【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている

卯崎瑛珠

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第一章 逮捕!? 釈放!! 新天地!!

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「泥棒!」
「……は?」
「あんたのことよ! 泥棒」

 
 ――はああああああああ!?
 こいつ、何言ってんの?


 酒場に入ってきた客たちが、「なんだ、なんだ?」と興味深々でこのやり取りを見ている。


「お店のお金、盗んでたでしょ」
「はあ!?」

 もちろん全く身に覚えがない。

「何を言ってるのよ!」

 思わずカウンターを振り返ると、マスターが悲しそうな顔をしている。
 まさか、このソフィの荒唐無稽な話を信じているとでも言うのか。
 
「じゃなきゃ、こんな高価もの、買えないじゃない?」

 じゃーん! とソフィが取り出して見せたのは――私の腕輪だ。

「ちょ!!」

 大切に、部屋の引き出しの奥のさらに奥にしまってあったソレを、なぜソフィが持っているのか!
 まさかこいつ、勝手に……!

「すっごーい、これ、宝石だよね?」

 金の土台に細かい装飾がされ、その模様に合わせてところどころに小さなダイヤ、サファイヤがはめ込まれていて、特徴は腕にはめると正面にくるようになっている、大きなルビーだ。その色は深い赤で、吸い込まれそうな魅力を放っている。――寂しいときに見つめると、慰められる。そんな、温かさも。

「それは! 私のよ! 返して!」
「だーめー。盗んだお金で買ったやつでしょ?」
「違う!」
 
 記憶喪失で、漁師の老夫婦に拾ってもらった時に、腕に着けていたもの。
 私が唯一持っている、自分の身元につながりそうな手がかりなのだ。

「もともと私の!」
「そんなわけないじゃーん! 親なし、家無し子のくせに」
「っっ」

 どんな侮蔑も、言ってもらってかまわない。ただ、返して欲しい。

「いいから返してっ」
「無駄無駄、警備隊呼んだからなー」
「捕まっちゃうね、かわいそうに」
 

 食堂の客が、勝手に動いた。――いや違う、これは、だ。
 ソフィめ、私の部屋を漁って金目のものを見つけて、奪おうと……


「泥棒だってよお」
「……キーラってそんな子だったんだ」
「明るくていい子だと思ってたのになあ」
「残念」


 何も知らないくせに! なんで勝手にそんなことが言えるの!


「……こちらから通報されたのだが?」
 やがて警備隊の二人組が、店に入ってきた。
 ソフィが、にやあ、とわらう。


 ――ああ、私の人生も、これまでかあ……


 気持ちの糸が、ぷつんと切れてしまった。
 親なし、家無し。何度罵られても、踏ん張って生きてきたんだけど。
 こんな、あっけない。

 警備隊のおじさんは、よく朝ご飯を食べに来てくれる人だった。
 とっても悲しい顔をして、私の肘に手を添える。

「とにかく、屯所とんしょで話を聞くから」


 無言で、従った。
 
 
 
 ◇ ◇ ◇



 屯所には、見知った顔がたくさんいる。
 みんな、夜勤明けに食堂へ食べに来てくれるからだ。

「えっ、キーラちゃん?」
「どうし……」

 絶句されるのが、キツイ。

 石造りの頑丈な建物の中に、狭い部屋があり、そこに通された。
 古くて汚い木の机と、今にも壊れそうなぎしぎし鳴る木の椅子。ろうがこびりついた鉄皿の上に、短くドロドロになった、蝋燭ろうそくが一本。
 なにもかもが、傷だらけだ。私の心みたい。

 じじ、と蠟燭が鳴る。暗い。すごく暗い。

 促されて座ると、自然と首が垂れてしまう。
 何も悪いことはしていない。毎日まじめに一生懸命、働いてきた。
 なのに、親なし、家無しってだけで『浅ましい』と見られてしまうのだな……

 こういうのを、諦観ていかんというのだろうか。

 連行してきたおじさんが、向かいに座って渋い顔をした。
 
「ええと、お店の金を長い間着服していて、それで腕輪を買ったと、そう届け出がされている」
「違います」

 顔を上げ、きっぱりと否定した。

「だが、マスターも金がなくなっていると、届け出ている」
 

 ――ソフィめ、店のお金に手を付けていたのか!

 
「私ではありません」
「では、あの腕輪は?」
「もともと私のものです。返してください」
「それを証明できる人は?」
「亡くなりました」

 あんなもの、見せたら盗られるに決まっている。
 亡くなった老夫婦以外に、見せるわけない。
 
「……残念だけど、取り調べが終わるまでは、牢に入ってもらわないといけない」
 
 おじさんは努めて冷静を装っているけれど、少しだけ声が震えていた。それはそうだろう。毎日のように顔を合わせていたんだから。
 それだけでも、少し心が救われた。

「私は無実です。でもそういう決まりなら、入ります」
 

 連れて行かれたのは、部屋から出てすぐの場所だった。
 申し訳程度に藁が敷かれている、石畳みの部屋。鉄さびが浮いた格子の、まさに檻。


「お手洗いは……」
「……」

 無言で牢の隅の木桶らしきものを、指さされた。

 
 ――何もないよりは、マシかな。


 エプロンしたままで良かったな、なんて現実逃避的に考えてしまう。
 目隠しになるもんね、なんて。
 

 ――あーあ。私が一体何したって言うんだろう。



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 お読み頂き、ありがとうございます!
 明日も同じ時間に更新いたします! どうぞお楽しみに♪
 
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