62 / 229
第二章 運命の出会いと砂漠の陰謀
〈56〉一緒に検討するのです
しおりを挟む「ウーン」
やはり行き詰まってしまった。
レオナは、家庭教師の教えを得ていたとは言え、学院に入るまではほぼ引きこもりであった。知識はあれど、市井の詳しいことなどは分からない。
「どうした?」
「やはり生鮮品は、保管と運搬が難しいですわね」
「……そうだな、基本はモノと季節にもよるが、荷馬車で二日が限界。それ以外は食糧として消費だ」
「そうですわね。せっかく我が国は農作物が豊富なので、もっと流通網ができれば、食も経済も更に発展できるのではと考えているのですが」
レオナは、目を上げないままに独りごちる。
「基本的には、地産地消ですものね」
「ちさんちしょう?」
「その地域で生産し、その地域で消費することですわ」
「ふむ……それなら……まず、珍しいものや高価なものに目がないのが貴族だ」
「!」
ぱっと思わず顔を上げるレオナに、ルスラーンは微笑んだ。
「例えば、ダイモン領はイチゴが名産なんだが、王都まで荷馬車で片道五日かかる。さすがに傷むので通常は無理だが、以前フィリベルトが、氷魔法で冷やしながら持ち帰ったことがあってな」
イチゴは温暖なこの周辺では小粒で酸っぱい、色も黒っぽい野いちごのような品種が流通している。一方涼しい気候の北のダイモンでは大粒で甘く、色も赤い品種を栽培しているのだそうだ。
「王妃殿下に、色もルビーのように綺麗だし、甘くて美味しい、と大変喜ばれたらしい。それ以降その話を聞きつけた貴族連中から引き合いはあるのだが……冷蔵の魔道具は非常に高価だ。仮に使ったとしても、今度は盗賊に盗まれる危険が高い。護衛を付ければその分値段は跳ね上がる。無事に運べたとしても、どうしてもいくつかは傷む。というわけで、あまりに高額にするのもどうかと思って、実売はできていないのだ」
「それ、検討の価値ありますわ!」
「お?」
レオナのペンが走り出す。
「密閉の専用容器を作って、比較的安価な氷を取替えながら進めばあるいは……傷みがあるものは、ジャムやシロップ漬けにしたりして十分使えるはずです。貴族に大人気な甘いイチゴを使ったお菓子って」
「庶民にも手が出そうだな」
「ええ!」
「輸送経費を貴族に持ってもらう形になるわけか」
「左様です。生のイチゴの希少価値を謳うと同時に、庶民にも手が出るよう、傷んだものは加工したお菓子にする。王都で流行れば、地方からも引き合いがありましょう。廃棄の無駄もなくなります」
思い付いたことを箇条書きにしていく。あとは家で清書するだけだ。
ルスラーンはすっかり冒険小説を閉じてしまって、レオナがひたすら書いているのを眺めている。
は! と気付いた時にはもう遅い。
「……すみません、またもやお邪魔してしまいました……」
「いやいや、楽しいぞ。しかも我が領のためになるかもしれん」
ルスラーンは、少し寂しそうな顔をして遠くを見やる。
「……ダイモンは、危険な場所という印象が根強いからな」
魔獣蠢く北の森を有する、屈強な者どもの土地。それがダイモンの代名詞。
「訪れるのは冒険者ばかりだ。風の季節も涼しくて自然が豊かな、良いところなのだが」
「是非行ってみたいですわ!」
前世では、一人でイチゴ狩りに行く勇気はなかったが、イチゴは大好きなレオナである。ダイモン領でイチゴ狩りツアーが実現したら、流行りそうだと感じた。
「お? そうか? それなら是非遊びに来てくれ。親父も喜ぶ」
「はい!」
レオナは、ヴァジームにももちろん会いたいが、ルスラーンの生まれ育った場所を見てみたかった。
さて、そろそろ切り上げるか? とルスラーンが言う。
「お陰様で良いものが出せそうですわ。ありがたく存じます」
「お役に立てたのなら良かった」
言いながら、テーブルを片付けるのをさり気なく手伝ってくれるルスラーンに、レオナは感心する。
伯爵家令息で近衛騎士だというのに、気さくで紳士。
騎士の鍛練だけでも相当大変であるのに、ドラゴンスレイヤーであることもひけらかさず、真面目に任務に取り組んでいる。しかも自領の産業を把握し、懸念も理解している。次期領主としても、しっかりと勉強しているのだろう。
すごい方だな……
今日ここでお話ができて、もっと知ることができて、良かったと、レオナは思った。ヒューゴーの機転に感謝である。
「あーそれでだな、褒美のことなんだが」
「! はいっ」
「……なんでもいいのか?」
「私にできることなら、なんでも」
「ちか…」
「誓います!」
かぶせて言うと。
ふはは! と可笑しそうに笑われた。
「うーん。あのな、実はまだ考えていなくてな……」
「そうなのですね」
「ああ。なんでもいいと言われると、かえって思い浮かばんものだな」
すまない、と申し訳なさそうに言うけれど、別に強制ではないのだ。
「もう少し考えさせてくれ」
欲しいと思ってくれるだけで、嬉しかった。
「わかりました!」
ルスラーンは、バスケットを食堂に返すのを手伝ってくれ(重いだろ、と持ってくれた!)、さらにフィリベルトの研究室まで送ってくれた。なんて紳士なのだろう、とレオナは感動する。
学院内の道を歩きながら、
「次の剣術の講義は、副団長が来るそうだ」
と教えてくれた。
「え! ジョエル兄様、大丈夫ですの?」
「めちゃくちゃ忙しくて目が死んでる」
……ゲルゴリラかな。
「教えて頂けて良かったですわ。また焼き菓子をお作りしなくては」
「え、もしかしてレオナ嬢の手作りか!?」
「ええ。お恥ずかしながらそうなんですの。ラジ様にはこの間お渡しできたのですが、ジョエル兄様にはまだお渡しできていなくって」
「ラジ様ってラザール副師団長? なるほど……あの時のは……」
「?」
「……あーいや、なんでもない。んん。その」
「ルス様も、宜しければお召し上がりになりますか?」
「ぜひ! ……その、良いのか?」
「もちろんですわ! あ、きっと皆様の分作って来た方が良さそうですわね。たくさん焼いて持って参りますわ!」
「……皆様か……ああ、ありがとう」
「? ルス様?」
少々ガックリされている? 気のせい?
「た、楽しみだな」
「はい! ジョエル兄様とヒューの手合わせを見るのは久しぶりで、楽しみですわ!」
気のせいだったようだ。
「……そ、そうだな……はー」
溜息!?
やはり読書のお邪魔をしてしまったからかな!?
大変申し訳ないです……
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜
白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。
私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。
けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?
関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。
竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。
『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』
❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。
*乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。
*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。
その数日後王家から正式な手紙がくる。
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ!
※ざまぁ要素はあると思います。
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる