【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです

卯崎瑛珠

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第二章 運命の出会いと砂漠の陰謀

〈57〉私だって何かしたいのです

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 コンコン

「はい?」
「レオナ・ローゼンです」
「どうぞ」

 レオナにとっては、久しぶりのカミロ研究室である。
 贔屓だと言われて以来の訪問になる。
 中にいたヒューゴーに、公爵家へ帰ることを告げると、レポートの進捗を聞かれた。無事下書きが終わったと伝えると、ホッとされる。
 ルスラーンは、その間フィリベルトと話をしている。

 そうこうしていると、噂通り目が死んでいる副団長が
「カミロー、僕の弓、直ってるう~?」
 ヘロヘロで研究室にやって来た。
「ええ。酷使しすぎでは?」
 苦笑しながら、メンテ済の武器をジョエルに手渡すカミロ。
「文句はゲルゴリラに言ってー。あ、ルスー! 今日非番だろ? 飲みいこー。あ! ヒュー発見!」
「げ」
「うわぁ制服だあー! 似合ってるー! めちゃくちゃ可愛いー!」
「うっぜええええ! くそ!」
「抱っこさせてー!」
「なんでだよ!」
 研究室で、唐突に鬼ごっこが始まった。
「……」
 目がまん丸で絶句しているルスラーンに、
「あの通り、溺愛なんですの」
 と一応補足するレオナ。
「もしかしてヒューゴー君って、あれが素?」
 わーわー逃げ回るヒューゴーを指差す彼は、戸惑い気味だ。
「ふふ。そうですわ」
「あーなんか安心したわ」
「なぜですの?」
「いやあ、歳の割に凄味があるっていうか、気配が只者じゃないって思ってたからさ」


 
 たらり。ひやり。

 

「……学院では一生懸命、らしく振舞っているそうだよ?」
 とフィリベルトの助け舟。
「なんだそうか。良かった」
「うん。さあジョエル、そろそろ止まろうか?」
 フィリベルトが言うが、でもでもだって可愛いしー、触りたーい、と騒ぐジョエルに、そろそろさすがのカミロもぶちギレそうなので
「……シャルが見たらなんて言いますかね?」
 レオナは伝家の宝刀を抜いた。

 ピタリと止まるジョエル。

「レ、レオナ、あのね」
「言い訳は、シャルになさってね」
 またも目がまん丸のルスラーンに
「ジョエルは、シャルリーヌ嬢に頭が上がらないんだよね」
 と苦笑するフィリベルト。


 ジョエルには、仕方がないかもしれないが、若気の至りでやらかしていた時期がある。俺様最強、女にもモテまくりだぜヒャッハー! のまさに黒歴史だったわけだが、シャルリーヌに
「調子乗ってるのが最高にかっこ悪くて、気持ち悪い」
 と言われ。
「は? お子様に俺の価値がわかんの?」
 と鼻で笑ってみたものの
「あなたに理想はないの? ならその命もただ消費されて終わりね。少なくとも私の中であなたに価値はないわ」
 バッサリ。

 そのシャルリーヌが、ヒューゴーに淡い恋心を抱いた。
 そのヒューゴーは、辛い過去を乗り越え、自分の理想のためにどんなに辛い修行にも耐え、勉強し、ひた走っていた。
 それに比べて僕は一体何をやっているんだろう……と目覚めて心を入れ替えてからは、最強の副団長の出来上がり、というわけで。


「ううう、それだけはやめてー」
「全然変わらないのねって言われても、知りませんわよ」
「ぐほーう! 想像だけですっごい傷つくー!」
 まさにクリティカルヒットである。
 ルスラーンが肩を震わせて笑っている。
「騎士団で人気なシャルリーヌ嬢が、副団長の弱みとは……」
「え? シャルが?」


 知らなかった!


「……あーえっとな、その」
 途端に慌てる黒騎士は、尋常ではなく目が泳いで、やがて諦めた。フィリベルトが呆れた声で呼ぶ。
「ルス」
「やらかした。わりい、フィリ」
「ったく……先日、ヴァジーム卿の側にいて目立ったようだよ」
「まぁ! そうだったんですのね! だってシャルってとっても可憐で可愛いもの! 納得ですわ!」
 
 性格もとても明るくて、優しくて、賢くて、気遣い屋さんで、とっても良い子なんですの! と思わず力説するレオナの頭を優しくぽんぽんするフィリベルト。
 
「大丈夫だよ、副団長自ら牽制しまくってるから。レオナのこともね」


 牽制って? てか、私も? 


「あーあーあー! その、そーろそろ帰ろうかなー? ルスー! 飲み行こうなー?」
「……お供します!」
 挨拶もそこそこに、バタバタと去って行く騎士二人。
 どっと疲れた様子のヒューゴーが、お騒がせして大変申し訳ありませんでした、とカミロに丁寧に謝罪していた。副団長よりよっぽど大人である。


 
 帰りの馬車にて。
「レオナ様」
 ヒューゴーが、少し思い詰めたような顔で問う。
「どうしたの?」
「……今日のことは、余計でしたか……?」
 ルスラーンのことだ、とすぐに分かったレオナは
「ううん。むしろありがとう。気を遣わせてしまったわね」
 率直に礼を述べた。
「いえ……」
「ルスの奴、レオナからのご褒美が決まらなくて、悩んでいるみたいだね」
 フィリベルトが、微笑んで言う。
「無骨な男だから。女性から何かもらう、という発想がないらしい」
「まあ! 悩ませてしまっては、かえって申し訳ないですわ」
「気にするな、悩むのも楽しいものだ」
「……お兄様」
「ん?」
「私も街のお店を見て、何か贈り物を探したいですわ!」
「……なるほど」
「ヒューゴーお願い、今度一緒に来てくれる?」
「俺っすか!?」
「何が良いか相談に乗って欲しいの! 男性の意見を聞きたくて」
「……レオナ」
 フィリベルトが、なぜかこめかみを押さえている。
「だってお兄様はお忙しいでしょう? 制服ならそれほど目立ちませんし、ヒューゴーが一緒なら帰りは乗り合い馬車でも構いませんし。ね?」
 フィリベルトは、いや、うん、と言ったきり黙ってしまった。


 (俺、ルスラーン様にやられっかもっすね)
 (……そうだな……だがむしろ煽れ)
 (へ!?)
 (二人ともこの通り鈍感だからな)
 (……マジすか……)


 二人でボソボソ話しているようだが、レオナには馬車の車輪の音で聞こえなかったし、ワクワクしてそれどころではなかった。

 

 忘れないうちにと、レオナは帰ってすぐに、経済学のレポートにとりかかる。
 ルスラーンの挙げてくれた懸念点を、解決できるような良いモデルを作ることができたら……この王国でも生鮮品輸送ができるようになるかもしれない。
 問題は、途中の街で氷を調達できるか? だ。
 せめてドライアイスがあればな、と思う。二酸化炭素からできていることは分かっても、作り方までは分からず……加圧と気化熱だったような気はするが素人なので……この世界にあれば、画期的なんだけどなあと思いを馳せる。

 ふと前世、家族でバーベキューに行った時。
 父がクーラーボックスに入れるのは、板状の氷の方が溶けにくく、一日保つと言っていたことを思い出した。
 王都への途中で板氷を補給する販路を作れればあるいは……それなら貯氷庫はどうだろう? 北のダイモン領に年中氷ができる場所はないだろうか? 採氷も立派な仕事だ。それこそア●雪を思い出す。氷を切り出し、輸送ルートの貯氷庫に供給しながら運ぶ。貯氷庫を持つ街は、その氷を活用して、地産の生鮮品を別の地へ輸送できる。

 
 盗賊だって、イチゴや氷を盗んだところで儲けよりリスクの方が高いわよね! これってなかなか良いアイデアかもしれないわ!


 レポートは概略で終わらせて、あとでしっかりまとめて企画書にしたものを、フィリベルトに見てもらおう。美味しいイチゴが食べたいし、少しでもルスラーンのお役に立てれば嬉しい、とレオナはペンを軽快に走らせた。

 数日後、無事に姪が産まれたとシャルリーヌから連絡があり、懸念していた産後の肥立ちも問題なさそうなので、学院に登校すると手紙が届いた。ホッと一安心なレオナだが、それならシャルリーヌも街へ誘おうというわけで。
 

「……レオナ、あなたね……」
 早速食堂のカウンターで、ランチをしながら話すと、なぜか呆れられた。
「なんでヒューゴーを誘うのよ!」
 背後のテーブルで、多分ものすごく頷いている侍従兼護衛の気配がするが、レオナは理由がイマイチ分かっていなかった。
「え、だって、一緒に選んでくれるかなって……」
 シャルリーヌは周囲を見回して、最大限声を抑えて言う。
「普通に本人誘えばいいじゃない!」
「緊張しすぎて無理よ!」
「……はー、そう……そうよね……」
 シャルリーヌは、そう言ってこめかみを押さえている。
 先日のフィリベルトと全く同じポーズだなあ、とレオナはのほほんと考えてしまった。
「私が一緒ならまだマシかあ……はあ~もう」
 じゃあ今日の帰り少しだけね、と言ってくれた。

 

 やったー! シャル大好き。

 

「ヒューさん、どうしたんです?」
 心配そうなテオの声に
「……なんでもねー」
 ぶっきらぼうにランチをつつく。
「頭痛とかすか?」
 最近、やっと打ち解けてきたジンライにヒューゴーは
「ちょっと命の危険を感じててな」
 と答える。

 

 えっ、命の危険て何!?


 
「ヒューゴー!?」
 思わずレオナがテーブルを振り返ると
「冗談す」
 ははは~と力なく返された。
「いのち!?」
「それって、なんでもなくないですよね……?」
 テオとジンライは、顔を見合わせる。
 それ以上聞いても、ヒューゴーが何も言わないので、男子二人はハテナマークが消えないまま、ランチを食べ進めた。
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