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6.君には…
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弁当を摘まみながら他愛もない話をした。勉強の話、趣味の話、この具美味しいから食べてみてって話。しょうもない、どうでもいい話ばかりだけど確実に僕の心は満たされていった。
「そいえばさ、美島君ってすごく綺麗な目の色してるよね。光当たったら一層綺麗。髪で隠さないで、前髪切っちゃったらいいのに。俺もグレーの瞳だったら良かったなぁ」
卵焼きを頬張りながら鷹野が言う。
「…そんなことない。この瞳のせいで僕は…」
暗い記憶が蘇り視線を落とす。
「…どしたの、話きこっか?」
でも…別に人に話したところでどうなるわけでもないし、第一、相談なんて相手の気を重くさせるだけだ。
「あ、もし嫌だったら話さなくてもいいよ、ただ…俺が知りたいだけ」
鷹野の瞳に影が落ち、優しいけど切なげな笑みを浮かべる。
「聞いてどうなるの、鷹野君にとって重みになるだけじゃない…僕の事面倒くさいってなんない?」
「なるわけないじゃん。俺は美島君と仲良くなりたいの。美島君が困ってることなら一緒に悩みたいし、一緒に悲しみたい、話すだけでも楽になるってこともあるだろうし」
鷹野が真剣な顔で言う。そこまでいうなら…僕はぽつりぽつりと語り始めた。
「…僕さ、叔父がロシア人なの。いわゆるクォーターってやつ。だから肌も白いし髪も結構明るめ。このグレーの目もそのせい。中学までは特段何もなかった。僕はそう思わないけれど、綺麗とか、かっこいいとか、君みたいに、羨ましいとか、言ってくれる人もいた」
頷きながら鷹野は真剣な眼差しで僕を見つめる。
「でも…中学生のある時から変わってしまった。『親は普通の日本人だからおかしい。あいつ、実は捨て子らしいよ』って噂されだした。そんなの馬鹿げてると思った、信じる奴なんていないと思った、だから最初は無視してた。それが裏目に出たのかな、あっという間に噂は広まって次第に人が離れていった。周りにいた人で僕を信じてくれた人もいた。…でも皆、世間体を気にして離れていった」
自分が惨めで嗤ってしまう。
「そうやって三年間を過ごした。高校に上がれば何か変わるかなって思ってた。でもそんなに甘くなかった」
自分の思いを吐露したのは本当に久しぶりだった。涙が出そうになり、喉が苦しくなる。鷹野の前で泣きたくないので、平静を装おうと言葉を必死に紡ぐ。
「でももう嫌、こんな優しさに触れたらもう戻れない。独りは辛かった、だから鷹野君、君だけはもう離れないで…」
もう最後の方は言葉にならなかった。何故か彼の前では心の思いがそのまま垂れ流されてしまう。口を歪ませ辛うじて笑顔で取り繕っていたが既に涙も溜まり始めていた。
「…ごめん。湿っぽくさせて。そろそろ戻ろう、ごめんね」
涙は見せるまいとその場を後にしようとする。しかし、
「もういいよ、美島。泣けばいいのに、隠すな。そんな顔して下行けないでしょ、ほら、見ないでやるからさ。もうお前は充分我慢したよ」
そういうと鷹野は椅子から立ち上がり、立ち去ろうとしてた僕の腕を掴み、引き寄せ、そのまま抱きしめた。
「こんなの、見られたら、ぐすっ、大変だよ…」
慣れない事をされて僕は慌てふためく。
「何が大変だよ、友達慰めてるだけじゃんか、ほら、泣けよ」
そう言いながら鷹野は僕の背中をポンポン叩いてくれる。ピリピリ張り詰めていた感情のダムが決壊して、涙が溢れてきた。4年分の涙はもう止まらなかった。僕は鷹野の胸に顔をうずめ、ずっと泣いていた。
それから本当に鷹野は毎日僕と一緒にいてくれた。今までは近づく事すらしようとしなかったクラスメイトも、次第に鷹野を通じて僕と話をしてくれるようになった。僕の止まっていた時間は再び動き出した。
「そいえばさ、美島君ってすごく綺麗な目の色してるよね。光当たったら一層綺麗。髪で隠さないで、前髪切っちゃったらいいのに。俺もグレーの瞳だったら良かったなぁ」
卵焼きを頬張りながら鷹野が言う。
「…そんなことない。この瞳のせいで僕は…」
暗い記憶が蘇り視線を落とす。
「…どしたの、話きこっか?」
でも…別に人に話したところでどうなるわけでもないし、第一、相談なんて相手の気を重くさせるだけだ。
「あ、もし嫌だったら話さなくてもいいよ、ただ…俺が知りたいだけ」
鷹野の瞳に影が落ち、優しいけど切なげな笑みを浮かべる。
「聞いてどうなるの、鷹野君にとって重みになるだけじゃない…僕の事面倒くさいってなんない?」
「なるわけないじゃん。俺は美島君と仲良くなりたいの。美島君が困ってることなら一緒に悩みたいし、一緒に悲しみたい、話すだけでも楽になるってこともあるだろうし」
鷹野が真剣な顔で言う。そこまでいうなら…僕はぽつりぽつりと語り始めた。
「…僕さ、叔父がロシア人なの。いわゆるクォーターってやつ。だから肌も白いし髪も結構明るめ。このグレーの目もそのせい。中学までは特段何もなかった。僕はそう思わないけれど、綺麗とか、かっこいいとか、君みたいに、羨ましいとか、言ってくれる人もいた」
頷きながら鷹野は真剣な眼差しで僕を見つめる。
「でも…中学生のある時から変わってしまった。『親は普通の日本人だからおかしい。あいつ、実は捨て子らしいよ』って噂されだした。そんなの馬鹿げてると思った、信じる奴なんていないと思った、だから最初は無視してた。それが裏目に出たのかな、あっという間に噂は広まって次第に人が離れていった。周りにいた人で僕を信じてくれた人もいた。…でも皆、世間体を気にして離れていった」
自分が惨めで嗤ってしまう。
「そうやって三年間を過ごした。高校に上がれば何か変わるかなって思ってた。でもそんなに甘くなかった」
自分の思いを吐露したのは本当に久しぶりだった。涙が出そうになり、喉が苦しくなる。鷹野の前で泣きたくないので、平静を装おうと言葉を必死に紡ぐ。
「でももう嫌、こんな優しさに触れたらもう戻れない。独りは辛かった、だから鷹野君、君だけはもう離れないで…」
もう最後の方は言葉にならなかった。何故か彼の前では心の思いがそのまま垂れ流されてしまう。口を歪ませ辛うじて笑顔で取り繕っていたが既に涙も溜まり始めていた。
「…ごめん。湿っぽくさせて。そろそろ戻ろう、ごめんね」
涙は見せるまいとその場を後にしようとする。しかし、
「もういいよ、美島。泣けばいいのに、隠すな。そんな顔して下行けないでしょ、ほら、見ないでやるからさ。もうお前は充分我慢したよ」
そういうと鷹野は椅子から立ち上がり、立ち去ろうとしてた僕の腕を掴み、引き寄せ、そのまま抱きしめた。
「こんなの、見られたら、ぐすっ、大変だよ…」
慣れない事をされて僕は慌てふためく。
「何が大変だよ、友達慰めてるだけじゃんか、ほら、泣けよ」
そう言いながら鷹野は僕の背中をポンポン叩いてくれる。ピリピリ張り詰めていた感情のダムが決壊して、涙が溢れてきた。4年分の涙はもう止まらなかった。僕は鷹野の胸に顔をうずめ、ずっと泣いていた。
それから本当に鷹野は毎日僕と一緒にいてくれた。今までは近づく事すらしようとしなかったクラスメイトも、次第に鷹野を通じて僕と話をしてくれるようになった。僕の止まっていた時間は再び動き出した。
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