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嫁入り
変な嫁(ユリシーズ視点)
しおりを挟む『いいかユリシーズ。いい加減結婚しろ。でなければ、こちらで勝手に選んで送り込む。三十歳になるまでは待ってやる』
自分の部屋の机に座っていた俺は、国王から送られてきた『脅迫状』の片隅を、指ではさんでがさりと持ち上げてみる。
睨んでも、斜めに見ても、同じことしか書いていない。――当然なのだが、無駄なあがきをやってしまうぐらいには、嫌気がさしている。
「あんだよ、めんどくせ」
俺は、かなり口が悪いと自分でも自覚している。
特に女性は、接するだけで十中八九泣かせる。だから避けている。
というのも、幸か不幸か魔法が使えてしまったからだ。
十歳にも満たないころ、小生意気などこかのガキが、何かのお茶会で「くっらーい奴!」とバカにしてきた。
当時まだ純粋だった俺はそれが悔しくて、人生で初めて激しく怒り、結果目の前のテーブルクロスが燃えてしまった。
それは明らかに魔法の力で誤魔化しようがなく、すぐに家から剥がされ全寮制の魔法学校に放り込まれ――傲慢で鼻持ちならない奴らと、強制的に共に過ごすはめになった。
舐められないために表情筋を殺し、言葉遣いを悪くした結果――こうなった。
結婚なんて、考えるだけで憂鬱で仕方がない。
女性(特に貴族)というのは未知の生き物だし、常にこちらを見下しているような態度だし、だいたい何を話そうがすぐ不機嫌になる。一体どう接したらよいのかが、全く分からない。俺にとって、理屈が通らないことほど嫌いなことはないというのに。
そんな存在が四六時中同じ屋敷にいるなど、耐えられる気がしない。
――だが、国王は本気だ。
自分で言うのもなんだが、俺はこの王国防衛の要である『結界』を維持している、『大魔法使い』だ(学校の鼻持ちならない奴らを避けるために研究に没頭した結果だ。自分で自分の首を絞めたと後悔はしている)。
この俺を王国に囲い続けるために、早く家庭を持たせなければと焦っているのはよく分かる。
とはいえ、勝手に送り込まれた誰かに居座られても困るし、どうしたものかと悩んでいたらば、
「あ~キレたら魔法発動しちまうよな。分かるわ」
王子の婚約者選定茶会(護衛に来いと呼び出されたが、俺にも選ばせる気満々のやつじゃねえか、ちくしょうめ)で、カールソンの娘がやらかした。
しかもなかなかの風魔法。大層愉快な出来事だったが、本来なら魔法使いは強制収容される身だ。隠していたとなると、侯爵家といえどもただでは済まない。
騎士団長のウォルトには「やりすぎだ!」と怒られたが、「近衛が伯爵家に買収されてたって暴露されるのと、どっちが良かったんだ?」と脅したら黙った。頭を抱えながらブツクサ言っていたが、奴もクビが飛びかねないし、適当に誤魔化すだろう。あとは知らん。
――にしても、想像と全然違ったぞ、侯爵。
アウリス・カールソン曰く、普段はぼーっとしていて、庭いじりが趣味な『地味娘』。だがいざ茶会で見つけたら、華奢だわ肌は白いわ、唇はピンク色だわ――ゴホン。
状況を鑑みるに、ライバル令嬢の策略で陥れられたであろうことは、容易に想像できた。実直で政治的手腕も名高いカールソン侯爵の令嬢が、わざわざこのような格式高い茶会で盗みなどと、危険を侵すわけがない。
むしろ一方的な証言を丸呑みする王子、だいぶ頭弱ぇな? である。
というわけで、下心なくその時は助けたわけだが、
「カールソンに白い結婚を持ち掛けてみよう」
と思いついた。
俺が助けたとはいえ、『強欲』の二つ名はいただけない。嫁に行く当てはなくなったはずだ。この王国、令嬢の結婚適齢期は十六から二十歳で、前評判は何よりも大事だからだ。
国王にも「茶会で見初めた」と理由が立つし、我ながら良い考えだ。どう進めようかと思っていたらカールソン侯爵の方から打診があり、渡りに船とばかりにその話を受け、とんとん拍子にセレーナは俺の家にやってきた。
鮮やかな水色の髪に、深い紫色の瞳は大きく潤んでいる。
華奢な肩のラインは、清楚なデザインで首まで覆われている。あの茶会でもそうで、周りの令嬢が胸の谷間まで見えそうな下品なドレスを選んでいる中、むしろ好感が持てた。
「ふっ。蛇侯爵に嫁ぐとは、なかなかの物好きだな。強欲令嬢というだけはある」
――とりあえず挨拶代わりに嫌味を言う性分なんだよ……どうせ白い結婚だし嫌われても別に……
「あともう一度でもわたくしを強欲とお呼びになったなら、一生口聞きませんが」
――キレずに拗ねたぞ。かわ……んんん。
セレーナの退室後、執事のリニが気遣う。
「ユリシーズ様。本当に、結婚式はされなくてもよろしいのですか?」
「ああ。アウリスには予め了解をもらっている。どうせ契約結婚だ。やろうと言ったところで、セレーナも困るだろ」
「左様ですか……引き続き、奥様にはミンケをつけますが」
「うん。ミンケもちっとは大人しく従うことを覚えた方がいい」
「かしこまりました。奥様は、獣人に好意的なお方のようで安心いたしました。笑顔を向けられて、驚きましたよ」
「あっそうか、そういえばお前らのこと言うの忘れてたな! すまなかった。だが、それなら良かったな……しっかり護衛してやってくれ」
「は」
――で。いざ初日の報告を聞いたら、ホワイトタイガーのディーデに感動して、湖まで散歩して、喉が枯れるまで歌っただと!? なんて変な奴なんだ! 転生者だからか?
この王国、転生者と分かると即監禁だ。理由は『危険思想』である。
俺は、前の奴が何かやらかしたせいだと推察している。
貴族階級社会で移動手段は馬車と馬、通信手段は主に手紙というこの世界に、何かまずいものでも持ち込んだのだろう。脳みそ足りん奴だったんだなあ。迷惑なことこの上ない。
前々から交流のあったカールソン侯爵から、娘のセレーナが転生者であると相談された時はさすがに驚きはしたが、興味の方が勝った。誰も好き好んで娘を監禁されたくはないだろうし、こう見えて実家を王国の人質に取られている俺は、色々理解できる。
それに、セレーナは前世の知識で何かしているのか? と聞くと、『椿油』なるものの精製やアクセサリー作り、園芸が趣味だとか。魔法も、家人を怖がらせたくないからとほとんど使わないと聞いて――なんとささやかなことだろうと思った。少なくとも魔法学校の鼻持ちならない奴らよりは、断然良い。
「旦那様、いかがされましたか?」
怪訝そうな執事のリニに、
「いや。とにかく何不自由なく面倒見てやってくれ」
と伝える。
カールソン侯爵が、命どころか家までも賭けて隠し通した、異世界転生者で魔法が使える十八歳の娘。
引き受けられるのは俺ぐらいだろうと自負しつつも、変な嫁をもらってしまったなあと苦笑する。
――もちろん、自分のことは棚上げにして。
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