2人だけのユートピア

文字の大きさ
8 / 14

8.期待

しおりを挟む
    昼休みになり、いつもの如く、屋上前の秘密の場所へ向かう。二人だけの時間、二人だけの場所という秘密めいた響きに、僕は密かに酔いしれていた。
 最近の楽しみは、お互いのお弁当の中身を交換することだ。鷹野の作る卵焼きは、だし風味で美味しい。今まで弁当は親が作っていてくれていたけれど、鷹野に食べてもらいたくて卵焼きだけは自分で作り始めた。僕は甘い卵焼きを作る。どんな出来でも美味しいね、と微笑み、毎日昨日より良くなったところを見つけては褒めてくれるのが嬉しくて堪らない。人が作った物は苦手だったはずだが、いつの間にか克服していた。
「あーあ、今年の夏休みどうしよっかな、何も予定入れてないんだよね。女の子とデートしたーい」
「鷹野はどんな子が好きなのさ、杏だって相当綺麗だと思うんだけどな」
さりげなく気になっていた質問をぶつけてみる。
「分かってないなあ、ああいう女の子はモテるだろ?だからデートとかなんだとか慣れっこな訳。そんなんじゃなくて、俺はなんかもっとこう…純真無垢で」
そういうと鷹野はぐっと顔を寄せてくる。今にも触れてしまいそうな距離にドギマギする。
「お前みたいにすぐ顔真っ赤にするような子がいいなぁ」
「バカっ、からかうなっ!」
目の前の胸を突き飛ばすと、鷹野はケラケラと笑う。もう、ほんとにこっちの気も知れないで…。
「あ、そうだ、今年の夏まつり俺と行かない?何だかんだ美島と遊んだことなかったし」
思いもしなかった提案に僕は目を輝かせる。
「ふふん、その顔なら決まりだね、来週の日曜、7時集合、開けとけよー?」
こくりと僕はうなずいた。夏まつり、夏まつり…煌めいたその言葉が脳内をくるくると舞う。最後に齧ったミニトマトは甘くて、とても美味しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...