2人だけのユートピア

文字の大きさ
6 / 14

6.君には…

しおりを挟む
弁当を摘まみながら他愛もない話をした。勉強の話、趣味の話、この具美味しいから食べてみてって話。しょうもない、どうでもいい話ばかりだけど確実に僕の心は満たされていった。
 「そいえばさ、美島君ってすごく綺麗な目の色してるよね。光当たったら一層綺麗。髪で隠さないで、前髪切っちゃったらいいのに。俺もグレーの瞳だったら良かったなぁ」
卵焼きを頬張りながら鷹野が言う。
「…そんなことない。この瞳のせいで僕は…」
暗い記憶が蘇り視線を落とす。
「…どしたの、話きこっか?」
でも…別に人に話したところでどうなるわけでもないし、第一、相談なんて相手の気を重くさせるだけだ。
「あ、もし嫌だったら話さなくてもいいよ、ただ…俺が知りたいだけ」
鷹野の瞳に影が落ち、優しいけど切なげな笑みを浮かべる。
「聞いてどうなるの、鷹野君にとって重みになるだけじゃない…僕の事面倒くさいってなんない?」
「なるわけないじゃん。俺は美島君と仲良くなりたいの。美島君が困ってることなら一緒に悩みたいし、一緒に悲しみたい、話すだけでも楽になるってこともあるだろうし」
鷹野が真剣な顔で言う。そこまでいうなら…僕はぽつりぽつりと語り始めた。

「…僕さ、叔父がロシア人なの。いわゆるクォーターってやつ。だから肌も白いし髪も結構明るめ。このグレーの目もそのせい。中学までは特段何もなかった。僕はそう思わないけれど、綺麗とか、かっこいいとか、君みたいに、羨ましいとか、言ってくれる人もいた」
頷きながら鷹野は真剣な眼差しで僕を見つめる。
「でも…中学生のある時から変わってしまった。『親は普通の日本人だからおかしい。あいつ、実は捨て子らしいよ』って噂されだした。そんなの馬鹿げてると思った、信じる奴なんていないと思った、だから最初は無視してた。それが裏目に出たのかな、あっという間に噂は広まって次第に人が離れていった。周りにいた人で僕を信じてくれた人もいた。…でも皆、世間体を気にして離れていった」
自分が惨めで嗤ってしまう。
「そうやって三年間を過ごした。高校に上がれば何か変わるかなって思ってた。でもそんなに甘くなかった」
自分の思いを吐露したのは本当に久しぶりだった。涙が出そうになり、喉が苦しくなる。鷹野の前で泣きたくないので、平静を装おうと言葉を必死に紡ぐ。
「でももう嫌、こんな優しさに触れたらもう戻れない。独りは辛かった、だから鷹野君、君だけはもう離れないで…」
もう最後の方は言葉にならなかった。何故か彼の前では心の思いがそのまま垂れ流されてしまう。口を歪ませ辛うじて笑顔で取り繕っていたが既に涙も溜まり始めていた。
「…ごめん。湿っぽくさせて。そろそろ戻ろう、ごめんね」
涙は見せるまいとその場を後にしようとする。しかし、
「もういいよ、美島。泣けばいいのに、隠すな。そんな顔して下行けないでしょ、ほら、見ないでやるからさ。もうお前は充分我慢したよ」
そういうと鷹野は椅子から立ち上がり、立ち去ろうとしてた僕の腕を掴み、引き寄せ、そのまま抱きしめた。
「こんなの、見られたら、ぐすっ、大変だよ…」
慣れない事をされて僕は慌てふためく。
「何が大変だよ、友達慰めてるだけじゃんか、ほら、泣けよ」
そう言いながら鷹野は僕の背中をポンポン叩いてくれる。ピリピリ張り詰めていた感情のダムが決壊して、涙が溢れてきた。4年分の涙はもう止まらなかった。僕は鷹野の胸に顔をうずめ、ずっと泣いていた。
 それから本当に鷹野は毎日僕と一緒にいてくれた。今までは近づく事すらしようとしなかったクラスメイトも、次第に鷹野を通じて僕と話をしてくれるようになった。僕の止まっていた時間は再び動き出した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...