毒吐き蛇侯爵の、甘い呪縛

卯崎瑛珠

文字の大きさ
40 / 43
もっと甘い呪縛

毒吐き蛇侯爵の、もっと甘い呪縛

しおりを挟む

「うーうー。びっくりするほど、緊張する!」
「奥様、動かないでください。ベールがずれます」
「ミンケー」
「なんでしょう」
「大丈夫かな、私」
「さあ」
「つーめーたーいー」

 と言いつつもゆらゆら揺れる尻尾は、上機嫌な証拠なのを知っている。
 ミンケの鼻がヒクヒクしているのも。目が少し潤んでいるのも。全部全部、愛おしい。

「ありがと、ミンケ」
「仕事ですから」
 
 ドレスの後ろを引きずるロングトレーンを両手で抱えながら、ユリシーズの待つ控室までついてきてくれるのが心強い。
 
 この世界の貴族の結婚式は、お互いの家の当主の前で夫婦の宣言をする形が主流だ。小さな家だと、お互いの家族に紹介するパーティのようなものをするらしい。
 だからか特に決まったスタイルはなく、ドレスの色も自由なのだけれど、ユリシーズに「前世では新郎の色に染まる、という意味で白を着る」と教えたら「いいなそれ」とニヤリ。
 
「セラの前世の記憶ごと、塗り替えてやる」
「ふごおおおおおお」
「だから、どっから声出してんだよ。くっくっく」

 そうして、ふたりで『白』を着ると決めた。
 
 テーラーさんもはじめは驚いていたけれど「お互いに染まる、という意味ですか! なんと素晴らしいお話で感動しました!」と今後も白い衣装を流行らせようと息巻いている。なにせ、純白は加工が大変で(ベージュがかってしまう)高額なものになる分、貴族が好みそうということらしい。
 

 さっとミンケがロングトレーンを抱えたまま横にずれて、控室の扉をノックする。
 返事がない。
 
「リス?」

 恐る恐るミンケが開けてくれた扉から入ると、窓際で腕を組んで佇んでいるユリシーズが目に入った。
 
「ああ……来たか」
 
 真っ白タキシード姿は、控えめに言っても最高だった。ガタイが良い人が着る礼服って、破壊力がものっすごいよね。

「セラ。素晴らしいな。本当に綺麗だ」
「へへ」
「その鱗もな。誰にも見せたくはないが……でも見てもらいたくもある。不思議だな」
「……」

 私は彼の気持ちが本当に嬉しくて感極まってしまい、何も言えなくなってしまった。
 だって、私を私のまま受け入れてくれているから。

 
 バージンロードという概念もないこの世界では、ふたりそろって両家の当主の元へと歩いていく。
 意外にもユリシーズのお父様は華奢で黒髪に眼鏡を掛けた、学者のような見た目だった。お母様が迫力ブロンド美人で、なるほどと思ったけれど(マージェリーお姉様瓜二つ!)。
 

 遠くからでも、私の父――アウリス・カールソン侯爵の肩がぶるぶる小刻みに震えているのが分かって、つられた私は涙を止められなくなってしまった。
 今日の出席者は、双方の家族の他、ディーデやウォルト、それから魔法学校に入学する予定の生徒と孤児院の子どもたち。
 みんなが笑顔で迎えてくれて。心からお祝いしてくれている気持ちが伝わって。嬉しくてたまらなくて、自然と笑顔になっていく。


 ゴーン!


 鐘を合図に、ふたりで歩き出した――
 
 

 ◇ ◇ ◇


 
「まさか、カールソン卿があんなに号泣するとはな」
「ソーデスネ」
「なんだよ」
「なななんでもないでふ」

 結婚式後、湯浴みを終えた私は、ユリシーズの寝室に来ていた。
 そうです、あれです、散々お預けのお預けでお預けだった(三回言わざるを得ない)、初夜! というやつです!

 さすがにミンケはそうしたことに疎かったため、カールソン侯爵家の誇るメイド長、サマンサがはりきって色々な準備をしてくれた。
 香油を塗りつけられたり、紐でほどけやすいネグリジェと下着を着させられたり、本当に下ごしらえされている気分で、今はまさにまな板の上の――

「無理すんな」
 
 暖炉の前のカウチソファでホットワインを飲むユリシーズは、ガッチガチで隣に座っている私に向かって眉尻を下げ、静かに言った。

「今さら焦ることでもねえし」
 
 怖いとかではなくてですね。あなたのその寝間着のボタン、上の方全然留めてないから胸筋がチラチラしててですね……ドッキドキのバックバクで口から心臓が出そうなんです。ひいぃ。
 
「また、我慢する?」
「はは」

 それにはちゃんと答えずにカン、とローテーブルにグラスを置くと、ユリシーズは背もたれに片肘を乗せながら、私の髪の毛を一束すくってクルクルと弄びはじめた。

「あ、それ」
「ん?」
「お披露目夜会のドレス作った時。同じことされたの」
「そうだったか?」
「めっちゃ手慣れててムカついた!」
「は?」
「女の人にそういうこと、いっぱいしてきたんだろうな~って」
「くくく」
「なによ!」

 ユリシーズの目が細められた。

「だっておまえそれ、その時から嫉妬してたってことだろう?」
「ほぎゃ!?」
「くくくく」

 楽しそうに笑って、そのまま私の髪の毛にキスを落とす。

「……俺はきっと、最初から惚れてたな」
「え」
「カールソン卿から相談されていた時から気になってはいたんだが。あの茶会でキレた時」
「……うん」

 周りの令嬢たちの悪口で理性が焼き切れてしまったのは、十八年間不安でたまらない中自分を押し殺し、我慢に我慢を重ねて生きてきたから。
 それでもキレたのは良くなかったと反省しているし、もしユリシーズがいなくて死罪になったとしても、きっとそのまま諦めただろうと思っている。
 
「普通なら泣き叫ぶところだろう。だがじっと唇を噛んで、死ぬ覚悟をしていた。だから、助けた」
「庇護欲じゃなく?」
「ああ。守るというより『俺のにしたい』だな」
「そっか……嬉しいな……私も、すごく優しい人だなって思って」
「あれでか?」
「あれで!」

 ふふ、と私はおかしくなる。

「二の腕を掴んでエスコートされたのは、はじめてだったけどね!」
「そうだったか? ……たぶん強引に連れ出さないとウォルトに捕まると思ったんだな」
「でも、全然痛くなかったの」
「!」
「笑うと目がなくなるのも、いいなって」
「セラ」
「そう言われると、私も最初から……わっ!」

 ぐいっと二の腕を引っ張られ、ぎゅうっと抱きしめられた。
 
「それ以上は、やべえ」
「ふふふ」
「はあ。セラ……出会えてよかった。結婚してくれてありがとう」
「私も。私もだよリス。結婚できて嬉しい」

 温かくてフカフカの胸筋に顔をうずめるのが、大好き。
 ユリシーズの体温も匂いも、いつも私を安心させてくれる。けれど今日は――トトトト、とすぐに分かるくらいに、彼の心臓の音が速い。

「ねえ」
「ん?」

 少しだけ身体を離して見上げれば、優しく微笑むエメラルドの瞳。
 ああ、なんて愛しいんだろう。
 感極まった私は、顎の横あたりにキスをする。

「こら」
「我慢して、とは言ってないよ」
「!!」
「恥ずかしかっただけ」
 
 眉間に大きなしわを寄せながらぎゅっとつぶった後、再び開いたその目は――先ほどまでとは打って変わってギラギラと輝いている。

「……嫌だったら、すぐ嫌って言えよ」

 言葉とは裏腹に、蛇がシャーッて威嚇してるみたい。
 
 うん。私はカエルなので。食べられて当然なのである。とっくに覚悟済なのである!

「嫌なわけない。愛しているの」

 今度は唇にキスをしてみたら――何度も何度も角度を変えながらの、深いキスが返って来た。
 舌で歯をこじあけられて、熱く絡ませて、お互いをむさぼりつくすかのように、何度も何度も。
 
 私も、彼の首に腕を絡ませて、応える。足りない。応えても、応えても。足りない。もっと欲しい。

「はあ。お望み通り、朝まで喰らい尽くしてやるよ。俺の愛しいカエルちゃん」
「ゲコゲ……ひゃっ」

 がばっと横抱きにされたかと思うと、そっとベッドに横たえられて、あっという間にネグリジェの紐を解かれ覆いかぶさってこられて。
 
 


 ――わたくし、カエルちゃん。ほんとに朝まで食べられちゃったようです(胸筋もそうだけど腹筋もすっごかったよ!!)。



「セラ。愛している」
「私もよ、リス」


 蛇侯爵に、物理的にも精神的にも、毎日ぐるぐる巻きに抱きしめられている。なんてなんて甘い呪縛なんだろう! ほんっとに、幸せ!!



 -----------------------------



 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 恋愛小説大賞にエントリーしております。
 少しでも面白かった! と思っていただけましたら、ぜひご投票いただければ嬉しいですm(_ _)m

 明日はバレンタイン番外編をご用意しておりますので、どうぞお楽しみに!

 あとがき(ネタバレ)に続きます。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

異世界シンママ ~モブ顔シングルマザーと銀獅子将軍~【完結】

多摩ゆら
恋愛
「神様お星様。モブ顔アラサーバツイチ子持ちにドッキリイベントは望んでません!」 シングルマザーのケイは、娘のココと共にオケアノスという国に異世界転移してしまう。助けてくれたのは、銀獅子将軍と呼ばれるヴォルク侯爵。 異世界での仕事と子育てに奔走するシンママ介護士と、激渋イケオジ将軍との間に恋愛は成立するのか!? ・同じ世界観の新作「未婚のギャル母は堅物眼鏡を翻弄する」連載中! ・表紙イラストは蒼獅郎様、タイトルロゴは猫埜かきあげ様に制作していただきました。画像・文章ともAI学習禁止。 ・ファンタジー世界ですが不思議要素はありません。 ・※マークの話には性描写を含みます。苦手な方は読み飛ばしていただいても本筋に影響はありません。 ・エブリスタにて恋愛ファンタジートレンドランキング1位獲得

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

処理中です...