【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている

卯崎瑛珠

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第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!

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「確認したい書類があったんだが、お茶の時間が終わっても戻って来ないから、心配で探した」

 団長室のソファの上に、私をそっと下ろしながら、レナートが話しを始めた。

「演習場にいた連中が、ひょっとしたら武器庫かもと」

 そしてはあ、と大きく息を吐いてから、
「廊下を歩いて行くのを見た者もいてな。嫌な予感がして、慌てて向かったのだ」
 と教えてくれた。
「嫌な予感……?」
「そうだ。なにやら皆、言い辛そうな態度でな。そのうちの何人かがこそりと教えてくれた」

 私は、はた、と思い当たる。

「あの……私、ルイス隊長にお尋ねしたんです」
「ルイスに?」
「ええ。ロラン様はどこかと。そしたら、武器庫って」
「……」

 レナートの眉間の皺が深まった。

「ロランが武器庫に行くわけがないことは、ルイスも良く知っているはずだ」
「え……?」
「あいつは前から、暗い場所と埃が苦手だ。用があれば部下に頼む」

 武器庫は、まさにそんな場所だ。
 
「嘘、だった、んですね」
「恐らくは。こうなった以上、ルイスも尋問する」
「何も話さないのでは」
「……」
「あの。わざと聞かないでおきませんか」
「なぜだ」
「これは、『失敗』ですよね?」

 自分で言って、身体が震えてくる。

「キーラ、何を」
「目的、知りたいです。私を排除するだけにしては、手がこんでいると思いませんか?」

 レナートが目を見開いた。

おとりになると。そう言うのか?」
「……はい」
「それはダメだ。危険だし、俺が嫌だ」
「団長?」

 レナートらしくない。
 原因究明のためには、多少の無理もする人だと思っていた。

「とにかくその件は保留だ。……アーチーの聴取をしてから決めよう」

 確かに、アーチーが何か話すかもしれないなと考え直した。
 
「分かりました」
「今日は帰っても良い」

 ――ひとりになるのは。

「ここにいても、良い」
「います。確認したい書類って?」
「あ、ああ」
「お茶、淹れてきます」
「ありがとう」

 レナートは何か言いたそうだったけれど、口をつぐんでくれた。

 ロランが青ざめた顔で団長室へ来てくれた時には、お茶の香りが部屋いっぱいに漂っていた――



 ◇ ◇ ◇



「僕は、巡回任務の騎士に体調不良で欠員が出たから、急きょ外に出ていて――今戻ったところだ。ルイスに申し送りしたはずなんだけど」
「そのルイスが、『ロランは武器庫に行くと言っていた』とキーラに言ったそうだ」

 ロランが、団長室ソファで姿勢よく座り、向かいのレナートに状況を説明しているのを、私はその隣で聞こうとしたけれど……思い直して、自席に着いた。念のため、話したことをそのまま書いて記録する。

「ルイスが? なぜそんなことを」
「わからん」
「っ、僕が問い詰める」
「いや。ロランは、反団長派だろう。メイドを取られた挙句そのメイドを庇ったら、行動に矛盾が出るぞ」
「く……そっか……キーラ、ごめん。僕はまた君を危険な目に」
「……」
「キーラ?」
「あ、えっと」

 頭がぼうっとする。
 二人の視線が注がれているのは認識できても、うまく思考できない。

「……レナート、あとの仕事は僕が引き受けるよ」
「すまん。決裁は済ませてある。アーチーを収監した書類だけ作ってくれれば、今日のところは大丈夫だ」
「わかった」
「頼む。さあキーラ、帰ろう」
「へ? あ、いえ、怪我してないですよ。元気です」
「俺が疲れた。もう夜になるし、今日は終わりにしよう。だめか?」
「いえ。では、片付けてきますね」
 
 ティーカップを片付けて、キッチンで手早く洗う間に、レナートは帰り支度を済ませてくれていた。

「あとは任せて。キーラ、ゆっくり休んで」

 ロランが見送ってくれたけれど、なんて挨拶したのか、覚えていない。


「キーラ、馬車を使おう」
「歩けますよ」
「俺が疲れたんだ」
「……はい」

 騎士団本部に常に用意されている馬車に、タウンハウスまで送ってもらう。

「隣に座っても良いか?」
「はい」

 並んで座るのは初めてで、レナートの逞しい二の腕が、揺れる度に触れてドキドキした。
 ――触りたくなる、温かいぬくもり。

 さっきは、隣に座ったロランのことすら、少し怖くて身構えた自分に自己嫌悪した。
 けれども、レナートは平気。
 こうして肩に頭を預けても、全然嫌じゃないし、怖くない。
 レナートは、優しい。全部私のためって分かっている。黙って私のしたいようにさせてくれる。


 ――ごめんなさい、レナート。わたし、汚れてるのに……


 身体中にまとった砂埃の感触、すえた体臭、酒臭い息、いやらしい声。
 全てが自分にべったりこびりついているみたいで、早くお風呂に入りたかった。
 
 
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