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9.嘘つき
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そして来たる日曜日、空は生憎雲に覆われていた。暗い空に一抹の不安を抱えながら、集合場所の駅前へ向かう。時計台の指す時間は6時55分。まだ鷹野は来ていないらしい。それにしても、期待もはやり、思い切って甚平を着て来たのだが、気合いが入りすぎていただろうか。鷹野はTシャツだったらどうしよう。嗤われてしまうかもしれない。
そんな思考を巡らせていたら分針は5分を示していた。おかしい。誠実な彼はめったに時間に遅れないのに。10分前に送ったLINEにも既読はついていない。グレーの感情が心を塗りつぶす。
待てど暮らせど鷹野は来なかった。半分悲しく半分怒りの感情で一杯になる。その時一件の通知音が鳴り響いた。急いでメッセージを確認する。そこには『ごめん!』と言う文字と共に頭を下げるシロクマのスタンプが表示されていた。
ふざけるな。どれほど僕がこの日を待ちわびていたと思ってるんだ。せめて、来れないなら事前に言ってくれれば良かったじゃないか。ドタキャンなんて、そりゃないよ…。悲しみの感情は憎悪に覆われ、体が熱くなるのを感じる。心は灰色から真っ黒に塗りつぶされた。ああ、なんて惨めなんだろう。そもそも、幸せになれるわけがなかったんだ。不幸体質のくせに、幸福を貪りすぎたのだ。幸せになれるなんて思いあがった僕が間違えだった。既にもう半分落ちた太陽に背を向け僕は帰ろうとする。
その時、
「あれ、美島じゃん…どうしたの」
そこには杏とクラスメイトの集団がいた。
「あっ、いや…なんでも」
「もしかして一人?ね、折角だから俺たちと行かない?」
いいね、とその場の者達が口々に言う。鷹野にドタキャンされたと言う事実を隠蔽したい思いで、僕は誘いに乗った。
河川敷に座り皆が和気藹々と話している。時折僕にも話を振ってくれるが「そうだね」とか、「うん」とか稚拙な返事しか出来ない。…僕は今まで他の人とどうやって接していたのだろう。全く思い出すことができない。
「美島がマスクしてないの久々に見た。そっちの方がいいと思うよ、顔隠れてたら陰気臭いし」
隣の杏が話しかけてくる。
「うん、そうだね…」
「…美島?私の話聞こえてる?」
「ああ、ごめん、ぼーっとしてた。…何て言った?」
「んもう。今日様子おかしいよ…。ねぇ、私達小学生の頃もこうやって花火見たよね」
「そうだったっけ」
「そうだよー、忘れちゃったの?美島、甚平の紐すぐに解けて結び方分かんないって泣くから困ってたんだよ、懐かしいなぁ」
そんなこともあったような気がする。
「でもあんまり遊ばなくなっちゃったよね。…あのね、私正直貴方の事避けてたきたの、本当にごめんなさい」
「いいよ、別に気にしてない」
そんなこと頭に入らなかった。ただ僕は苦しんでいた。
「本当…?ありがとう、許してくれて。今まで後ろめたくてなかなか話しかけることができなかったの」
そんな謝罪、自分の救いの為だ。僕には響かなかった。ピューっと花火が上がり、弾ける。僕達の顔は異なる色に照らされる。
「美島、今日本当は鷹野君と約束してたんじゃない?」
鷹野というワードに僕の注意が注がれる。
「私、鷹野君に振られちゃったらしいの。私達振られたもの同士ね。あの男に、罪な人」
そういうと杏は僕の肩に頭を預けてきた。僕は何も感じなかった。再び花火が上がる。ただ、あぁ、弾けたなぁとしか思わなかった。綺麗だなんて微塵も思えなかった。僕は振られたという指摘をどうにかして否定したい一心だった。
そんな思考を巡らせていたら分針は5分を示していた。おかしい。誠実な彼はめったに時間に遅れないのに。10分前に送ったLINEにも既読はついていない。グレーの感情が心を塗りつぶす。
待てど暮らせど鷹野は来なかった。半分悲しく半分怒りの感情で一杯になる。その時一件の通知音が鳴り響いた。急いでメッセージを確認する。そこには『ごめん!』と言う文字と共に頭を下げるシロクマのスタンプが表示されていた。
ふざけるな。どれほど僕がこの日を待ちわびていたと思ってるんだ。せめて、来れないなら事前に言ってくれれば良かったじゃないか。ドタキャンなんて、そりゃないよ…。悲しみの感情は憎悪に覆われ、体が熱くなるのを感じる。心は灰色から真っ黒に塗りつぶされた。ああ、なんて惨めなんだろう。そもそも、幸せになれるわけがなかったんだ。不幸体質のくせに、幸福を貪りすぎたのだ。幸せになれるなんて思いあがった僕が間違えだった。既にもう半分落ちた太陽に背を向け僕は帰ろうとする。
その時、
「あれ、美島じゃん…どうしたの」
そこには杏とクラスメイトの集団がいた。
「あっ、いや…なんでも」
「もしかして一人?ね、折角だから俺たちと行かない?」
いいね、とその場の者達が口々に言う。鷹野にドタキャンされたと言う事実を隠蔽したい思いで、僕は誘いに乗った。
河川敷に座り皆が和気藹々と話している。時折僕にも話を振ってくれるが「そうだね」とか、「うん」とか稚拙な返事しか出来ない。…僕は今まで他の人とどうやって接していたのだろう。全く思い出すことができない。
「美島がマスクしてないの久々に見た。そっちの方がいいと思うよ、顔隠れてたら陰気臭いし」
隣の杏が話しかけてくる。
「うん、そうだね…」
「…美島?私の話聞こえてる?」
「ああ、ごめん、ぼーっとしてた。…何て言った?」
「んもう。今日様子おかしいよ…。ねぇ、私達小学生の頃もこうやって花火見たよね」
「そうだったっけ」
「そうだよー、忘れちゃったの?美島、甚平の紐すぐに解けて結び方分かんないって泣くから困ってたんだよ、懐かしいなぁ」
そんなこともあったような気がする。
「でもあんまり遊ばなくなっちゃったよね。…あのね、私正直貴方の事避けてたきたの、本当にごめんなさい」
「いいよ、別に気にしてない」
そんなこと頭に入らなかった。ただ僕は苦しんでいた。
「本当…?ありがとう、許してくれて。今まで後ろめたくてなかなか話しかけることができなかったの」
そんな謝罪、自分の救いの為だ。僕には響かなかった。ピューっと花火が上がり、弾ける。僕達の顔は異なる色に照らされる。
「美島、今日本当は鷹野君と約束してたんじゃない?」
鷹野というワードに僕の注意が注がれる。
「私、鷹野君に振られちゃったらしいの。私達振られたもの同士ね。あの男に、罪な人」
そういうと杏は僕の肩に頭を預けてきた。僕は何も感じなかった。再び花火が上がる。ただ、あぁ、弾けたなぁとしか思わなかった。綺麗だなんて微塵も思えなかった。僕は振られたという指摘をどうにかして否定したい一心だった。
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