2人だけのユートピア

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11.散る火花、散る心

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   その日の夕方、僕はあの日と同じ格好をして鷹野の家の前で待っていた。インターホンを押すと、
「待ってて、今行くから」
といつも通りの鷹野の声が聞こえてきた。少しの間を開け、ドアの向こうから鷹野が出てきた、灰色の浴衣を着ている。
「おお、様になってる…」
「でしょ!格好いいでしょー、どう、惚れちゃった?」
うん、と頷くと頭を思いっきり叩かれた。
「そこは否定するとこだろ! …ったく、お前らしくないなぁ、俺が自惚れてるみたいで恥ずかしいじゃん。」
ああそうか、と僕は思った、今思えばきっとひどく腑抜けた顔をしていただろう。
「じゃあ言い返してやる、…美島もその甚平、凄い似合ってる。なんかお前は浴衣より甚平がいい、雰囲気に合ってる」
優しい目をしながらそう言い、彼は微笑んだ。何それ、ずるいよ…。
「おおげさ、褒めすぎ…」
顔が熱いのはきっと、夕焼けに照らされているからだ。そう自分に言い聞かせる。
「美島照れてんの?かわいー」
今更否定するのもバカらしくて、視線を落とし、下駄で土をイジイジする。
「…じゃ、そろそろ行こか」
鷹野の声に、僕はまたこくりと頷き、花火の束を抱えて、歩き出した。

「んー!綺麗な花火!またこのラムネが格別ですなぁ」
鷹野はそんな最もらしいことを言って得意げになっている。馬鹿みたいで、でもそれが…良い。
「見てこれ、ほら、色が変わっていくの、綺麗…」
「ほんとだねぇ、あ、良い事閃いた、せいっ!二刀流花火ィ!」
「ほんとアホだなぁ、鷹野は」
「うるせぇ、美島もたいして変わらんじゃろ」
それだけはないぞ、と僕は目を細めて抗議する。
「この花火も綺麗だけど、美島の目に映ってる花火も綺麗」
そう鷹野が呟いた。口説き文句かとツッコんでやりたかったけど、こんな日だけは、今日だけは、空気に呑まれてもいいかなと言葉を飲み込んだ。

「…これで最後だね」
二人で袋に残った線香花火を手に持つと、鷹野がぽつりと言った。辺りはもう真っ暗だった。
「あっという間だったな」
愉しい時間はいつでも一瞬だ。
「じゃあ、点けるよ」
鷹野はそういうと、まずは僕の花火に火を点け、続けざまに自分の花火に火を点けた。
「なあ、美島」
「んー?」
鷹野はぼんやりとした灯りを見つめながら言う。
「俺達さ、いつまで一緒にいれるんだろ」
「そんなの分からないけど…二人がいたいって思ってたらきっとずっといれるよ」
「美島は、ずっと俺といたい?」
「そりゃあ…うん」
ただの「うん」だけなのに、返事をするのがとてもむず痒い。
「それは何で、何で美島は俺とずっといたいの」
何でって…そんなの考えたこともなかった。
「一緒にいて楽しいから?」
「そういうことじゃなくて…美島は、俺といるから楽しいの、それとも俺以外の誰かでも一緒にいてくれればそれで良かったの?」
…なんで鷹野はそんな面倒くさいことを聞くのだろう。でも僕はその問いに自信をもって答えることができなかった。黙ることしかできなかった。
「俺は、美島がいいの、美島じゃなきゃ嫌。でも美島もそう思ってくれないなら俺は一緒にいたくない」
その時、線香花火の灯りが二つ、ボトっと落ちる。
「何でそんな突き放すような事言うの…」
直ぐに鷹野の顔を見たが、暗闇に包まれ、表情を知ることは叶わなかった。
「…またお前の気持ち分かったら言ってな。それまで待ってるから」
それだけ言って鷹野は一人ですたすたと帰ってしまった。
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