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7.ゆらさないで
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時は流れ、蝉がやかましく鳴き、日差しが降り注ぐ季節となった。
「あっちぃー」
下敷きを煽りながら俺の机に腰かけた鷹野が言う。
「ねー、本当。鷹野サマ、風をお送りしまぁす」
そういって、僕の青い扇子を彼に向けて仰ぐ。
「苦しゅうない、美島よぉ」
殿様のような口調で言う鷹野が可笑しくて、クックッと笑いが込み上げてくる。
「にしても美島も変わったよなぁ、前はいっつも仏頂面してたのに」
「…そう?覚えてないよ、気のせいじゃない?」
…違う、僕は鷹野のおかげで変われたんだ。確実に鷹野が僕を変えたんだ。
「ふ、またまた嘘ついちゃって、そこは変わんないのな」
「何だよそれー」
こんな何でもないやり取りが好きだ。軽口を叩き合う、意味のない“単調”な日々も鷹野となら楽しい。
「鷹野君達、ちょっといいかしら」
右の方から声が降ってきて、二人の視線がそちらへ移る。そこにいたのはクラスメイトで副生徒会長の藤咲杏だった。小学校からの幼なじみだが、物心ついたときからは高嶺の花という感じで僕との接点はほとんどない。艶を帯びた長い黒髪をかき上げ、不満そうに立っている。もしかしてずっと前から話す機会を伺っていたのだろうか。僕に対して明らかに“邪魔ですよオーラ”を出している。
「ああごめん。何の用かな?」
鷹野が改まった口調でそう返す。
「鷹野君にお願いがあってさ、ちょっと来てくれない?」
…彼女の様子からするにどうやら委員会の話ではないらしい。鷹野は了解した様子で杏に連れられ、どこかへ行ってしまった。前の女子があの二人お似合いだよね、付き合ってるのかななどとヒソヒソ話し合っている。そんなばかな。もしそうだったら僕に何か相談してるはずだ。鷹野と一番仲がいいのは間違いなく僕だ。
「杏ちゃんね、この前、鷹野君と映画見に行ったらしいよぉ、付き合うのもそろそろなんじゃないかなぁ」
…そんなの初耳だ。…そういえば僕は鷹野とプライベートで遊んだことがなかった。もしかして、もしかすると、鷹野は本当は僕の事なんてちっとも好きじゃないんじゃないか、僕が一緒にいてなんて言ったばかりに、その言葉に縛られて仕方がなく一緒にいてくれているんじゃないか。不安な思いばかりが脳裏をグルグル渦巻いて鼓動が止まらない。
「美島!」
肩を叩かれてふっと我に返った。そこにいたのは鷹野だった。
「ぼーっとしてどうした、大丈夫か笑」
「ああ、鷹野…びっくりした」
「ごめんな、ちょっと話長くなっちゃってさ」
何の話をしていたんだろう、でもそんなことを聞くのは野暮だし、鷹野が誰と仲良くしようが僕が口出しできることではない。
「なあに、なんか不安そうじゃん、どうしたの」
「いや別に…」
目を合わせたら見透かされてしまいそうでふっと視線を逸らす。
「はい、また嘘ついてるー。自分じゃ気づいてないかもだけど美島、嘘つくとき癖出るからバレバレだよー?」
「嘘、教えてよぉ」
「やーだね。…で、どしたの、何であんな顔してたの」
鷹野が真面目そうに俺の顔を覗き込む。大きな瞳が僕を捉えると、自然と「訊かない方がいい」と言う躊躇いが消えていく。
「…鷹野さ、杏のこと好きなの?」
ああ、僕はきっと今酷い顔をしている。何て情けない。
「唐突だなぁ、そんなことないよ」
「でも映画見に行ったって…」
「あー、誘ってくれたし、見たかった映画だから行っただけ、全然そんなんじゃない」
「ふうん」
誤魔化しのテンプレートのようなセリフに僕は不服そうにした。
「なぁ、信じてないでしょ、…あんまり大声で言えないけどさっき杏ちゃん夏祭り誘ってくれてさ、でも夏まつりって好きな子と行ってこそじゃん?だから断ってきた、彼女には悪いけどさ」
そう言うと悪戯っぽく彼は笑うのだった。何故かは分からないが、少し安心してる自分がいた。
「あっちぃー」
下敷きを煽りながら俺の机に腰かけた鷹野が言う。
「ねー、本当。鷹野サマ、風をお送りしまぁす」
そういって、僕の青い扇子を彼に向けて仰ぐ。
「苦しゅうない、美島よぉ」
殿様のような口調で言う鷹野が可笑しくて、クックッと笑いが込み上げてくる。
「にしても美島も変わったよなぁ、前はいっつも仏頂面してたのに」
「…そう?覚えてないよ、気のせいじゃない?」
…違う、僕は鷹野のおかげで変われたんだ。確実に鷹野が僕を変えたんだ。
「ふ、またまた嘘ついちゃって、そこは変わんないのな」
「何だよそれー」
こんな何でもないやり取りが好きだ。軽口を叩き合う、意味のない“単調”な日々も鷹野となら楽しい。
「鷹野君達、ちょっといいかしら」
右の方から声が降ってきて、二人の視線がそちらへ移る。そこにいたのはクラスメイトで副生徒会長の藤咲杏だった。小学校からの幼なじみだが、物心ついたときからは高嶺の花という感じで僕との接点はほとんどない。艶を帯びた長い黒髪をかき上げ、不満そうに立っている。もしかしてずっと前から話す機会を伺っていたのだろうか。僕に対して明らかに“邪魔ですよオーラ”を出している。
「ああごめん。何の用かな?」
鷹野が改まった口調でそう返す。
「鷹野君にお願いがあってさ、ちょっと来てくれない?」
…彼女の様子からするにどうやら委員会の話ではないらしい。鷹野は了解した様子で杏に連れられ、どこかへ行ってしまった。前の女子があの二人お似合いだよね、付き合ってるのかななどとヒソヒソ話し合っている。そんなばかな。もしそうだったら僕に何か相談してるはずだ。鷹野と一番仲がいいのは間違いなく僕だ。
「杏ちゃんね、この前、鷹野君と映画見に行ったらしいよぉ、付き合うのもそろそろなんじゃないかなぁ」
…そんなの初耳だ。…そういえば僕は鷹野とプライベートで遊んだことがなかった。もしかして、もしかすると、鷹野は本当は僕の事なんてちっとも好きじゃないんじゃないか、僕が一緒にいてなんて言ったばかりに、その言葉に縛られて仕方がなく一緒にいてくれているんじゃないか。不安な思いばかりが脳裏をグルグル渦巻いて鼓動が止まらない。
「美島!」
肩を叩かれてふっと我に返った。そこにいたのは鷹野だった。
「ぼーっとしてどうした、大丈夫か笑」
「ああ、鷹野…びっくりした」
「ごめんな、ちょっと話長くなっちゃってさ」
何の話をしていたんだろう、でもそんなことを聞くのは野暮だし、鷹野が誰と仲良くしようが僕が口出しできることではない。
「なあに、なんか不安そうじゃん、どうしたの」
「いや別に…」
目を合わせたら見透かされてしまいそうでふっと視線を逸らす。
「はい、また嘘ついてるー。自分じゃ気づいてないかもだけど美島、嘘つくとき癖出るからバレバレだよー?」
「嘘、教えてよぉ」
「やーだね。…で、どしたの、何であんな顔してたの」
鷹野が真面目そうに俺の顔を覗き込む。大きな瞳が僕を捉えると、自然と「訊かない方がいい」と言う躊躇いが消えていく。
「…鷹野さ、杏のこと好きなの?」
ああ、僕はきっと今酷い顔をしている。何て情けない。
「唐突だなぁ、そんなことないよ」
「でも映画見に行ったって…」
「あー、誘ってくれたし、見たかった映画だから行っただけ、全然そんなんじゃない」
「ふうん」
誤魔化しのテンプレートのようなセリフに僕は不服そうにした。
「なぁ、信じてないでしょ、…あんまり大声で言えないけどさっき杏ちゃん夏祭り誘ってくれてさ、でも夏まつりって好きな子と行ってこそじゃん?だから断ってきた、彼女には悪いけどさ」
そう言うと悪戯っぽく彼は笑うのだった。何故かは分からないが、少し安心してる自分がいた。
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