?
戦うの?
お父さん、許さないよ?

「次、オレやりたい!」

「よかろう。では、水晶に手をかざしてみよ」

湊が手をかざすと、水晶は水色に変わり、中心でもやが渦巻いている。

「──ぼうやは“戦士”じゃ。バルクスも最初は戦士じゃったな」

「ぼうず、やったな!」

湊は満面の笑みでバルクスとハイタッチしている。
あれ?いつの間にそんなに仲良くなってるの?
俺よりお父さんじゃん。

「次、私やっていい?」

「よいぞ。やってみよ」

理沙が手をかざすと、地面が震え出す。

水晶が黄色に変わると、これまでにないくらい強く輝いて、部屋の空気が渦巻いてうねった。

「おぉ、これは──」

老人が唸った。
そんなにすごい職業なのだろうか。

「おぬしは“雷鳴の魔導師”じゃ。いきなり上位職とは…」

「あんた、すげぇな。雷鳴の魔導師自体が、かなり珍しいぞ」

理沙は照れながら戻ってくる。

「雷…ね。ぴったりだな」

「どういう意味?」

「いや、なんでもない」


「…じゃあ、俺だな」

いよいよ、俺の番だ。
これで、俺の未来が決まる。
俺も力が欲しい。


家族を守れる力──それが一番、必要だ。


魔法陣の中心に立つ。
心臓の鼓動がやけに伝わる。

深呼吸して、ゆっくりと水晶に手を伸ばした。
…頼む。

部屋の空気が張り詰める。
一瞬、全員の呼吸が止まったような静寂。


………待っても何も起きない。


「あれ?」

水晶はただのガラス玉みたいに沈黙している。

「すいません、壊れたみたいなんですけど」

「そんなわけなかろう。もう一度やってみなさい」

もう一度、ゆっくり手をかざす。


……やはり何も起きない。


バルクスたちが目配せを交わし、ヒソヒソと話し始めた。

「これは…」「そうか…」

「あれ?俺、なんかやっちゃいました?」

老人が顔を上げ、重々しく口を開いた。

「これは、“無職”じゃ」

「無職…ってどういうこと?」

「職業は何もないということじゃ」

理沙が何か言いかけて口をつぐんだ。
子どもたちも下を向いている。

「いや、あれですよね?実は水晶には出ないすごい職業になってるとか?無職が実はすごい能力でしたーとかあるんですよね?」

「ない」

短く言い捨てる。

「そんな、だって──」

「そのようなことは断じて、ない」

……体の力が全て抜けた。
膝から崩れ落ちる。

乾いた笑いしか出ない。

嘘だろ?
俺だって昨日まで家族のために必死に働いてきたんだよ?
それがいきなり無職なんて…。

「ニートじゃないか」

「おお、よく知っておるな。この国では無職の事を“ニートゥー”と呼んでおるよ」

ニートっぽく呼んでんじゃねぇ。
ちっちゃい“ウ”つけたってかわいくねぇよ。


はぁ、終わった……。


◇   ◇   ◇


受付の天井から見える真っ赤な夕焼け。
悔しいほどきれいで、心が揺さぶられている自分が情けない。

「ねぇママ。パパ、なんか、かわいそうだね」

「……そっとしておこう。きっと、パパもショックなんだよ」

「陽介よ、大丈夫だ。無職でも、働くことはできる」

バルクスまで気遣ってくれている。
肩に置かれた手はゴツいけど、優しかった。

みんなの気遣いと配慮が空っぽになった心に刺さった。
あぁ、涙出そ。


「皆さんここで待っててくださいね!職業に応じて、お渡しする物があります」

「俺にはないんだろ?」

「ニートゥーにもありますよ」

「ニートゥーって呼ぶのやめて」


ホールで待っている間、子どもたちはバルクスと遊んでいる。
もう何も上手くいく気がしない。

理沙も混ざって、本物の家族みたいだ。

理沙さん。
病める時も健やかなる時も支え合うって誓いましたよね?


今、支えてくれませんか?
結構、病みそうです。


溜め息しか出なかった。
どうせなら、口から火球の一つでも出ればいいのに。


「みなさん、お待たせしました!」

受付の元気な声が腹立たしい。
彼女の背後には、色とりどりの装備が整然と並んでいる。

「これからお渡ししますね、最初は、槍使いの葵さん!」

机に置かれたのは、深緑色の装飾が施された細い槍。
持ち手が黒い鉱石でかっこいい。

さらに、フードのある淡いベージュのローブが添えられていた。

槍を構える葵の瞳は、これまでなく輝いていた。


「次は戦士の湊さん!」

淡い水色の刀身が美しい剣と黒い金属製の盾。
湊、二つも持てる?
一個貰おうか?

受け取った湊はバルクスと闘っている。
やっぱり、バルクスの方が良いのか…。
わかるよ、このおっさん、強そうだしな。


「雷鳴の魔導師さんは、すごいですよー?」

受付の女性が両手で慎重に抱える杖。
地面につくほどの高さで、木の幹のようにねじれた形。
先端には黒紫色の球体が嵌め込まれ、たまに小さな稲妻が走っている。

まるで杖そのものが生きているみたいだ。

「この杖は、カサンドーラ砂漠の唯一の大木──“雷鳴樹”から作った特注品です」

「あとは、このローブをどうぞ」

山吹色のローブを羽織り、杖を構える理沙は、もう魔法使いにしか見えない。

あーあ、これから喧嘩したら、リアル雷撃かぁ。


「最後にニー…、無職さん」

「無職も変わらないからな、陽介で頼む」

「では、陽介さん、こちらをどうぞ」


差し出されたのは、一枚の紙きれ。
風が吹けば簡単に飛んでしまいそう。


「…職業開発学校?」

「はい!ニートゥーの方でも、後天的に発現する場合もありますので!」

「ったく、それを早く言ってくれよ」

「えぇ、まぁ…一万人に一人くらいですが…」

「いや、可能性がゼロじゃないなら諦めねぇよ」

俺を横目にみんなは武器を披露して笑い合っている。


絶対に力を手に入れてやる。


この笑顔を守れるのは、守りたいと思っているのは──他の誰でもない、俺だ。


──家族は俺が守る。
無職でも、ちっぽけでも、俺なりに出来ることがあるはずだ。

絶対諦めねぇからな。

待ってろ、クソ異世界。
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