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第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!

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 手が震える。これが重いから。重いからだよ。

「ほら。ぐひゃひゃ! ……つっかまーえたあ」

 がし、と手首を捕まえられた。

「いやぁっ、はなしてえええ! うああああああ!!」

 叫びながら、精一杯力を込めて武器を振り回す。

「いでっ、くそっ、こら、おとなしく」
 
 腐っても元騎士。
 普通なら私の力なんかでよろめきはしないだろうけれども、アーチーは酔っぱらっているせいか、多少はぐらぐらと翻弄されてくれた。

「はなして!」
「って言われて、はなすやつはいねえよお~」

 緊張感のない間延びした声が、余計に恐怖を掻き立てる。
 正気ではないからだ。

「やめて! はなして! っ、はなせえええええ!」
「うるっせ。どうせこんなとこ、誰も来ねえぜえ~げひゃひゃひゃ」

 気づくとアーチーは手首ではなく、武器の柄を持ってぐいぐいと押し付けてきた。

「いたいっ!」
「ひゃっひゃっひゃ! 押し返せねーだろお」

 力負けして、壁に背中がついたのが分かった。
 臭い息が覆いかぶさって、とん、とアーチーの拳骨が、胸の真ん中に突き刺さった。

「おぉ!? 期待してなかったけど結構おっぱいあんじゃねえか! ひゃはー!」
「っ」

 吐き気がする。
 誰か、誰か、誰か!

 
「レナートさまああああああああ!! いやああああああ!!」
「ぎゃっひゃっひゃ!」

 
 ――ドン!

 
「!?」

 突然大きな音が、扉の方からした。
 二人してそちらに顔を向ける。
 

 ――ドンドン!
 

 扉が、波打った。

「あ!?」

 だれか、きた?
 ――ハッとする。声を。声を出さなくちゃ。
 
「た、たす、たすけてええええ!」
「くそ、だまれだまっ」


 ドカドカ、バキッ、ドドン! ――バタン。


 しゅうう、もうもう。


 私はその時、アーチーによって壁に押し付けられていた。
 一生懸命身をよじるけれど、振り解けない。
 必死に首を伸ばして扉の方を見ると――夕日を背負った黒い大きな人影が見えた。


「う、うそだろ……」
 
 アーチーの動きが、驚きで固まった。
 その人物は無言でのしのしと入ってきたかと思うと、すう、と私の頭上で大きく息を吸って。
 

 ぶおん……がぱっ!
 

 ――アーチーの横顔を無言で殴った。


 へぎゃ、とカエルがつぶれたような声で、そのだらしない身体が吹っ飛ぶ。これは、現実?
 
「キーラ」

 ああでも。その優しく低く安心する声は、間違いなく。

「あ……だんちょ?」
「無事か」
「ぶじいいいぃ」
「っ、よかった」

 レナートだ! 来てくれた!

 ぐい、と力強く腕を引っ張られて、さらに背中にかばってくれてからレナートは、冷たい声で告げる。

「アーチー、わかっているのか? もうただでは済まされない」

 げひゃひゃ、いでええ! とアーチーはふらふら立ち上がり、下衆な笑いを浮かべる。口角からは血が混じったヨダレが垂れ、うまく話せない。
 
「はあ? は(た)かが平民ひほ(と)り、はいしらころないらろ(大したことないだろ)」
「……ここは騎士団だ。すべては俺の采配下にある」
「ふひ」
「取り調べる。吐いてもらうぞ。貴様を招き入れた奴を」
「けひゃっ」

 バタバタと足音が近づいてくる。
 何人もの騎士団員たちが、廊下を走ってきているのが分かって、ようやく私は肩から力を抜くことができた。

「うわ」
「まさかアーチー、か?」
「……情けねえ」

 駆けつけた騎士たちに、牢へ放り込めと指示するレナート。アーチーは、なぜかゲラゲラ笑いながらそれに素直に従う。私は、レナートの騎士服の裾をぎゅっと握りしめる。

「キーラ、怪我は」

 ぶんぶんと頭を振ることでしか、返事ができない。

「ひとまず団長室へ」

 頷いて一歩踏み出したら、膝から崩れ落ちた。

「っ、キーラ!」
「……(ふるふる)」

 身体に全く力が入らない。手がぶるぶる震えていて、止めることもできない。手のひらにじゃり、とついた砂埃を払うことすら……
 
 レナートがすぐ側に膝を突いて、顔を覗き込んでくれる。
「……怖かったな。怪我はないか?」
「(こくこく)」
「そうか。……抱き上げてもいいか?」

 びく、と身体が震えた。
 途端にレナートが、自分が大怪我を負ったみたいな顔をする。

「怖いことはしない。絶対になにもしないと誓う。運ぶだけだ」

 ――頷いたら、優しくそっと横抱きで持ち上げてくれ、レナートの匂いがして……

「こわ、かっ」

 ぼたぼたと涙が溢れてきた。
 またレナートの騎士服を汚すのは嫌だから、一生懸命袖口で拭いたけれど、やっぱり少し濡らしてしまった。

「ごべんださい」
「っ、謝るな。謝るのは、俺の方だ」

 なんでレナートが謝るの?

「俺のせいだ……クソッ……まさか本当にキーラに手を出すとは」

 そういえば、来たばかりの頃、言っていた。

『俺のことが気に入らない。だが俺には手を出せない。代わりに……とかな』
 
 ぎりぎりと食いしばるレナートの頬が痛々しくて、団長室に着くまで、涙を拭きながらぼうっとそれを眺めていた――



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お読み頂き、ありがとうございます。
レナート、間に合いましたー!
 
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