調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT

文字の大きさ
13 / 126
幼少編

第12話 寝耳に水

しおりを挟む
 クソジジイの鍛錬を受け始めてから早一カ月が経とうとしていた。

 最初は受け入れがたかったこの現状もこれだけ時間が経ってしまうともう受け入れるしかなく、一度目の人生が懐かしくも思えてしまう。人間の順応能力とは凄いものだと身をもって実感した────と言っても一度目と比べて俺の人生はすでに大きく変わりつつあった。

「おら起きろクソガキ!!」

「もう起きてるわクソジジイ!!」

 もう就寝中にクソジジイに不意を突かれて殴り込まれるということも完全に無くなり、逆に反撃へと転じようとするのが当たり前になってきた。今日もまた早朝から罵声を投げつけあい、俺は朝の鍛錬に勤しむ。

 この間のジルフレアとの手合わせで自分がそれなりに成長していることは実感できた。負けはしたが、俺は彼の鎧に微かであるが傷を付けられた。たかが八歳の子供が「最優の騎士にではあるが一撃与えた」この事実がどれだけ凄いことか。一度目の自分────魔力量や魔法の修練度が習熟していたとしても絶対にできなかったであろうことをこの年でやってしまった。

 正直、攻撃が当たった時は「嘘だろ」と自分のことながら疑ってしまった。けれど本当にやってしまったらしい。一度目と今回での違いが何かを考えたときに真っ先に出てくるのは基礎力だろう。一度目は全くと言っていいほど努力をして来ず、基礎である〈血流操作〉の鍛錬もサボっていた。しかし今回はたった一カ月とは言えその基礎鍛錬を続けただけでこの伸び具合だ。

 ────そりゃあこんだけ素振りさせられて微塵も成長してなかったらキレるけど……。

 どうやら一度目の俺は相当バカな時間の無駄遣いをしていたのだと実感した。言ってしまえば派生なんて二の次、基礎である〈血流操作〉が卓越していれば〈比類なき七剣〉とも対等にやり合える可能性が示された。

 ────まさかここまでだったとは……というか【紅血魔法】が規格外すぎるのか。

 やはり血の齎す力というのはすごい。素振りをして汗だくになりながらそう実感する半面で、俺はこれ以上強くなる必要はないのではと思い始めていた。

 理由は単純明快である。平凡なスローライフを送るのにこれ以上の力は必要なのだろうか? 自己防衛としての実力はまだ十全とは言えないが、あと数年は基礎的な鍛錬をしていれば問題ないと思えてきたし、鍛錬ばかりに集中するよりももっとするべきことがあるのではないか?

 例えば、家督を妹であるアリスに継がせるための根回しだとか……と言うかこれに尽きる。まだ表立って家督を継がないという意思は示していないし、今騒ぎ立てたところでそれが上手くいくわけもない。ならば家族や妹であるアリスへの間接的な根回しに注力するべきだ。これが成功すれば俺の人生はほぼ安泰と言ってもいい。

 その為には無能を装い、実力を隠す必要があるのだが……ここ最近は周りの反応を考えず鍛錬に集中すぎたし、先日の駐屯所での一件はやり過ぎた。噂では俺がジルフレアと良い勝負をしたという話は貴族内や市井にまで広がっているらしく……つまり、目立ちすぎた。

 あの一件で今まで低迷していた家族や使用人たちの評価が完全に上がり始めているし、なんならジルフレア本人が俺のことを触れ回っているとかいないとか……。

「本当に勘弁してくれ……」

 そんなこともあって現在の俺はだいぶん気分が優れなかった。自分であれだけ「調子に乗らない」と誓っておいてこの体たらく。このままでは父であるジークは俺を当主に据えることを疑わないであろう。結構まじめにまずい。

 ────一度目の人生では死ぬ間際まで認めなかったというのに……今回は少し好感度の上り幅が異常だ……。

 まだ直接「継げ」と言われたわけではないが、最近は顔を合わせるとよく「期待しているぞ」的なことを言われることが増えたような気がする。偶に「仕事についてくるか?」とか「今度お前に会わせたい人が……」とか一度目ではなかったことが目白押しで押し寄せてくるのだ。勿論、家督など継ぐ気はないし他の貴族との付き合いも面倒なので「鍛錬がありますので」と今のところ躱せてはいるがそれもいつまで使えるだろうか。

 ────そういう意味じゃあ相当助かってはいるんだけど……。

 そうだとしても一時的な逃げの為に、これ以上は表立って強くなることは妙案とは言えなくなってきた。だからと言ってあのクソジジイの鍛錬をたった一カ月で投げ出せるはずもないのが実情だ。

 ────なんなら最初の頃より熱が入ってるからな。

 自分から鍛錬を嘆願しているのは勿論のこと、何故かこのジジイ、ジルフレアとの一件からより一層指導に熱が入っている。しまいには「お前をこの国最強の男にしてやる」と本気で言い始めていた。

「どうすれば……」

「鍛錬中によそ見とはずいぶん余裕だな!!」

「あでッ!?なにすんだこのクソジジイ!!」

「お前が鍛錬以外の無駄な考え事をしているからだ!普段の集中しているお前なら簡単に避けられたぞ!!」

「うぐっ……」

 ぶっ叩かれた後頭部を抑えて抗議の視線を遣るが全くその通りな爺さんの正論にぐうの音も出ない。流石に今のは思考に意識を割き過ぎていた。反省である。

 自分が良かれと思って始めたこととは言え、それが悉く裏目に出て自分の首をどんどんと締め上げているような感覚にはやはり焦ってしまう。外堀をどんどんと埋められているような……と言うか自分で埋めてしまっているような、早くこの状況を何とかしなければ後戻りできない感覚は一度目でも覚えがあった。

「ううむ……」

「ほれい!またよそ見をしやがって!!」

「同じ轍は踏むかってんだ!!」

 また思考の波に沈みそうになり、そこへ透かさずジジイの拳が飛んでくるが今度は軽々と躱して見せる。そんないつも通りのやり取りを早朝からしつつも、やはり俺は浮上する問題に頭を悩ませる。

 しかし、そんな悩みの種が全て吹き飛ばされるぐらいの劇物が、更なる苦難が不意に投下された。

 それは本日の夕飯時。無事に今日の予定を全てこなして家族(爺さんも含む)全員で食卓を囲っている時に父のジークから唐突に言われた。

「そういえば二日後にグレイフロスト家の御令嬢が久しぶりに訪問される。レイ、しっかりと準備をしておけよ」

「……は???」

 本当に唐突すぎる来客の予定に俺は一瞬、何を言われたのか理解するのが遅れてしまう。

「あの、父さ────」

「もう心配はしていないが、くれぐれも失礼の無いようにな」

 父からの数々の誘いを断った結果、家から出ようとしない俺を見て父様は強硬手段に出たらしい。俺が出向かないのであれば、お相手方に来てもらおうということなのだろう。

「……は、はい」

 しかもよりにもよってその相手が一度目の人生でのトラウマの一人と来たものだ。

 ────本格的に鍛錬なんかしている場合ではなくなってきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...