柳生の影 ―十兵衛旅日記―

いわん

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其之十八:十兵衛からの手紙

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秋。
又十郎が左門の墓を訪れた時、墓の前に一輪の花が添えられていた。美しき百合の花。それは生前の左門によく似た、儚げな、しかし美しき一輪であった。
あの日以来、柳生の庄へ十兵衛は足を向けなくなっていた。江戸からの文も溜まっているばかり。その旨を父上に連絡はしているのだが、父上からは連絡もない。
この百合は兄上が左門に供えていったのか。又十郎は百合の向こうに十兵衛の姿を見ていた。兄上らしくもない。いや、兄上らしいことかもしれない。
又十郎の耳に、遠くから、お菊親子と十兵衛の娘たちの笑い声が届いた。
その風景を微笑みを浮かばせ見やる又十郎に、お市が寄ってきた。
「宗冬様。このような文が届きました」
見ると、その文の差し出し元は九州小倉。差出人は十兵衛であった。

「師とともに小倉から熊本へと移る故、今しばらくは帰らぬ。申し訳なく候。出来うれば、空き畑で蕎麦を育てておいてはくれまいか。不義理の代償として、帰郷の際には美味い蕎麦切りをふるまいたく候.。」

手紙には、そう記されてあった。

<了>
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